2023年1月6日金曜日

山崎裕侍、長沢祐(たすく) ころから『ヤジと民主主義』 捏造警察・警官と事実を語るビデオ・原告・裁判長との対照表

 

捏造警察・警官と事実を語るビデオ・原告・裁判長との対照表

 

 

警察・警官の主張

ビデオ、原告の主張、裁判長の判決

大杉さんの場合

 

警官B「大声は止めてください、叫ばないで」と警告した。104

118 警官・角田武士「ヤジを飛ばすこと自体は自由だと確認していた。」「警察官が特定の意見を表明しただけの人を規制することはあり得ません。」

警察は表向きは公選法違反ではないとしながら、実際は公選法違反として対応している。

警官は大杉さんに「演説しているとき、それを邪魔しちゃダメだよ。」「演説しているから。選挙の自由を妨害するようなことになっちゃう」「ここで言うのはおかしくない?」032

大杉さんの周囲の人から大杉さんに対して「おまえが帰れ」「うるさい」と怒号が上がり、周囲が騒然となった。103

ビデオではそのような怒号は聞こえなかった。実際、大杉さんが声を上げてから警官が大杉さんの腕や肩をつかむまでの時間はわずか10秒しかなかった。143

大杉さん「周りの聴衆とトラブルになる可能性のある状況ではなかった。」127

129 「おまえが帰れ」と聴衆が言っていたという証言が警官からあったが、桐島さと子さんは「その声を聞いていない」と証言した。

大杉さんの左側の人が「黙れ」と言わんばかりに腕を伸ばし、拳で大杉さんの左腕を押し、大杉さんがよろけた。警官Aは押した男に「危ないですよ、やめてください」と警告し、大杉さんと聴衆との間に割って入ろうとしたが、その時大杉さんの左側の聴衆が大杉さんの左腕を押した。103, 104

144 この短時間の間に大杉さんと聴衆との間で騒然となり小競り合いが生じたようにはうかがえない。

大杉さんが「待て」という大きな声を出して(安倍晋三に向かって)走ってきたので、警官Eは「止まれ」と警告した。104

127 横断歩道を渡り切る前に安倍の街宣車に向かって走り出したのは、近いところで声を届けるためだった。(大杉さん)

 この件に関して裁判長は警職法第5条を適用し、「警官が、大杉さんが体当たりやその他の暴行をしたり、安倍や関係者に物を投げたりするおそれを抱いたとしても、不自然ではない」とした。

105 警官は大杉さんの右手を抑えた。大杉さんの腰や背中に手を当てて安倍から遠ざけるように南方向に移動を促した。大杉さんを押して移動させた。

144 被害者であるはずの大杉さんの肩や腕をつかみ、強制的に移動させた。

105 大杉さんは安倍に向かって物を投げるとか、ポケットや肩掛けバッグから凶器などを取り出す危険性があるなど危険な人物である。

 

107 大杉さんが聴衆に暴行・傷害を及ぼす恐れがあった。大杉さんの犯罪を制止するために必要最小限の「有形力」を用いて移動させた警官の措置は適法である。

127 大杉さん「『危ないから』『あんなにダッシュ見せられたら、危ないことをしないと言っても信じられない』みたいなことを言われただけだった。四条、五条の話は全く出ていなかった。」

114 大杉さんが物を投げたり発射する、液体やつばをかける、光線を照射する、大音響を鳴らす、爆発物を爆破させるなどの行為をする危険性が高いと警官が認めた。

 

桃井さんの場合

 

108 前方には自民党支持者が密集していたが、桃井さんはその聴衆に向かって「前進」した。

 樋口警官「桃井さんが聴衆のいる前方に向かった。」

 周囲の聴衆が桃井さんに注目し、桃井さんを見ながら離れていく女性がいた。

女性警官は桃井さんの腰に手を当てて「どうしたの」「落ち着いて」と声をかけた。109

109 警官は桃井さんの肩や腰付近に手を添えて、聴衆エリア後方の北方向に移動を促した。

警官は転倒事故や桃井さんと自民党支持者との間で揉め事が発生する危険を感じた。

桃井さんは警官に押し下げられたから元の位置に戻ろうとした。128

 

 

警官は桃井さんの肩や腕をつかんだ

「どうしたの」「落ち着いて」などと言っていない。133, 145

025 その後さらに大勢の警官が集まり、桃井さんを取り囲み、桃井さんの両脇を抱えながら引きずるように連れて行く。その時桃井さんは腕を組まれ、前に立ちふさがれた。

警官「さっき約束してって言ったじゃん?声上げないでくれよ~って」

146 警官「だっていきなり声上げたじゃーん」「急に大声上げたじゃん」「聞きたいこと聞けなくなっちゃうっしょ、ね」

133 桃井さんが札幌駅南口広場の南側に行かないように両腕に手を回して引き留めた。

4人の警官が駆け付け、揉め事から発展して暴行や傷害などの犯罪行為の発生を予防すべく桃井さんの前方に立って桃井さんと聴衆との衝突を防止した。109

 

109 周囲の聴衆の中には、怪訝そうな顔で桃井さんを見る人、にらみつける人、手で耳をふさぐ人、「うるせえ」「やめろ」という声を上げる人などがいて、桃井さんに嫌悪感を懐いていた。

129 中雅子さん「桃井さんが声を上げた時に周りの聴衆とトラブルになるようには見えなかった、桃井さんに文句を言うような人は見えなかった。」

135 動画でも騒然とした状態ではなかった。

109, 124 警官は桃井さんに「警職法が根拠だ」と言った。

そのようなことは言っていない。

110 警官もいったん建物(TSUTAYA)の中に入ったが、桃井さんから「店の中までついて来るのか」と確認されたため、外で待機した。

 

110 しかし南方向には安倍が演説をする札幌三越があり、再び桃井さんが「危険な行動」をとる可能性があり、警官は桃井さんを説得した。

警官は桃井さんが札幌三越の演説場所で再び危険な行動に出て、聴衆と揉め事を起こす可能性が高いと認め、桃井さんを停止させて職務質問を行う必要があった。

124 樋口智子・警部補「桃井さんが他の演説会場でも聴衆の中で大声で叫んだりして、転倒事故や暴行事件が発生するような危険な行動に出ないように、さらには安倍に直接言いたいという発言があったので、安倍に危害を加えるような危険な行動に及ばないように説得する必要があった。」

030 桃井さんは店を出て南に進むが、二人の警官はついて来る。そして時に腕を組み、時に前に立ちふさがりながら、ついて来る。このつきまとい行為は桃井さんがタクシーをひろうまで1時間に及んだ。

 

ヤジと民主主義 北海道放送 山崎裕侍、長沢祐(たすく) ころから 2022.11.7

ヤジと民主主義 北海道放送 山崎裕侍、長沢祐(たすく) ころから 2022.11.7

 

 

感想 2022122()

 

安倍晋三に対するヤジの排除を合理化するための、警職法第四条と第五条に関する警察の解釈102--108を読んでいて、下らないと思った。何とでも言える。捏造だ。だから冤罪は起こる。

 

時代の流れを変える力では法律論よりもデモやネットの声の方が大きいと思う。弁護士や検察官や裁判官の法律用語よりも民衆の言葉の方が力があると思う。法律家は民衆の力に動かされてから法律を作る。

 

統一教会関連の法律作成においても被害者二世の声は大きいと思う。杉田水脈が遂にマイノリティーや民族に対する差別発言の撤回・謝罪に追い込まれたのも、民衆の力、時代の力、時代の潮流ではないか。また中国の鉄壁と思われていた習近平のゼロコロナ政策が緩められつつあるのも民衆の大きな声、そのデモの力ではないか。

 

 

 

・警察の言葉を信用するな、嘘八百である。以下その例を示す。2022125()

 

102 大杉雅栄さんに関して警職法4条や5条が適用できるという警察の言い分を以下に示す。

 

JR札幌駅南口前

 

大杉さんがいた場所は(警察が指定した)「聴衆エリア」ではなく、安倍晋三の街宣車から道路を挟んだ所(歩道)で、そこにはカメラを持った自民党関係者や、「安倍総理を支持します」というプラカードを持った自民党支持者が「滞留」していた。*歩道上で聴衆が「滞留」すると歩行者の通行の妨げになり将棋倒しになって事故になるから、(聴衆に対して)聴衆エリアへの移動を促していたが、聴衆は増える一方だった。

 

*この文章によれば、「安倍総理を支持します」というプラカードを持った自民党支持者がいた場所は、大杉さんがいた、安倍晋三の街宣車から道路を挟んだ歩道のように思われるが、実際は「『安倍総理を支持します』というプラカードを持ったたくさんの自民党支持者が最前列に陣取り、人垣ができていた」と筆者山崎裕侍は書いている。213

 

103 制服や私服の警官は大杉さんを含めた3(どうして3人だけか、自民関係者には移動を求めないのか)に再三(聴衆エリアor後方への*)移動を求めたが、「(聴衆エリアには*)他の人がいるから動かない」「周りが動いたら動いてやる」「後ろの方へ行ったら総理の声が聞こえなくなる」など、非協力的な態度で移動に応じなかった。

 

*この文章では(前方の)聴衆エリアなのか後方なのか曖昧である。実際は後方なのだろう。

 

 大杉さんが「安倍やめろ」「帰れ」と罵声を上げて連呼したところ、周りの聴衆が「おまえが帰れ」「うるさい」と怒号が上がり周囲は騒然となった。(これは嘘で作り話だった。大杉さんと大杉さん拘束との時間差はほんの数秒に過ぎなかった!134

 警官Aはこの状況が続けば自民支持の聴衆と大杉さんとの間で揉め事が発生する危険を感じた。(その時)大杉さんの左側の人が黙れと言わんばかりに腕を伸ばし、拳で大杉さんの左腕を押し大杉さんがよろけたことを確認した。(これも嘘だった。これは大杉さん拘束時の警官らの行動ではないか。)警官Aはこのままだと聴衆と大杉さんとの間で暴行や傷害事件が発生し、周りの聴衆も巻き込まれてけがをする危険性が高いと判断し、押した男に「危ないですよ、やめてください」と警告した。(これも嘘で作り話)

104 警官Aはこのとき聴衆らが大杉さんに暴行するなどの犯罪が起こる危険性が迫っていると判断し、大杉さんと「聴衆」との間に割って入ろうとしたが、その時再び大杉さんの左側の聴衆が大杉さんの左腕を押すのを見た。(これも作り話)

 

 大杉さんから「2列」後方にいた警官Bは、「罵声」を上げたのは大杉さんだとすぐ確認できた。というのは(大杉さんが後方へのそれとも聴衆エリアへの*)移動に非協力的だったからだ。警官Bが「大声は止めてください、叫ばないで」と警告したが、大杉さんはそれを無視した。さらに興奮状態で「安倍やめろ」などと叫び続けたので、周囲の聴衆と揉め事になると判断し、大杉さんを聴衆の中から遠ざけるように東方向に移動させた

 

*上記同様曖昧。

 

 警官が大杉さんを移動させた後、大杉さんは横断歩道を南に向かって進んだが、横断歩道を渡り終える直前に大杉さんは、安倍晋三の街宣車がある西方向に突進(走り出)した。

105 警護警備していた警官Eは、「待て」という大きな声を出して走って来る大杉さん(「待て」などの発声はウソに違いない。127)を確認した。(警官Eは)安倍総理や周囲に危険をもたらす恐れが極めて高いと判断して「止まれ」と警告したが、大杉さんが速度を緩めなかったので、正面から抱き止めて制止させた。

 

 

 

 

 

105 三越前の大杉さんについての警察の言い分(準備書面)

 

 安倍の街宣車後方から「安倍やめろ」「馬鹿野郎」と大声を上げた大杉さんが安倍から3メートルと近いところにいたので、物を投げるなどの行為があれば安倍や候補者に危害が及ぶ恐れが高く、直ちに制止する必要があると警官は判断し、大杉さんに駆け寄った。大杉さんがJR札幌駅前で「安倍やめろ」と声を上げた人物に似ていて同一人物の可能性が高く危険な人物だと警官は認識していた。

 大杉さんが(口元から)右手を下げた時、ポケットや肩掛けバッグから凶器などを取り出す危険性があるから、大杉さんの右手を抑えた。警官は大杉さんに「ちょっとすみません、あちらへ」と言い、二人がかりで大杉さんの腰や背中に手を当てて安倍から遠ざけるように南方向に移動を促したが、大杉さんが止まろうとしたので、大杉さんを押して移動させた

 

 

114 札幌三越前での大杉さんに関する警察の主張

 

 大杉さんが物を投げたり発射する、液体やつばをかける、光線を照射する、大音響を鳴らす、爆発物を爆破させるなどの行為をする危険性が高いと警官が認めた。

 

 

106 道警側の主張 この時の参院選における他地方での警護警備に関する情況

 

77日、JR中野駅前で自民候補が街頭演説中に某女性が安倍に抗議したところ、某聴衆がその女性を撮影しようとした。女性はその聴衆のスマホを取り上げて地面にたたきつけ、器物損壊で現行犯逮捕された。

710日、仙台市青葉区で男性が候補者の胸を押し、公職選挙法違反で逮捕された。

712日、札幌市中央区で男性が路上で選挙運動者に空き缶を何度も投げつけ、公職選挙法違反で現行犯逮捕された。

 

 

大杉さんに関して警職法第四条「危害が加えられそうな人を緊急避難させる」に関する道警の言い分。

 

107 大杉さんの周囲には多数の自民党支持者がいて、安倍に批判的な声を上げた大杉さんとの間で「危険な事態」になることが明白だった。(作り話らしい)「大杉さんを拳で押した男性」は凶器になり得る自撮り棒を持っていた。その近くに映像機器を持っている人や脚立で撮影している人がいて、「揉め事が起これば」これらの人がけがをする恐れがあった。

だから直ちに大杉さんを聴衆から避難させなければ、危害を回避することができなかった。警官は警職法第四条の「特に急を要する場合」にあたると判断した。

 

警職法第五条「犯罪の予防と制止」の観点からは

 

大杉さんは再三の移動の呼びかけを非協力的で拒否し、声を上げ続けた。大杉さんと周囲の聴衆が興奮状態になり、大杉さんが聴衆に暴行・傷害を及ぼす恐れがあった。大杉さんは警察官の警告を無視し、任意の活動では大杉さんの犯罪を防止できないほど切迫していた。警職法第五条「急を要する 場合」の要件を満たしていた。大杉さんの犯罪を制止するために必要最小限の「有形力」を用いて移動させた警官の措置は適法である。

 

108 大杉さんは街宣車に向かって走り出したが、これは「異常な行動」であり、もし街宣車まで到達すれば、警護対象者に対する危害の発生を防止することができなかった。

 

 

 

警察側の主張 桃井さんの場合

 

桃井さんは札幌駅前の聴衆エリアにいた。周りには安倍歓迎の横断幕が掲げられ、日の丸の小旗を持った人が多く集まりっていた。警官は街宣車の5メートル前で「街宣車に注目していない女性」を発見した。桃井さんは「増税反対」「自民党反対」と声を上げた。前方には自民党支持者が密集していたが、桃井さんはその聴衆に向かって「前進」した。(これは捏造で、実際は警官に後ろに下げられたので元に戻ろうとしたにすぎない)周囲の聴衆が桃井さんに注目し、桃井さんを見ながら離れていく女性がいたので、警官は「何らかの事案が発生した」と考えた。

 桃井さんは「全身を震わせながら興奮した状態で」叫んだ。

109 女性警官は桃井さんの腰に手を当てて「どうしたの」「落ち着いて」と声をかけた(ビデオを見る限り噓っぽい。警官は明らかに強引に桃井さんを移動させていた。実際、肩や腕をつかんでいた。144そして「どうしたの」「落ち着いて」という発言はビデオに録音されていない。145)が、桃井さんは無視した。「後ろで話をしよう」と説得し、桃井さんの肩や腰付近に手を添えて、聴衆エリア後方の北方向に移動を促した。桃井さんは興奮が収まらず、警官はこのまま桃井さんを放置すれば転倒事故自民党支持者との間で揉め事が発生する危険を感じた。

 その後4人の警官が駆け付け、揉め事から発展して暴行や傷害などの犯罪行為の発生を予防すべく桃井さんの前方に立って桃井さんと聴衆との衝突を防止した。(嘘っぽい)周囲の聴衆の中には、怪訝そうな顔で桃井さんを見る人、にらみつける人、手で耳をふさぐ人、「うるせえ」「やめろ」という声を上げる人などがいて、桃井さんに嫌悪感を懐いていた。(作文)

 周囲の聴衆との間で揉め事になることは必至であり、暴行・傷害などの犯罪が発生する危険が切迫していて自民党支持者など意見の異なる聴衆との切迫した危険を回避するために、直ちに桃井さんを避難させなければ危害を回避できない「特に急を要する場合」であった。警職法第四条を満たしている。

 桃井さんは「声を上げただけで囲まれるっておかしくないですか」と質問したが、警官は「警職法に基く行為だ」と説明した。(これも嘘)桃井さんは「何で止められなきゃいけないんですか」と納得しなかった。

 

110 警職法第五条に関しては、興奮状態で絶叫しながら警官の警告を無視して聴衆の方に向かおうとし、激高して聴衆に攻撃を加える可能性があったため「犯罪がまさに行われようとする」「急を要する場合」の二つの要件を満たしている。

 

 桃井さんに対するつきまとい行為に関しては、

 

 桃井さんは聴衆エリアの西方向のTSUTAYA札幌駅西口店に入った。警官もいったん建物の中に入ったが、桃井さんから「店の中までついて来るのか」と確認されたため、外で待機した。店を出た桃井さんは「大通りのTSTAYAに行きたい」と警官に話して南方向に歩き出した。しかし南方向には安倍が演説をする札幌三越があり、警官は再び桃井さんが「危険な行動」をとる可能性があり、説得した。桃井さんは移動中顔を赤くして段段早口になり、言葉が詰まって過呼吸のように息苦しそうな様子だったので、警官は桃井さんを休憩させるために「どっか座るか」「何か飲む?」「ジュース買ってあげる」と話した。警官は桃井さんが札幌三越の演説場所で再び危険な行動に出て、聴衆と揉め事を起こす可能性が高いと認め、桃井さんを停止させて職務質問を行う必要があった。(予防拘禁か)

 

 

 

三人の警官の証人尋問

 

 

118 警官・角田武士は「大杉さんが聴衆に危害を加える可能性もあった」と述べ、「今回の危険な状況は大杉さんの行動が原因だから、大杉さん一人を移動させることが最善の措置だったと考えている。」

警備方針については、「警察と自民党との打ち合わせ結果について指示を受けていた。」「ヤジを飛ばすこと自体は自由だと確認していた。」「警察官が特定の意見を表明しただけの人を規制することはあり得ません。」(だったらなぜ規制したのか。)

 

119 三越前で警備していた警官・大庭翔平「大杉さんが通行人の中から手を振りながら近づいてきた。」「大杉さんと街宣車との距離は3メートルで、大杉さんが安倍に向かって立ち入り制限区域内に入って街宣車に近づいて危害を及ぼす危険性があると認めた」(実際は制限区域に入っていないのでは。)

「ポケットやバッグの中から投擲物を取り出し、安倍に向かって投げつけたり、さらには刃物やナイフなどの凶器を取り出す危険性を認めた。」(あくまでも主観的な危険性)

「大杉さんの右手を抑えて制止した。」「大杉さんは手に何も持っていなかったが、万が一何か持っていたら最悪な事態になっていた。」大杉さんに警告せずに*制止した理由は「瞬間的な出来事であり、安倍と大杉さんとの距離が3メートルと極めて近く、警告する時間的余裕がなかった。」「私の右手を大杉さんの腰部分に当てて『ちょっとすみません、あちらへ』と移動を促した。」

 

*前掲では「止まれ」と言ったとある。

 

「ヤジを飛ばす人がいるかもしれないということは想定していなかった。」「2017年の東京都議選での秋葉原での安倍に対するヤジ事件については知らない。」

ヤジを飛ばすことが憲法で保障されている行為であると認識していたかについてはノーコメント。それではヤジに対応できないではないかとの問いに直接には答えず、「私の行為は適法だった。」

警官・大庭翔平は、大杉さんが右手に凶器を持っているかもしれないと心配していたのに「確認しなかった」とし、大杉さんが何も凶器を持っていないのに「警職法第五条の制止の要件を満たしている」と主張した。その理由として「さらに何か取り出して投げつける可能性があった」と言う。

 

 

 

123 桃井さんとの関係で樋口智子警部補の証言

 

桃井さんが声を上げると、周囲の女性聴衆が「ええ」と言いながら離れていき複数の男性聴衆が眉間(みけん)にしわを寄せて桃井さんをにらみつけた。桃井さんの腰に手を当てて「どうしたの、落ち着いて」と声をかけたが、桃井さんは私を無視して叫び、密集する聴衆の方へ進み続けた。(これは嘘。桃井さんは警官に移動させられたので、元の位置に戻ろうとしただけ。)桃井さんは全身を震わせ、絶叫しながら、一度かがみこんで伸びあがるようにして、前方へ進み続けた

124 桃井さんを移動させる必要は、警告に応じず危険な行動をとり続けたので、直ちに制止して移動を促さなければ、現場の危険を回避できないと思ったからだ。

 

 桃井さんがTSUTAYA札幌駅西口店やTSUTAYA札幌大通店などに向かう際に樋口は女性巡査部長と共に桃井さんにつきまとった。

 

TSUTAYA札幌駅西口店までつきまとった理由は、桃井さんが他の演説会場でも聴衆の中で大声で叫んだりして、転倒事故や暴行事件が発生するような危険な行動に出ないように、さらには安倍に直接言いたいという発言があったので、安倍に危害を加えるような危険な行動に及ばないように説得する必要があった。桃井さんに「総理に直接言いたいんだ。なんでなんだ。声を出しただけで囲まれるっておかしくないですか」などと言われたが、私は桃井さんが「聴衆の中で大声で叫んだことによって、周りの聴衆が驚き、危険な状況が発生していたから、あなたを制止したんだよ」というようなことを何度も説明した。警職法についても説明した(嘘)、と述べた。

 

125 その後TSUTAYA大通店までつきまとった理由については、桃井さんが帰るといっていた自宅は西方向なのに、南の方向に向かったので、自宅に帰るつもりはないのだと思った。

 

 桃井さんのスマホのビデオには「ウインウインの関係になりたい」「ジュース買ってあげる」と録画されており、原告弁護人がその点を問いただした。

 

 当初樋口警官は「ウインウインの関係は私が話したのではないのでその意味は分からない」とウソをついていたが、樋口が同意していることを原告弁護人に指摘されると、「2年前のことで忘れてしまった。」

 

126 「ジュースを買ってあげるよ」と発言したのは、桃井さんが興奮状態で、早口になり、急に黙ったり、非常に赤い顔をしていたし、過呼吸になる恐れがあった。熱中症の恐れもあった。何か一度落ち着いて話したいと思った」と述べた。

 

 

 

127 原告側証人尋問9/10には、大杉さん、大杉さんのそばで動画を撮影していた桐島さと子さん、桃井さん、桃井さんの近くで排除行為を目撃していた中雅子さんの4人が出廷した。

 

大杉さんへの証人尋問

 

大杉さんは当時の状況について、「周りの聴衆とトラブルになる可能性のある状況ではなかった。」横断歩道を渡り切る前に安倍の街宣車に向かって走り出したのは、「近いところで声を届けるためだった」と答えた。

道警側の弁護人が「その場で警官が警職法第四条や第五条を満たすからあなたに「有形力」を行使すると説明があったか」に対して、大杉さんは「『危ないから』『あんなにダッシュ見せられたら、危ないことをしないと言っても信じられない』みたいなことを言われただけだった。四条、五条の話は全く出ていなかった」と答えた。

 

128 桃井さんへの証人尋問

 

 桃井さんは「増税反対」の声を上げた理由として、その年の10月から上がることになっていた消費税では、お金持ちにも貧乏人にも一律に同じ税金がかかって不公平であり、自分も苦しくなるだろうと思っていたからであり、力の限り大きく言ったと証言した。

 また警察官に押し下げられて以降は元の場所へ行こうとして前の方へ進もうとしたのであって、押し下げられなければ自分から前へ行くことはないと、桃井さんが聴衆のいる前方に向かったという樋口警官の証言を否定した。そしてどこへ連れて行かれるのか分からなかったので、抵抗しなければ分からないところへ連れて行かれるのではないかという不安があったと述べた。

 二人の警官に1時間ほどつきまとわれて不安で恥ずかしく怒りが沸いた。「ジュース買ってあげる」という警官の表現に、幼児扱いされて侮辱されていると思ったと述べた。

 

129 桃井さんの近くにいて桃井さんを注視していた中雅子さんへの証人尋問

 

 中さんは、桃井さんが声を上げた時に周りの聴衆とトラブルになるようには見えなかった、桃井さんに文句を言うような人は見えなかったと証言した。

 

 大杉さんの友人で札幌駅前と札幌三越前で動画を撮影していた桐島さと子さんへの証人尋問

 

「安倍やめろ。帰れ」と声を上げた大杉さんに対して、「おまえが帰れ」と聴衆が言っていたという証言が警官からあったが、桐島さんはその声を聞いていないと証言した。

 

以上2日間7人の証人尋問が終わった。警官3人、大杉、桃井、中、桐島さんの7人である。

 

 

 

判決 2022325日 裁判は23か月続いた。廣瀬孝裁判長、河野文彦裁判官、佐藤克郎裁判官。

 

133 認定された警官の違法行為

 

・大杉さんや桃井さんの肩や腕をつかんで移動させた。(警官の言う「腰に手を当てた」のではなかった。)

・桃井さんが札幌駅南口広場の南側に行かないように両腕に手を回して引き留めた

・桃井さんを札幌駅南口広場からTSUTAYA札幌駅西口店まで追従し、つきまとった。

・桃井さんをTSUTAYA札幌西口店からTSUTAYA札幌大通店付近まで追従し、つきまとった。

 

警職法第五条適用行為

 

134 大杉さんが札幌駅前で安倍の街宣車に向かって走り出したときに警官が制止した行為は、警職法第五条の要件を満たすとした。警官が、大杉さんが体当たりやその他の暴行をしたり、安倍や関係者に物を投げたりするおそれを抱いたとしても、不自然ではないとした。

 

 

大杉さんの件で、警察側の言う「おまえが帰れ」「うるさい」が怒号だったとするなら、それは相当な声量があったはずだが、それが動画に録音されていないのは不自然だとした。

そして大杉さんが声を上げてから警官が対応するまでの時間は僅か数秒に過ぎなかったから、その間に大杉さんと聴衆との間で騒然となり小競り合いが生じたとは伺えないとした。

135 桃井さんの場合でも、警察側は当初「周囲の聴衆が騒然となって」と主張していたが、警官の証人尋問ではそう証言せず、動画でも騒然とした状態ではなかった、つまり「危険な事態ではなかった」とした。

 

裁判長が表現の自由についてのコメントを追加した。

 

「安倍やめろ」や「増税反対」などの発言は、公共的・政治的事項に関する表現行為であって、警官の行為は表現の自由への侵害行為である。

「安倍やめろ」や「増税反対」などの発言は、人種・民族に対する差別意識・憎悪を誘発・助長するものでも、生命・身体に危害を加える犯罪行為を扇動するものでも、選挙演説を不可能にするものでもない。

 

選挙の自由や街頭演説を聞く自由を侵害するのではないかと思っている人がいるかもしれないが、警察側でさえそのようなことは言っていなかった

 

 

 

判決の骨子と要旨

 

140 主文

 

・道警は大杉さんに33万円、桃井さんに55万円、そしてそれぞれの金額に対して715日から支払い済みまで年5分の利子を払え。(桃井さんに対するつきまといを大きく評価したようだ。)

・原告のそれ以外の請求を棄却する。(どういうことか。大杉さんは警察上司の指示、指揮命令系統、組織的責任を明らかにしたいと裁判で要望したが、判決はそれに触れなかった。148これを指すのだろう。)

・訴訟費用の分担 大杉さんの場合は、大杉さんが90%で道警が10%(納得できない。)桃井さんの場合も、桃井さんが5/6負担し、1/6を道警負担(同様に理解できない。)

 

141 骨子

 

警官は原告の表現行為の内容と態様が街頭演説にそぐわないと判断してその表現行為を制限し、あるいは制限しようとしたと推認できる。

 

142 事実と理由

 

概要 本件は国家賠償法一条一項に基づく損害賠償の事案である。

 

143 裁判所の判断

 

警官の側の違法性

 

大杉さんに対して「おまえが帰れ」「うるさい」という聴衆の声(怒号)は録音されていない。不自然である。大杉さんが声を上げてから警官が動き出すまでの間は数秒で、大杉さんの肩や腕をつかむまでの時間は(わずか)10秒程度であった。

144 この短時間の間に大杉さんと聴衆との間で騒然となり小競り合いが生じたようにはうかがえない。仮に大杉さんに危害が加わりそうなら、警官がその聴衆に警告したり、大杉さんと聴衆との間に割って入ったりすれば足りた。しかし警官はそのことをせず、被害者であるはずの大杉さんの肩や腕をつかみ、強制的に移動させた。そして移動後に大杉さんを気遣ったり、大杉さんと聴衆との間にトラブルがあったかどうかの確認をしたりもしていない。

桃井さんの場合では、桃井さんの発言のために周囲が騒然となってもめごとになるのは必至であると警察側は主張するが、実際は「桃井さんが声を上げたから」肩や腕をつかんで移動させたとか、「聴衆が演説を聞けなくなる」ことを理由に警官の行為は正しいのだと警官自身が(その場で)言っている。

145 そして証人尋問でも当該警官は「周囲が騒然とした」などと言っていない。動画でもそれはうかがえない。そして「どうしたの」「おちついて」という言葉も録音されていない。

桃井さんに聴衆から危害が加えられると警官が判断したのなら、警官はそのような聴衆に警告し、桃井さんと聴衆との間に割って入ることで十分だったが、そうしていない。それどころか桃井さんの肩や腕をつかみ、強制的に移動させた。そして聴衆と桃井さんとの間にトラブルがあったかどうかの確認もしていない。

 

146 裁判所の判断 表現の自由

 

公共的・政治的事項に関する表現の自由は特に重要な憲法上の権利である。

警官は原告の表現行為の内容・様態が安倍総裁の街頭演説の場にそぐわないものと判断し、表現行為を制限し、あるいは制限しようとしたと推認せざるを得ない。このことは警官の発言そのものが示している。つまり大杉さんに対しては「演説してるから、それ邪魔しちゃだめだよ」「選挙の自由妨害する」と警官自身が言っていたし、桃井さんに対しては「だっていきなり声上げたじゃーん」「急に大声上げたじゃん」「聞きたいこと聞けなくなっちゃうっしょ、ね」などと言っている。

 

 

 

148 判決に対する大杉さんの意見 

 

警察上司の指示、指揮命令系統、組織的責任を明らかにしたいと裁判で要望したが、判決はそれに触れなかった。警察の本来の目的はヤジや批判的な言葉や言論を排除するつもりだったはずである。道警や警察庁の組織的な責任を明らかにしたかった。争点とされた警職法はダミーにすぎない。

 

150 判決後の桃井さんの意見

 

カメラはいっぱい来ていたが、一人のおばあさんが心配そうに警察に話しかける以外は、助けてくれたり加勢してくれたりする人はいなかった。私は「え、私、法律も何も犯してないのに、こんな大勢の警察に取り囲まれるんですか?!やばくない!なんで?」と大声で叫びまくった。でもみんな見てるだけ。スマホで写真を撮ってるだけだった。

 

151 

 

原告弁護団団長 上田文雄・弁護士

弁護団事務局長 小野寺信勝・弁護士139, 148

裁判長 廣瀬孝115

 

153 

 

白取祐司・神奈川大学法学部教授のコメント(省略)

 

155 

 

警察による過剰警備事件

 

20159月、安保法制に対する若者の行動を規制

201811月、辺野古デモ排除

 

 

道警が控訴

 

判決から7日後の4/1に道警側が控訴した。その理由は、

一審で根拠とされた動画は、警官の一連の行動のすべてではなく、大杉さんらの行動とそれに対する周囲の反応などを俯瞰的に検討していないので、大杉さんらの危険性違法性の評価を誤った。

 

156 3/31、原告弁護団は鈴木直道・北海道知事に、控訴しないよう、そして警官による表現の自由侵害に対して、原告に謝罪するように要望した。

要請書を知事に直接渡そうとした。またもしそれが難しければ、担当職員への手渡しでもいいと伝えたが、両者とも忙しくて対応できないという返事だったので、FAX と郵送で送った。

 

知事と道警とは立場が違う/違わないという微妙な問題があるようだ。

 

4/1の知事定例会見の前に北海道が控訴したという発表があった。控訴に対して原告と弁護団が抗議声明を出した。

 

158 4/1の知事定例会見での記者の質問に対して知事は

 

「道警が控訴したという報告を受けている。道警が本件の担当である。表現の自由は大事だが、係争中の案件についての表現の自由侵害についてのコメントはしない。一方街頭演説は聴衆の投票行動にとって大切である。だから(警官が)演説を聞ける環境を作らねばならない。」

 

 

知事と公安委員長が判決文を読んでいるかどうかの追求

 

20226月、道警による控訴から2か月半後、道議会本会議会期中に、日本共産党から取材班に連絡があり、本会議の一般質問で、知事、道警本部長、道公安委員長に質問する、知事と道公安委員長は一審判決の判決文を見ずに控訴したらしいとのことだった。

 

622日、日本共産党の菊池葉子議員が道議会本会議で質問した。

161 知事は「判決の概要を道警から報告を受け、控訴も道警が決定した」とし、判決文を読んだとも読まないとも言わない。

小林ヒサヨ北海道公安委員長「公安委員会として判決文を確認していないが、道警から報告を受けた。」

162 知事「浦本元人副知事が控訴の決済を代決した。」

 

菊池葉子議員の「知事はまるで他人事のような姿勢だ。真摯に判決と向き合う姿勢がない」という追及に対して、自民道議は「表現の暴力だ」「選挙妨害だろ」「何でも言えばいいというものではない」などとヤジを飛ばした。

 

 

桃井さんのその後

 

163 2019715日、札幌駅前での安倍晋三演説に対して「消費税増税反対です!」の声を上げて道警に排除された桃井希生(きお)さん23の金言「大杉さんが声を上げて排除されるのを目の当たりにして、自分も声を上げるしかないと思った。かなり緊張したが、ここで声を上げなければ後悔すると思った。逮捕されてもいい、失うものは何もないと思えた。」北海道放送『ヤジと民主主義』ころから

 

 桃井さんは一国の総理に対して声を上げ、北海道警察という大きな壁に立ち向かった。

 

 桃井さんは札幌の大学を卒業後、一連の報道を見ていた札幌地域労組が桃井さんに声をかけたことから、そこに就職する道を選んだ。現在はパワハラや違法残業などに苦しみ立場が弱くて声を上げられない人々を支援している。

 

164 「声を上げた時、世界で私だけがおかしい人なのかなという不安があった。しかしおかしいよねと言ってくれる人も結構いたので心強かった。」

 

 判決言い渡しの1か月前、桃井さんは札幌から150キロの中札内村の、生キャラメルで有名な花畑牧場で働くベトナム人のストライキを支援していた。

 

 20221月、38人のベトナム人従業員が、寮の水道光熱費値上げに抗議してストライキをした。会社は寮の水道光熱費月7000円を、202110月から値上げし始め、20221月には月15000円に値上げした。花畑牧場は、ストライキに参加したベトナム人38人と参加もしていない2人の計40人に雇止めの通告をし、7日間出勤停止の懲戒処分にし、さらにストライキを主導したとして4人には、生産ラインを停止したとして、計200万円の損害賠償を請求した。札幌地域労組はベトナム人従業員から相談を受け、雇止めと損害賠償の取り消しを求めて支援することになった。

 

165 花畑牧場は北海道放送の取材に対して、対象は40人ではなく41人だとし、「個別期間満了日から1か月前に個別面談をした。17人は期間満了に伴う自主退職希望者であり、残りの24人は期間満了で契約終了である」として雇止めではないとした。さらにベトナム人従業員の行為は、ストライキではなく単なる職場放棄である、と従業員側の主張を否定した。

 しかし実際は花畑牧場の社長でタレントの田中義剛が「ストライキで要望を通すのは会社が困る」と言った音声データがあり、それを札幌地域労組が指摘すると、平行線となった。

 花畑牧場は、田中社長のその言葉がネット上で拡散されて会社の名誉や信頼を失ったとして、ベトナム人従業員を名誉棄損で刑事告訴した。

 

 しかし花畑牧場がベトナム人従業員と交わした雇用契約書とは雇用期間が異なる文書を牧場が出入国在留管理庁に提出していたことが判明し、牧場側の入管難民法違反を札幌地域労組が指摘すると、両者の溝は深まった。

 

166 結局、団体交渉を重ねた結果、最終的には花畑牧場が一連の対応すべてが不適切であったと認め、従業員に謝罪し、損害賠償請求と刑事告訴を取り下げて和解した。

 

167 桃井さんの教訓「権力者にとって抗議の声は不都合で怖い声を上げる権利を守ることは人が尊厳を持って生きる上で大切だ。」「私があの時黙っていたら、排除が許される社会になっていただろう。性差別や障害者、マイノリティーの人権が尊重されずにいろんな人が不公正に悲しい思いをしている。まず個人がおかしいと声をあげることが、裁判や社会運動の前提である。」

 

 

 

 大杉さんの場合

 

大杉さんはその後小樽市や室蘭市などの地方議会で講演を行い、表現の自由の大切さを訴えた。

大杉さんはこれまで岩見沢市で生活困窮者を支援するソーシャルワーカーを7年間勤め、今年は札幌の精神科の相談員を経て、今は充電期間中。彼はそれを「サバティカル」という。

ツイッターで「ヤジポイの会」を結成し、HPも作って裁判の状況について発信している。50万円のカンパが集まり、それを広報誌づくりに当てている。弁護費用はボランティアだからかからない。

 

171 大杉さんを排除した警官からは一人として「公職選挙法」という言葉が発せられなかった。大杉さんは彼らの頭の中にしかない安倍侮辱罪に抵触したのかもしれないと言う。そしてそのことは裁判長も言っている。「警察官らの行為は、原告らの表現行為が安倍総裁の街頭演説の場にそぐわないものと判断し、当該表現行為そのものを制限して、また制限しようとしたものと推認せざるを得ません。」

 

 

感想

 

 警察は当初公職選挙法を適用して表現の自由そのものを制限しようとしていたようだ。それは警官の言葉に現れている。大杉さんに「演説してるから、それ邪魔しちゃだめだよ」「選挙の自由妨害する」032そして桃井さんに「だっていきなり声上げたじゃーん」「急に大声上げたじゃん」「聞きたいこと聞けなくなるでしょ、ね」(判決文147)という表現に現れている。

 

 警察では組織的なヤジ狩りが当初から計画されていたのではないか。そのことを明らかにするように大杉さんが要求したが判決では何も触れていない。警職法適用はダミーにすぎない。(大杉さん149

このことはこの事件(2019715日)の二年前201771日の秋葉原での「帰れ」「安倍辞めろ」コール問題が絡んでいるのではないか。安倍はその時「演説を邪魔するような行為を自民党は絶対にしない」「こんな人たちに私たちは負けるわけにはいかない」と敵意をむき出しにしていた。

 桃井さんが周囲の人に助けを求めても、一人のおばあさんが心配そうに警察に話しかける以外は、助けてくれたり加勢してくれたりする人はいなかった。150日本の民主主義はすでに死んでいる。

 

 

 

10回目の口頭弁論で、裁判長の判断

 

115 2021716日札幌地裁の廣瀬孝裁判長「警察官の実力行使が警職法で正当化されるかの立証責任は道警側にある」

 

原告側からはビデオや写真を提供したが、警察側はそれをしなかった。

 

 

 

原田宏二インタビュー174

 

第一回インタビュー

 

警察は無法集団である。警察はNシステム176, 177や「防犯カメラ」(監視カメラ)200DNA採取206などで個人情報を取得しているが、その法的根拠はない。GPS捜査も違法となった。177, 195, 200, 206

 

この選挙応援演説の場合のように警察による警護活動は組織的行動であり、「現場の警官」の自由意志でやっているのではない。そしてビデオカメラを活用し、本部がリアルタイムに警護状況を見ながら指揮し、機動隊がすぐ近くにいて、いつでも腕力で押さえ込めるようにしている。

また日頃マークしている人物が集会に来ていないかどうかを見極めるための係「視察班」188も出動している。「視察班」の監視対象は共産党、過激派、労組、憲法(改憲)反対、市民運動活動家などである。集会にやって来ては監視し、要注意人物を見つけ出そうとしている。それは組織的犯罪集団対策である。

警察は集会でカメラを撮っている。検挙に備えて「採証班」が出動している。179

 

警察庁長官を国家公安委員会(委員長は大臣)が決めるが、総理大臣の承認を要する。181

内閣総理大臣→内閣情報調査室→警察庁という経路で総理の意向が警察に伝わる仕組になっている。

また警察キャリア官僚が自民党の政治家になっている。後藤田正晴・内閣官房長官は警察庁長官だった。182

 

二人の女警官は桃井さんにつきまとって店に閉じ込め、自由を奪い、制止している。183

警職法第五条は「犯罪の制止」を目的とするが、「緊急性」がないと適用されない。

桃井さんは男の警官に腕をつかまれている。184それは逮捕行為である。手錠をかけなくても逮捕はあり得る。逮捕は自由の制圧である。桃井さんは50メートルも連れて行かれた。185それは連行である。

女の警官が桃井さんの腕をつかんでいる。

(選挙演説を)「聞く側の権利」というが、それは警官(法律)の出る幕ではなく、当事者同士の問題である。185

 

北海道警察は当初不正経理を否定していたが、結局道と国に96000万円返金した。15年前のことである。187

札幌地検による道警の告発が、警察が事情説明しない隠れ蓑になっている。そして地検は事件を捜査しない。地検が警官に対する特別公務員暴行陵虐罪や特別公務員職権乱用罪を受理するかどうかも分からない。地検は起訴しなかった事件についてはその理由を説明しない。起訴猶予さえ公表しない。そうやって時間が経過してうやむやになるのを警察は期待している

 

感想 警察が裁判の際に現場で対応した部下に嘘をつくことを訓練させるのはおかしい。権力が嘘をつくのは宜しくない。それでは民衆は国家権力の正当性を信用しない。抗議する。反乱する。

部下の警官も良心の呵責に堪えられないのではないか。

 

 

第二回インタビュー

 

190 当初「道警警備部は、『トラブル防止と、公職選挙法の選挙の自由妨害違反になる恐れがある事案について、警察官が声掛けした』と説明」(朝日新聞7/17, 208)していたが、その後「公職選挙法の自由妨害に当たるかどうかは調査中」に変更した。

 

192 警職法

 

第五条 当時の状況は「警告」や「制止」の「緊急性要件」を満たしていなかった。

 

第四条はヤジを発して排除された人を「避難」させるのだが、当時の状況は条文中の「極端な雑踏」や「危険な事態」ではなかった。

 

193 第二条 佐々木勝義さんは新札幌駅前044で、職務質問が正当化されるような「異常な挙動」をしていなかった。

ただ縁石に腰かけて演説を聞いていて、持ち物を後ろに移動しただけなのに、「持ち物を後ろに隠そうとした」、「危険物を所持しているのかどうか調べるため」198という理由をつけて職務質問の対象にした。

そして職質の結果、危険な物が発見されたのかどうかについて、記者には「何も出てこなかった」と言っているが、公には触れていない。

佐々木勝義さんは「ABE OUT」と書かれたプラカードを持っていただけで、警察官に10メートル移動させられた。209

 

感想 佐々木勝義さんの意思表示ABE OUTの妨害だけが目的だった。

 

 

警察法第二条は警察官の職務執行の法的根拠だが、組織法であって、権限法(権限の根拠となる法)ではない。

 

194 原田宏二『警察捜査の正体』講談社現代新書

 

治安維持のためなら何でもやっていいという風潮が警察の中にある。だから自白の強要や冤罪が起こる。

最高裁はGPS捜査は違法とした。

盗聴は裁判官の令状があれば合法という法律ができる前からやっていた。

警察の記者会見にフリーランスを入れない。

196 公安委員会、裁判所、検察庁、議会の総務委員会などは、警察をチェックすべきなのにしていない。道警は自民に根回しして道議会総務委員会から共産党を排除していた。

 

197 「現場の警察官の判断」という表現が多出するが、これは最後の責任は現場に押し付けようとする意図である。

198 採証班(カメラ撮影)が来ているのだから、「男性は興奮状態だった」「周囲の聴衆との間にトラブル」「周囲から、大声を上げる女性を睨んだり批判的な声も上がり始めた」「背後から接近し、その直近で大声を発した」などと警察は主張しているが、撮影した映像でそれを証明してみたまえ。

 

199 国賠訴訟では警官は事前に法廷演技を練習している

 

199 大杉さんや桃井さんは事前に警察にチェックされていたかもしれない。採証班、排除班、排除を支援する機動隊がいたはずだ。現場に指揮官がいて、本部には対策本部があって、カメラでモニターしていたはずだ。だから警官の(押さえ込む)動作が早かった。

 

200 監視カメラ(防犯カメラ)を設置する法的根拠はない。撮られた映像を利用する手続きに関する法律もない。映像の保管に関する法律もない

 

201 警職法第五条の「トラブル」は双方に対して制止すべきなのに、今回は一方的であった。「他の聴衆が拳で大杉さんを押した」、「上腕部を押した」だから「トラブルを防ぐために大杉さんを移動させた」と言うのなら、拳で押した人をなぜ排除しなかったのか。

 

202 警察は桃井さんが「興奮状態で聴衆が密集している場所に進んで行こうとした」と言うが、桃井さんは警官に下げられたので元の位置に戻ろうとしたに過ぎない。

 

ヤジやプラカードは犯罪ではない。だから警察はプラカードの排除理由として「風で煽られて他の歩行者にぶつかる恐れがあるから」などと無理な言い訳をしなければならなくなる。

 

203 警察は現場の警官が警職法第四条や第五条を念頭においていたと言うが、「周りに聞いている人もいるから」「みんな静かに聞いているでしょ」「周りに迷惑がられる」「他の人にも権利がある」「大声を出さないで欲しい」という警官の発言は警職法ではなく、公選法的な止め方である。

 

201 国賠訴訟での原告の勝率は1割に満たない。

 

 

以上が原田宏二インタビュー

 

 

・各地で起こっていたヤジ排除事件

 

249 ヤジ排除事件は北海道だけでなく、埼玉県大宮駅、滋賀県大津駅でもあった。

 

大宮駅では埼玉知事選で応援演説していた柴山昌彦文科相に大学生がヤジを飛ばして排除され、大津駅では参院選挙で応援演説していた安倍晋三総理にヤジを飛ばした男性が複数の警官に取り押さえられた。その動画がある。

 

059 慶応大文学部の男子学生2019824大宮駅前での知事選演説会に自民候補者の応援に来ていた柴山文科相に対して、20204月から導入される予定の大学入試での英語民間試験に反対すべく「英語民間試験即時撤回」と書かれたプラカードを街宣車の後ろで持ってヤジを飛ばした。「柴山やめろ!」そして花壇の縁石のブロックに足をかけたところ、警察に連れて行かれた。「道路に飛び出したら危ないから」と警官に言われ、強引にベルトを引っ張られ、ベルトがちぎれてしまった。その後は3、4人の警官に建物の隅まで移動させられて囲まれた。「芝生の上に上がるのは危険だ」「あなたがどっかへ行けば我々もどっかへ行きます」と言ったが、男子学生が演説会場から離れても、警官は10分くらい尾行した。

柴山はツイッターで男子学生が「喚き散らした」8/26とし、「ヤジをする権利は保障されていない」8/27とまで記者に言った。

 

063 718JR大津駅前で参院選で自民候補の応援演説していた安倍晋三総理にヤジを飛ばした男性が警官に会場後方で囲まれて動けなくなった。

 

 

034 715日、札幌では大杉雅栄さん(同伴者が2人いて、そのうちの1人は桐島さと子さん)や桃井希生さん以外にも排除されていた人がいた。

 

山口たかさんら三人は札幌三越前の演説会場でプラカードを手に持っただけで、私服警官にしつこくつきまとわれ、排除された

山口さんは「年金100年安心プランどうなった?老後の生活費2000万円貯金できません!」というプラカードを手に持った瞬間、警察官はそれを阻止するような感じで取り囲み、山口さんが歩道にいたにもかかわらず、「道路に出たら危ないから、危ないから」と繰り返し、さらに「プラカードを掲げると危ない」と言いながら、結局100メートルも安倍から遠ざけられた。そして「どこから来たか」「どんな交通手段で来たか」といろいろ話しかけてきた。「演説が聞こえないからしゃべらないで」と言ったが、警官は聞かなかった。「安倍の姿も見えず、プラカードを掲げることもできなかった。」

山口たかさんは元札幌市議会議員である。

富永恵子さんとMさんが山口さんに同行した。Mさんは演説の翌日から、再発した癌の再治療に行くところで、これが最後の抗議かもしれないと思っていたのだが。

安倍が山口さんらの近くを移動するとき、安倍からプラカードを隠すように、自民党関係者や警官が前に立ちはだかった。その時の動画がある。

他方、安倍を応援するプラカードは最後まで排除されなかった。不公平!

 

043 安倍はJR札幌駅前で演説を行う3時間前に、JR新札幌駅前で応援演説をした。佐々木勝義さん77は演説会場の近くに座り「ABE OUT」と書かれたプラカードを膝の上に置いていたところ、警官が近づいてきて、連れて行かれた

安倍が演説を初めてから5分後に、警官が「おじさんすまないけど、そのクリアファイル見せてくれないかい?」と声をかけてきた。プラカードを見せたところ、「バッグの中に何入っているの?」と職務質問を始めた。そのあとすぐ4人の警官が前後に2人ずつ来て10メートル移動させられ、「名前なんて言うの?」「どこから来たの?」などと聞かれ続けた。話をしているうちに演説は終わっていた。

 

また安倍が札幌駅と大通駅を結ぶ地下通路を練り歩いていたとき、1人の男性が「安倍やめろ!やめっちゃえ!」と叫んだところ、数名の警官に肩をつかまれ、強制的に安倍から遠ざけられた

 

結局この日7/15総計9人が警官に排除されたことになる。

 

・大杉さんら3

・山口さんら3人

・桃井さん1

・佐々木さん1

・地下通路の男性1

 

 

 

・大杉さんに対する警官の言葉

 

023 警官は大杉さんがヤジることに関してこう言った。「危ないことをするんだったら、事前に止めないといけない」「(その)可能性あるでしょう」「さっきからずっとやってるでしょ。それを止めないわけにいかない。」ヤジることが危ないことだと言うのだ。

024 警官は大杉さんを尾行した。大杉さんが南方向に歩いてゆくと、大杉さんがタクシーを拾うまで複数の警官が後をつけてきた。

 

 

・桃井さんに対する警官の言葉

 

025 サンダルを履いた身長160センチの桃井さんを警官3、4人が取り囲み、腕や肩をつかんで後方へ押しやってゆく。その後さらに大勢の警官が集まり、桃井さんを取り囲み、桃井さんの両脇を抱えながら引きずるように連れて行く。その時桃井さんは腕を組まれた。警官「さっき約束してって言ったじゃん?声上げないでくれよ~って」

030 桃井さんは安倍とは反対方向の北側に歩いて行くが、二人の警官は桃井さんについてくる。桃井さんがレンタルビデオ店に入ると、二人の警官は店の前で待ち構えている。桃井さんは店を出て南に進むが、二人の警官はついて来る。そして時に腕を組み、時に前に立ちふさがりながら、ついて来る。このつきまとい行為は桃井さんがタクシーをひろうまで1時間に及んだ。

 

 

・大杉さんに対する警官の言葉。二度目。

 

032 警官「言論の自由?それは分かったけどさ、演説しているとき、それを邪魔しちゃダメだよ。」

「演説しているから。選挙の自由を妨害するようなことになっちゃう」「ここで言うのはおかしくない?」

どこから戻ってきたの?何で戻ってきたの?」「どうすんのこれから?」

 

 

・弁護士が警官によるデモ参加者のビデオ撮影中止を求める。

 

040 デモ参加者を警官がビデオ撮影していたので、神保大地弁護士がそれに抗議した。「早くやめさせてください。違法行為です。なぜ現行犯でもない犯罪行為のない映像をあなたのところに残すのですか?肖像権の侵害です。」

 

 

 

・道議会2020/2/26での警察の説明

 

077 2020225日、札幌地検が道警を不起訴処分に。ヤジ排除は適法。

翌日の2020年2月26日、道警が調査結果を説明。

 

078 大杉さんと桃井さん排除の理由は、警職法第四条と第五条である。

札幌駅前の地下通路で「安倍やめろ!」と叫んだ男性と佐々木勝義さんには、警職法第二条を適用した。

山口さんら3人には警察法第二条を適用した。

桃井さんに対するつきまとい行為についての説明はなかった。

 

082 桃井さんへのつきまといは、警察法第二条と警職法第二条の両方が根拠であると道警は報道に語った。2020/3/23

 

082 道警は調査結果をまとめる際に、事情を警官からは聞いたが、被害者からは聞かなかった。

大杉さんや桃井さんは検察審査会に道警不起訴処分を不服として審査を申し立てたが、不起訴は不当ではないとして不起訴を維持した。

大杉さんや桃井さんは札幌地裁に裁判の開催を求めた(付審判請求)が脚下された。

 

093 2019123日、大杉さんが道を相手に提訴。

097 2020227日、桃井さんが道を相手に提訴。

 

101 道警の主張 道警が2020327日に準備書面を提出。

 

 

 

4部 ヤジとメディア 山崎裕侍

 

 

感想

 

218 日ごろ批判されて気に入らない報道機関に対して警察が情報を「事前に」を漏らさないという差別待遇をする、報道関係者に対する仕打ちである「トク落ち」を、報道関係者は「血の気が引く」ほど気にしているようだが、私は報道の速さはそれほど気にしない。それよりもむしろ事件に対する報道機関の態度や意気込みの方を評価する。私は朝日と東京の二紙を取っていて、確かに朝日の方が一日早い報道をすることもたびたびあるが、朝日の報道はただ早いというだけで、そこに記者の気持がこもっていないことが多く、ただああそうというだけで、読み込みたい気持ちにならない。一日遅れでも東京新聞の記者が自分の気持を入れながら論点を整理した報道の方が、事件の内容をずっとよく理解でき、気持ちがいい。記事が一日遅れただけで「血の気が引く」ような気持ちになるのでは、報道では何が大事なことなのかを知らないことを暴露することであり、おかしいのではないか。

 

244 北海道放送のドキュメンタリー番組『ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~』が「第3むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」の優秀賞を受賞した。*

 

Wikiによれば、むのたけじ1915—2016は、戦中における戦争協力(戦意高揚)行為を反省して朝日新聞を退社し、当時起こりそうに思われた民衆蜂起に加担する覚悟をしていたが、1946年、名古屋で再びジャーナリズム界(中京新聞)に入り、郷里の秋田県横手市で1948年から1978年まで週刊新聞「たいまつ」を発行し、農村問題を追及した。晩年は戦争の記憶を発信した。

 

鎌田慧『ぼくが世の中で学んだこと』

 

 

215 マルティン・ニーメーラーはルター派の牧師で、ナチスに反対してダッハウ強制収容所に敗戦まで入れられていたが、当初は他人事だからとしてナチスの弾圧に反対しなかった。

 

ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声を上げなかった。

私は共産主義者ではなかったから。

社会民主主義者が牢獄に入れられたときも、私は声を上げなかった。

私は社会民主主義者ではなかったから。

彼らが労働組合員たちを攻撃したときも、私は声を上げなかった。

私は労働組合員ではなかったから。

そして、彼らが私を攻撃したとき、

私のために声を上げる者は誰一人残っていなかった。

 

218 ジョージ・オーウェルの名言「ジャーナリズムとは報じられたくないことを報じることだ。それ以外のものは広報に過ぎない」

 

『真実――新聞が警察に跪いた日』(高田昌幸著、角川文庫)は「トク落ち」について触れている。警察が情報を、一部の気に入らないメディアに提供しないことである。北海道新聞が道警の裏金問題を追及した時2004やられた。

 

感想 ジャーナリズム界側が公権力である警察側の「トク落とし」を恐れているとのことだが、それはおかしなことであり、むしろ警察によるこの「トク落とし」行為自体が、正当な批判を商業行為としているジャーナリズム実業界に対する公権力による不当な介入であり、この警察の行為は商業活動妨害罪とか不当競争介入罪などにならないのか。

 

220 感想 報道部に配属された新聞やテレビの新入記者はまず警察担当となり、警察との懇親会の中で警察情報を得るとあるが、奇異な感じをうける。懇親会はいいとしても、懇親会からしか情報が入らないとしたら、警察を批判できなくなるのではないか。

 

道警記者クラブはフリーランスを排除して独占的に警察情報を流しているが、道警に対して情報開示を求めることもして来た。

221 しかし私が(北海道放送の)道警担当キャップだった2013年~2015年に、道警を批判する社は少なく、某社のジャーナリスト自身が積極的に警官の不祥事を没にすることもあった。私も事件情報を独自に入手したが、捜査幹部に「いま報道されたら事件がつぶれる」と言われ、一定期間報道しなかった。(「事件がつぶれる」とはどういうことか。)

 

(一時的に喧嘩して別れたばかりの)交際相手に警察の出動を求めた、札幌市厚別区の某女性の行方不明・殺人事件2014では、道警は初動捜査を誤って死体の発見が遅れただけでなく、犯人の任意同行にも失敗した。その様子を私はビデオに収めた。私はこの警察の失態を追求すべく元警官の原田宏二さんに相談した。

 

222 1995年に警視長を最後に警察を退職した原田宏二さんは、2004年、道警裏金事件を内部告発した。結局道警は96000万円を国と北海道に返却し、3235人の警察官と職員が処分された。その後原田さんは「市民の目フォーラム北海道」の代表を務め、警察を批判し続けていた。

223 厚別区での女性殺害事件で道警を批判したのは北海道放送と共同通信だけだった。

224 道警幹部の中には「酷い報道したな」と言う人もいれば、「捜査の失態」だったという人もいた。

 

朝日新聞の青木美希は北海タイムスから北海道新聞に移り、道警裏金問題を取材した。その後朝日新聞に移り、企画「プロメテウスの罠」に参加し、ゼネコンによる中抜き・手抜き除染をスクープした。

 

青木は今回ヤジを飛ばした人が警察に排除されたことをツイッターで知り、ネットの映像を根拠に原田さんに見解を聞き、違法だという回答を得た。青木は「道警裏金問題は道だけの問題とされ、警察庁が動かなかった。ヤジ排除問題は全国版に載せて全国的な問題とすべきだ」と朝日の幹部を説得した。17日に朝日の全国版にヤジ排除の記事が載った。

 

 20201014日、原告弁護団長で元札幌市長の上田文雄も原田に相談した。道警がヤジと同時に排除したのは組織的であることは明らかであるが、それを立証することは難しく、警察庁の指示書も黒塗りであった。その点を上田は確かめたかった。

 

226 ドキュメンタリー番組が完成

 

 私はヤジ排除問題を全国放送したかった。ヤジ排除は札幌だけでなく大津市やさいたま市でもあった。

 

 「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」は妨害と脅迫で中止となった。慰安婦映画「主戦場」も、一部の映画館で上映中止となった。菅義偉官房長官は、東京新聞の望月衣塑子記者の「今赤土が辺野古の海に広がっている」に対して「当たらない」と繰り返し、内閣広報官は東京新聞に抗議文を出し、官邸報道部は「表現は適切でない」「事実に反する」という文書を官邸記者クラブの掲示板に貼り出した。これは記者排除と質問封じを狙ったものだった。

 

227 北海道放送の番組を全国放送するのはTBS(キー局)だった。TBSに相談したが、「ヤジは嫌だという人の権利をどう位置づけるのか」と言われて立ち消えとなった。

 

 20191120日、治安維持法違反の「生活図画事件」の当時者である旭川市の菱谷良一さんと松本五郎さんが札幌市で個展を開いた。これまでに北海道放送旭川支局が菱谷さんを取材したことがあった。菱谷さんは共謀罪問題の時にも発言してくれた。私は治安維持法と表現の自由に関するドキュメンタリー番組を作りたかった。

 

 5日後私はTBSのドキュメンタリー「ザ・フォーカス」のプロデュサーである佐古忠彦に連絡した。佐古は「筑紫哲也NEWS23」のキャスターや、映画「米軍が最も恐れた男 その名はカメジロー」の監督を務めていた。佐古は私の提案を受け入れた。

 

228 30分のドキュメンタリー番組「ヤジと民主主義~警察が排除するもの」を、202022日に関東で、2020224日に北海道で放送することができた。

 神奈川県の視聴者から「排除された人にモザイクがなかったことは良かった。人の表情は無言の中でも多くを語る。警官の生の表情や声も興味深かった」という感想をいただいた。

 

 2020426日、1時間番組「ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~」を北海道で放送したところ、道警内部でも「排除はやりすぎだ」「本部長は謝った方がいい」という声が上がった。この番組をYouTubeで無料配信したところ、多くの著名人がツイッターに投稿した。作家の平野啓一郎、政治学者の中島岳志、映画評論家の町山智浩、作家の星野智幸、フォトジャーナリストの安田菜津紀(安田は「なぜ静かにプラカードを持って意思表示をしている人まで排除されたのか」と言った。)、ビデオジャーナリストの綿井健陽などである。YouTubeの再生回数は37万回、コメント欄は3000件(20229月末現在)となった。

 

 

2021年冬 半径5メートルから世界を考える

 

240 202121日、ミャンマーでクーデターが発生した。

242 私はニュースの統括編集長から企画(特集や特番)担当の編集長に異動となった。

20214月、桃井さんがミャンマー人のデモに加わっていた。桃井さんは大学卒業後、札幌地域労組に就職した。地域労組は労働組合のない社員やパートや非正規雇用も対象としている。

 

2021年秋 警察で何が起きているか

 

248 原田宏二さんが釧路方面本部長だったころ、道警本部から交通違反ごとにノルマの数字が示されたという。2021年秋、道警本部交通機動隊の58歳の警部補がスピードデータを捏造し、交通違反切符を交付して逮捕された。

249 道警は不祥事を起こした多くの警官の逮捕も書類送検も発表しなかった。

 

250 2021年秋(ドキュメンタリー番組の)『ヤジと民主主義』は日本ジャーナリスト会議第63JCJ賞を受賞した。

 

2022年春

 

251 2022年春、私は企画担当の編集長を外れ、ヒラの一デスクになった

2022325日、札幌地裁で判決が言い渡された。裁判所が用意した記者席には司法担当の長沢が坐り、私は一般の傍聴者の列に入った。希望者は87人で、一般の傍聴席は27席だった。私は外れた。

 裁判所の玄関付近に原告団と支援者がいて、その中に年金批判のプラカードを持っていて排除された3人のうちの一人である山口たかさん034がいた。

252 山口さんは原告ではないが、この裁判の傍聴やデモ活動を続けている。またこのヤジ問題だけでなく、人権や憲法に関する活動もやっている。そこへ桃井さんが現れた。私は裁判所を後にして会社に戻った。デスクとして昼のニュースの準備をしなくてはならなかったからだ。

 

253 2020226日、道警が道議会総務委員会で「ヤジ排除は適法であった」と説明したとき、表現の自由を侵す問題であると批判する議員はいなかった。

 道警を指導監督するはずの道公安委員会の小林ヒサヨ委員長も「道警の職務執行の中立性に疑念が持たれたことは残念」と他人事のように答弁するだけで、危機感は感じられなかった。

 鈴木直道知事は札幌地裁が法律違反だと指摘した後でも、係争中だからとして控訴の理由を言わなかった。そして「選挙演説は聴衆にとって投票先を決める大切な場である。表現の自由を守りながらしっかりと演説を聞ける環境づくり、この両方を尊重する。」

254 ヤジは選挙妨害であり、他の聴衆にとって迷惑だという内容である。鈴木知事は判決文を読んでいるのだろうか。判決は「ヤジは重要な憲法上の権利として尊重されなければならない。選挙演説を事実上不可能にさせるものではない」としている。

 道警側が控訴したことは、反省していないということであり、再発防止も講じないということである。もちろん謝罪もない。

 特定秘密保護法2013、通信傍受法の強化2016、共謀罪(テロ等準備罪2017)、重要土地利用規制法2021と警察の権限が拡大している。また杉田和博や北村茂などの公安出身の警察官僚が内閣に深く入り込んでいる。

255 あの日積極的に事件を報じた社は僅かだった。

 警察の暴走が止められなくなる日が近づいている。

 

2022年初夏

 

202112月、原田さんが間質性肺炎のため僅か1か月で亡くなった。83歳だった。地裁判決(2022325日)についての感想を聞きたかったが、かなわなかった。原田さんが「警官には残業手当がまともに払われない。労組をつくるべきだ」と言っていたと原田さんの旧知の市川守弘弁護士が言った。原田さんを偲ぶ会に来た道内メディア関係者は少なかった。

 

258 フォン・ガーレン司教は戦時中、障害者や病人を安楽死させるというナチスのT4作戦を批判し、こう言った。「非生産的な市民を殺してもいいなら、我々も老いれば殺されるだろう。」ヒトラーはT4作戦を断念した。

 

1991年、私は大学1年生の時に湾岸戦争中のヨルダン難民キャンプでボランティアをしたが、その時某イラン人に「日本がアメリカの戦争を支持するのはおかしい」と言われた。

 

260 「たかがヤジくらいで」と片づけたら、明日は我が身になる。

 

 

 

あとがき

 

261 官僚やメディアが権力に忖度し、市民は異論を言うことを躊躇し、異質なものを袋叩きにする社会の風潮は、安倍総理時代に一層強まった。安倍は「あんな人たち」と言って、敵と味方に社会を分断した。対話を拒否し、問答無用で自らの欲望を力で実現することを是とする社会の風潮が、凶行の背景にあるならば、安倍殺害事件は安倍自身が壊した社会の帰結であるとも言える。

 

262 安倍殺害事件とヤジ排除裁判とを関係づける言論がSNS上に現れた。

 

「演説中に誰かがついてきても(判決のために)排除できなくなる。」

 

263 テレビ局の解説員や新聞も判決を引き合いに出した。

 

FNNプライムオンラインでのフジテレビ上席解説委員・平井文夫7/9

264 ・読売新聞社説7/9

・北国新聞7/13

265 ・TBS系「サンデージャポン」宮崎健介7/10

TBS系「ひるおび」若狭勝7/13

 

266 警察庁は安倍殺害事件を受けて、2023年度当初予算で23億円を要求した。例年警察庁の予算は500万円~1億円くらいだった。惨事に便乗した予算や権限の拡大だった。

 

 

「市民が政治家と直接やり取りできるのは街頭演説の時くらいだ」と阪口正二郎(憲法学)は言う。

 

268 安倍殺害事件の5日前の202273日、3年前の参院選で年金問題のプラカードを掲げて排除された、山口たかさんと富永恵子さんは、岸田の応援演説で「戦争する国反対」と書かれた横断幕を最前列で掲げたが、排除されなかった。2か所でやった。

 

268 大杉雅栄さんは岸田に近づき「コロナ対策ちゃんとやれ、アベノミクスの責任をとれ」と叫んだ。私服の警官1人が大杉さんに背中を向けながら岸田の間に入ったが排除はしなかった。

 

269 桃井さんは「ヤジも言えない社会/ポイズン!」と書かれたプラカードを掲げたが、当初はある男に「邪魔なんだよ、下ろせ、てめえ」と言われ、「胸元に掲げるだけだから」と言っても、「俺ら聞いているんだぞ」とすごまれた。

 

トランスジェンダーのカップル熊田有さんと千明さんは「夫婦別姓や同性婚など家族の形の決定権を国民の手に!!」「マイノリティーの人権を大切にしろ!」と書かれたプラカードを演説集団の前で掲げていて、桃井さんは勇気づけられた。

 

岸田の演説会場に来た500人の聴衆のほとんどは自民支持者だったが、その中でプラカードを掲げたことでその意志の存在が分かる。

 

以上

 

 

感想 著者山崎裕侍さんも北海道放送では臭い飯を食わされているのかもしれない。がんばれ!

 

 

大橋昭夫『副島種臣』新人物往来社1990

  大橋昭夫『副島種臣』新人物往来社 1990       第一章 枝吉家の人々と副島種臣 第二章 倒幕活動と副島種臣 第三章 到遠館の副島種臣     19 世紀の中ごろ、佐賀藩の弘道館 026 では「国学」の研究が行われていたという。その中...