2024年5月23日木曜日

エドワード・スノーデン『スノーデン 日本への警告』集英社新書2017 

 

エドワード・スノーデン『スノーデン 日本への警告』集英社新書2017 

 

 

感想 2024523() 以下は本日の新聞を読んでの感想

 

静岡検察袴田再審死刑求刑 自浄努力なし 外から抗議するしかない。

味噌樽発見衣類は1年前に探したがなかった。警察の捏造。石川狭山事件でも、被害者の万年筆を誰でも目に見える高さの鴨居の上で「2回目」の短時間の捜査時に警官が「発見」するなども捏造。警察は戦前から大威張りで人々を虫けらのように犯罪者に仕立て上げて来た。横浜事件を見よ。9/26判決。さて裁判所はどう出るか。

 

 全てがとは言わないが、法律家は国家や政治の枠組みに拘束されている。本書の宮下紘(ひろし、憲法学)や井桁大介(弁護士)の発言の中からそう感じる。しかしそうでない人もいる。スノーデンを支える弁護士ベン・ワイズナーである。またスノーデンは(スパイ)法を犯したから、国家・警察による違法な大量個人情報収集という事実を人々に知らせ、その結果、米では、大統領も、議会も、司法も改革に向かって動いた。

 

 以下印象に残ったベン・ワイズナーとスノーデンの言葉を抜粋する。

 

193 ワイズナー「テロ行為は社会の存亡にかかわることではない。政府の今のテロに対する関心のあり方を変えなければならない。テロ対策のための金銭や権力は必要ない。米でテロで殺される確率は1/400万にすぎない。今は世界大戦や冷戦下の脅威に直面していない。人々は少しくらいのリスクよりも自由の方を求める。」

 

Foreword from Edward Snowden

 

002  I hope that citizens in democracies – and not just in the U.S. – will appreciate that democracy is not just an inheritance we can enjoy; it’s something we have to fight for in every generation.  Maybe “President Trump” will be the wake-up call that we all need in order to recommit ourselves to defending our values more actively. … Every one of us will have the chance to do something not because it is safe, but because it is right.

 

Edward Snowden

February, 2017

Moscow, Russia

 

 

 

疑問 イントロダクションなどの地の文や注の文責は一体誰なのか。井桁大介かも、巻末注201

 

疑問 197 民主主義を維持するための努力 スノーデンの法律アドバイザーであるベン・ワイズナーBen Wizner*は、トランプ大統領が難民の米入国を禁止する措置(難民入国禁止令2017/2)を取った時、大勢の(何百万人もの)米人がニューヨークのJFK国際空港に集まって抗議したという。

018 日本では警察が10年以上にわたってGPS捜査をしていたことが判明2017/1/31し、大分県警が野党の選挙事務所に監視カメラを違法に設置していたことが判明2016/8し、警察が日本に住むすべてのムスリムを秘密裏に監視していたことが暴露2010/10された(共産党幹部宅の電話も神奈川県警によって盗聴されていた)のに、何も反対運動が起きない、それはおかしい、とスノーデンは言うが、私は大勢のアメリカ人が空港に集まって抗議することの方が不思議に思える。確かにアメリカのそういう行動の方が進歩的なのだとは思うが。

 

*ワイズナーBen Wizner ACLU(アメリカ自由人権協会American Civil Liberties Union)常勤弁護士

 

 

メモ

 

017 日本の監視政策は世界に類を見ないほど秘密主義的である。

019 アメリカの捜査機関が日本政府にムスリムに関する監視捜査の実施を委託したらしい。

021 私(スノーデン)はCIAの後にNSANational Security Agency、国家安全保障局)に勤務した。

023 2013年に私はジャーナリストにリークしたが、問題点は政府が人々を監視していたというだけでなく民主主義の問題でもある。

026 米政府は通信会社の持つ情報に自由にアクセスできる。

028 メタデータは会話そのものではなくプライバシーの侵害にはならないからとして、米政府はアクセスしてもよいとする。

034 私は横田基地に勤務していたことがある。

036 私が使っていたXキースコア(XKEYSCORE)は、IPアドレスを探し出すための大量監視ツールであるが、その中に日本のフラグがつけられたものも多数あった。

 

 

感想 110 マリコ・ヒロセ*「ムスリムに対する監視」を読んで

 

*マリコ・ヒロセはNYCLUNY Civil Liberties Unionニューヨーク自由人権協会)常勤弁護士。米国ムスリム監視事件の原告弁護人。

 

2001年の911事件後、ニューヨーク州やニュージャージー州など三州の警察が、イスラム教という信仰だけの理由で、全ムスリムに対する過度な監視活動を行っていたが、それを20118月にAP通信が暴き、AP通信は2012年にピュリツァ―賞(調査報道部門)を受賞した。

ニューヨーク市警は、モスクの前に監視カメラを設置し、何の嫌疑にも基づかず、ただイスラム教を信じているという理由だけで、ムスリムの出身国別に、居住地、イスラム系の店やモスクの位置などを地図に記入し、スパイや協力者を投入し、警官自身も内偵していた。そのためモスク来訪者はお互いに疑心暗鬼になり、来訪者数は次第に減っていったという。

 このことは1941年以降に日系人に対してなされた処置と同根である。米政府は、日系人の危険性を示す証拠を捏造し、大部分が軍事区域に指定された太平洋岸地域に住む日系人を移住させて収容所に送った。また1960年代から90年代にかけて、反戦活動や公民権運動、LGBT活動を監視していたが、このことはニューヨークタイムズ紙が暴露した。またNY市警は黒人やヒスパニックに対して過度な頻度で職質を行った。以上のことを読んでいて、米社会は伝統的に白人至上主義社会であり、トランプの支持層であるプアホワイトの存立基盤は人種差別にあるのではないかとふと思った。

 

 

「日本におけるムスリムに対する監視の概要」を読んで

 

118 最高裁がムスリムの内偵を合法としたということは、左翼の建物に出入りする人物のビデオを撮っても合法ということか。監視社会。米では違うようだ。日本でも憲法35条で、33条の現行犯以外は、住居の侵入・捜索・押収に関しては令状がなければ不可としている。警察はそれを無視してもいいと最高裁は考えている(監視捜査はOK)らしい。恐ろしいことだ。

 

122 青木理さんが『日本の公安警察』2000を出版したら警察関係者から干されて(パージされて)仕事にならなくなったという。

 

123 警察は社員寮の内偵をする時、会社の社長の了解を得ないで、下部の担当者の了解を取るように指示している。自らが非合法的なことをやっていると自覚しているということらしい。

 

 


 

要旨

 

刊行にあたって エドワード・スノーデンのメッセージ

 

011 私は社会人としてのほとんどの期間を米政府のために働いてきたが、20135月からは政府のためではなく、民衆・社会のために働いている。米政府は世界中の市民のプライベイトな活動を監視している。それを私はジャーナリストに提供した。人々はそれに意外にも関心を寄せてくれて、嬉しかった。

 その後大規模監視を規制する法律が作られた。私のリーク情報に基づいて意思決定をしてもらいたい。政府の意思決定が情報公開と市民の協議に基づいて行われないなら、たとえ選挙で選ばれていたとしても「民主的」と言えない。以下の私の話はトランプが大統領になる前のことであった。民主主義は行動することを伴う。

012 それは私の場合のようにリスクを伴うこともある。安全ではなく正しいことを求めるべきだ。

 

013 20172月 ロシア・モスクワにて

 

 

エドワード・ジョセフ・スノーデンEdward Joseph Snowden, 1983-当年41歳。

911テロ 2001911日、スノーデンが18歳の時の出来事。

 

 


 

第一章 日本への警告

 

イントロダクション

 

016 エドワード・スノーデンのリークに基いて20136月、ガーディアン紙やワシントンポスト紙が米連邦政府の監視捜査を伝え、米連邦政府が直接ネットにアクセスしたり、グーグルやFBから顧客の個人情報を入手したりしていたことが判明した。

日本政府(警察)は顔認証(防犯カメラ)、DNA取得Nシステムなどを用いて密かに個人情報を集めている。2017131日、日本政府が10年以上GPSを用い、警察庁がその事実を伏せるように警察に徹底させていたことが判明した。*1 20168月、大分県警が野党・民進党の選挙事務所敷地内に監視カメラを違法に設置していたことが判明した。201010月、日本に住む全てのムスリムを秘密裏に監視(尾行など)していたことが判明した。*2

 

1 2017315日、最高裁は令状なしのGPS捜査は違法とした。また警察は裁判所の令状を条件に本人への通知なしに携帯事業者からGPSの位置情報を得ている。しかし、最高裁は、法律を欠いたままの状態で、それを判事の判断にゆだねるべきではないとする。つまりこの手法はなくなるだろうと思わる。本当か。

2 201010月、インターネットにこれに関する公安資料が流出し、10数名のムスリムが原告となって国と東京都を被告として国賠訴訟を提訴。一、二審は情報流出については損害賠償を認めたが、監視捜査はテロを口実に必要・合憲とした20165月、最高裁は検討もせず、原告の上告を棄却した。

 

018 日本の警察はその(ムスリム事件の)内部調査を公開せず、議会はそれを検証せず、全貌が分からない。

019 米政府が日本政府に(ムスリム事件の)監視を委託した資料も(スノーデンによって)流出した。日本では警察がSNSやメールを傍受することはまだ合法化されていないようだ。

 

 

愛国者としての私

 

020 金昌浩 会場の東大に200名以上が集まっている。今回のテーマは国家安全保障*1とプライバシーとの問題である。あなたがスパイ組織*2に入った経緯を教えて欲しい。

 

1 国家安全保障 防衛、外交、テロ捜査、治安維持などを含む。

2 諜報機関。米にはCIANSAFBIなど16の機関がある。

 

スノーデン 私は「連邦家族」に生まれ育った。家族も親戚も政府に関わる仕事についている。

021 父は30年間軍隊の仕事をしていた。母は今も裁判所で働いている。祖父は海軍提督だった。私はイラク戦争を支持していた。米国に貢献したいと思っていた。最初は軍部に、次にスパイ組織に入った。CIAでイラクに対するスパイ活動をした。その後NSA国家安全保障局National Security Agency に入り、ネットのメールや電話を盗聴した。

 

NSA活動への疑惑

 

スノーデン 私は極秘情報にアクセスできるようになってから、自分のやっていることが政府の表向きの法律や価値観に反していることに気づき、国民の義務や民主主義とは何かと自問するようになった。

022 政府が情報を隠蔽し、嘘をつくことはおかしい。市民と政府は対等な当時者であるべきだ。

023 捜査や世論形成のためを名目とした、国民に対する政府による監視の事実を、国民は知らされていないが、それは統制されなければならない。

 

メルケル首相携帯盗聴事件

 

024 数十年前から監視対象を絞った軍事組織の電話の盗聴や、衛星による国境での敵対国の戦車の動きを監視している。

025 外交や経済、政治のためにも用いている。監視対象は石油会社やNGO、ジャーナリストなどである。これは政策や情報上の優位を得るためのものである。これは国際法違反であるが、米国内では適法とされる。また諸外国でも同様のことが行われている。

 

無差別・網羅的な新しい監視

 

 グーグル、FB、アップル、マイクロソフト、ヤフーなどのプロバイダーや、ネットワーク・コミュニケーションのシステム、インフラ、光ファイバー回線、衛星などを提供する通信事業者や、ベライゾン、コムキャストなどの電話会社に対して、法律*に基づいて、政府はその設備にアクセスすることができる。(バルク傍受)

 

FISA Foreign Intelligence Surveillance Act

 

 メールは読んでおらず、電話の内容も聞いていないが、全ての情報が傍受され、メタデータ*として保存される。これは国際法、国内法上許されないことである。

 

  通信内容ではなくいつ、どこで、誰が、誰に、どのくらいの時間会話したかという情報。

 

侵害される権利

 

027 憲法修正第四条*は、私人間の通信、家宅捜索、物品の押収・差し押さえが、裁判所の令状がない限り許されないとし、警察は或る人が犯罪者であるかどうかを調査するための合理的な理由を裁判所に説明しなければならない。

 

*憲法修正第四条「不合理な捜索・逮捕・押収から、身体・家屋・書類・所有物の安全が保障されなければならない。上記の捜索・逮捕・押収は、宣誓や確約によって証拠づけられる相当な理由に基づき、捜索の場所、逮捕する人、押収する物を記載した令状がなければならない」『新版世界憲法集』岩波文庫

 

 この権利が侵されたのを私は目撃した。つまり警察があらゆる人を監視対象としたのである。911以後の恐怖心がその抑制機能を下げ、技術革新がその監視を容易にした。

 

全ての記録は自動的に収集され、メタデータとして保管されている。

 

028 金昌浩 政府は通信の中身は見ていない、メタデータしか見ていないと言う。

 

029 携帯は位置情報をつくり出して事業者がそれを保存している。各都市の携帯基地局がそれをキャッチしてそれを事業者に送っている。某が東大での政治的な集会に参加しているという事実を政府は収集できる/してもいいと主張する。つまりいつ、何処で、何をし、どの手段(地下鉄、駅、スイカカード)で、其処へ行ったかや、車の登録番号、誰と会ったかなどというデータである。グーグルの検索記録は永遠に残り、事業者がそれを記録している。どういうニュースを読んだか、どこと接触したかや交友関係が分かる。また米政府は外国人に対して、FBやグーグル・アップルなどの利用情報を入手し監視するのに裁判所の令状は要らない。

 

大量監視を制限する動き

 

監視活動に関する米日協力関係

 

034 金昌浩 スノーデン君は2009年に来日してデルの従業員として横田基地で働いていた。

 

報道された範囲内での米の個人情報取得状況

 

スノーデン 私は情報をジャーナリストを通じてしか漏らしていない。

035 米日は情報を合法的に交換し合っている。情報は全て米を通過する。米通信会社はNSAに情報の収集・利用を許可している。18

 

18 NSAが光ファイバーケーブルやルータに直接アクセスし、電話、ネット通信・メールを入手する監視プログラムをUpstreamという。そのうち、AT&Tとの連携はFAIRVIEW18といい、最大の予算がついていた。BLARNEYFISAとの連携、STORMBREWはベライゾンとの連携、OAKSTARはその他7つの電話会社と連携したもの。この4つを合わせて、Upstreamという。

 

036  私はハワイのNSAXキースコアという大量監視装置を使って中国のハッカーを追跡していた。IPアドレスを用いれば、通信がどこからどこへ接続しているかが分かる。

037 横田基地は米日情報機関の橋渡しをしている。米情報機関は日本の情報機関とアメリカにおける情報を常時交換(提供)している。逆に日本も米に対して、日本に関する情報を交換(提供)している。それはテロや軍事、敵対行動などに関する情報である。

 

 

人権活動家、弁護士、ジャーナリストも監視対象――英豪の場合

 

038 GCHQ Government Communications Headquarters19 は、裁判所も介入させず非合法的に米と7年間以上情報交換をしていて、アムネスティ・インターナショナルを監視(2015/7/1プライバシー・インターナショナル報道)していた。

 

19 英のMI6は外国の諜報活動を担当し、MI5は国内を担当し、GCHQは通信傍受を担当している。

 

039 またGCHQジャーナリスト(のメール)も監視していた(2015/1/19ガーディアン報道)。カナダの新聞は英GCHQBBCやニューヨークタイムズ紙その他のメディアを監視していたと報じたが、英GCHQは調査報道型ジャーナリストを国防上の脅威としてリストアップし、民主主義社会にとってジャーナリストはハッカーよりも危険であるとする。

 

040 米では弁護士に対するスパイ活動は法律上禁止されている20が、豪政府情報機関は、NSAが集めた米市民に関する情報と、米が提供した監視プログラムを用いて、米法律事務所や弁護士を監視し(2014/2/1521、それを米政府に提供している。つまりテロ容疑者を弁護したとして弁護士を監視しているのである。

 

20 米では弁護人と依頼者との間のやり取りの開示は拒否できる。

21 豪政府が米弁護士とインドネシア政府との打ち合わせを傍受していた。(NYT報道)

 

041 豪政府ジャーナリストを監視していた。それは時の経済協定で有利な条件を得るためだった。

 

 

無関心と無知がもたらす脅威に目を向けよ

 

042 国家によるプライバシー情報取得に対抗する市民の手段として暗号化技術もあるが、市民が政府を監視することも重要だ。日本での2013年の秘密保護法は、政府が自由に情報を機密化できるようにしたが、その機密化は例外的でなければならない。米でも政府の機密特権のために、統治の機能に被害が生じている。

 

 

秘密主義は政治の意思決定の過程や官僚の質を変えてしまう

 

044 私が政府の情報を暴露する数カ月前の20132月、政府による監視の違法性を争う訴訟の連邦最高裁判決23が出た。ACLU(アメリカ自由人権協会、American Civil Liberties Union)が原告となり、大規模な監視捜査を指摘するジャーナリストの調査報告に基づき、NSAが憲法違反の監視を行っていると主張した。これに対して政府はジャーナリストも市民団体も自らが監視されていることを立証することは国家機密上許されないから、裁判所は政府による監視の違憲性を判断する権限はないと主張した。そして最高裁も政府のその主張を認め、この問題は法の支配の範囲外とされてしまった。

 

23 アムネスティ・インターナショナルが原告で、ACLUが代理人の一人となり、政府による大量監視の違法性を指摘したが、連邦最高裁は監視の事実を裏付ける証拠がない臆測だとして却下した。(2013/2/26ワシントンポスト紙報道)

 

 次は上院情報機関監視委員会の場で某上院議員が質問したことである。「NSAは法に則って活動しているか、アメリカ人に大規模な監視捜査をしていないか、行っているなら、必要な手続きを踏んでいるのか」と尋ねた。これは宣誓に基づく証言なので嘘をつくと重罪となるが、担当のクラッパー国家情報長官(DNIDirector of National Intelligence)は「NSAが偶発的に収集してしまうことはあるかもしれないが、意図的にはない」と答えた。2013/3/12

046 具体的事例ではなく一般論としての質問だったが、「していない」と長官は答えた。政府のこの秘密主義は政策決定過程や官僚の質を変えてしまうだろう。ジャーナリストは政策の実施過程に関してつんぼ桟敷とされ、政府は法律を濫用するようになり、何をやっても国民に伝えなくてもよいことになるだろう。この秘密主義は政府の説明責任を無視することであり、非常に危険なことだ

 

 

ジャーナリズムの役割は政府の暴走を抑制することであるはずだ

 

049 日本政府による九条改憲の策動には、改憲の反対者が国民の2/3もいるのに、それを無視する全体主義へ向かう危険性がある。安倍政権は憲法改正ではなく解釈改憲を行った。これは世論や、政府に対する憲法の制約を、意図的に破壊した。

050 政府が「世論は関係ない」と考えることは危険だ。このような時にジャーナリストは政府が何をしようとしているのかをつかんで伝えなければならない。全ての情報が特定秘密とされるのは危険だ。メディアが政府を批判しないようにプレッシャーをかけてくる政府に対抗するために、メディアは団結すべきだ。

 

 

メディアには大きな変革をもたらす力がある

 

金昌浩 あなたはアメリカの主要メディアの一部から裏切り者と呼ばれている。

 

スノーデン 私は愛国者だから、自分が批判されても耐えられる。

051 2013年の私の暴露によって、裁判所は政府の合法性を否定し、違憲とした。25

議会も動き、情報当局の権限拡大方針を40年ぶりに変え、それを制約する法律を制定した。オバマ大統領は私の行為を許すことができないと言っている。オバマ大統領は日本人とドイツ人のプライバシー権を若干保障した。27

 

25 リチャード・レオン連邦地裁裁判官は、NSAによる電話の大量メタデータ収集をプライバシー侵害とした。また政府は収集行為によって防止できたテロ事件を明らかにできなかった。

27 オバマ大統領「監視の際に外国人のプライバシーにも配慮せよ」

 

052 英政府は新聞社のパソコンを破壊した28が、データはニューヨークに転送して無事だった。

 

28 GCHQの職員がガーディアン紙の編集者にパソコンの破壊を命じた。

 

 

日本の報道は危機的状況

 

053 メディアの上層部は政府の意に沿わない論調だとしてニュースキャスターを降板させたが、その前に政府は放送法を再解釈し、公平性を装う警察のようにふるまっていた。

 

 

テロへの不安に乗じて拡大される監視活動

 

055 情報機関の関係者の中にはイスラム嫌いがある。それは彼らがテロの脅威や極端な原理主義が存在していると知っているし、犯罪を企む悪い人もいるからだ。

056 一般人が恐怖しているからという理由で、イスラム教徒は捜査の対象になりがちである。

 日本でのテロ事件は1995年のオウム真理教事件以来起きていない。西欧諸国や日本ではイエメンやイラク、アフガニスタンなどと違って、テロ事件はあまり起きていない。

057 それでも米はモスクを監視し、人権活動家や、アメリカ社会とイスラム社会との関係構築を唱えるCAIR(アメリカ―イスラム協議会、Council of American-Islamic Relationsの関係者を監視している

 

 

政府はグーグルの検索内容を監視できる

 

NSA(米政府)は、実際はテロリストではないのに、イスラム「過激派」とみなしたムスリム活動家の性に関するグーグル検索を調べてそれを暴露し、性に関して保守的なイスラム世界の人々の彼らに対する信頼を損なうようにする目的で、グーグル検索履歴を集積している。その理由は彼らの反政府的な政治活動が政府にとって不都合だからである。(ハフィントンポスト報道2013/11/26

 

 

日本ではテロよりも風呂場で滑って死ぬ確立の方が高い。

 

058 実際にテロが発生し、連続殺人犯を見つけるためなら、この検索履歴の捜査という手法は許されるかもしれないが、NSAは経済政策(日米におけるさくらんぼの貿易交渉)や気候変動交渉に際して、日本の大企業の重役や政治家、官僚の電話を盗聴し、政府の内部会議を盗聴していた。脅威の程度を検証する必要がある。32

 

32 脅威・危険性の程度の差がある。最大が現実に差し迫った脅威、次が具体的な脅威、次が抽象的な脅威、最後が狭義のリスクである。テロのリスクがあることを人権制約の理由としては歯止めがなくなる。

 

会場やオンラインからの質問

 

060 

 

34もしスノーデンが米国でスパイ法違反容疑で裁判が行われるとしても、情報の暴露によってもたらされた政治改革という情状は酌量されない。

 

061 アメリカの陪審制は信頼できる。

 

 

暗号化技術がプライバシーを守る

 

35 アップル対FBI訴訟 2015122日、カリフォルニア州サン・ベルナルディーノでの銃乱射犯人のセキュリティー・コードの解除をFBIがアップルに求め、連邦地方裁判所はアップルに解除を命令したが、アップルは異議を申し立て、グーグルやアマゾンも巻き込んで論争した。しかしFBIが協力者を得て、解読に成功し、訴えが取り下げられた。

 

オープン・ウィスパー・システム社のシグナル36は電話を暗号化し、WhatsApp37はテキストを暗号化して政府の情報収集に対抗している。

 

 

(政府からの)情報が公共の利益にかなうかどうかを判断するのは政府でなくメディアである

 

064 日本では記者クラブの排他性のために、ジャーナリスト個人の素養ではなく、コネの方が重要になる。

 

 

プライバシーは自分が自分であるために必要な権利である

 

066 金昌浩 ジャーナリストでもなく、政治活動もしていない普通の人はこう言う。「政府はテロ対策として監視しているのであり、危険な活動に関与していない自分は監視されても問題ない」と。

 

スノーデン 企業や政府はプライバシーの重要性の水準を下げようとしている。政府「隠すことがなければ恐れることはありません。」第二次大戦時のドイツのプロパガンダ省のゲッペルス大臣「心配はいりません、政府を信じてください。我々は権限を適切につかいますから」

プライバシーは他人の判断や偏見から自己を守るための権利である。情報源(秘密)を守ることができなければ、(国家権力から)独立した調査ができなければ、政府からの監視を恐れずに取材して、書きたいように記事を書けなければ、報道の自由はなくなる。権利は少数派を保護するためのものである。プライバシーがなくなれば、あなたは社会のものになってしまう。社会があなたはどういう生活をすべきかを命令するようになる。プライバシーは自分自身の判断を可能にする。

 

 

権限を持つ人は説明責任を果たさねばならない

 

069 金昌浩 あなたの暴露があってから「アメリカ自由法」USA Freedom Actが制定され、国連もプライバシー対策を採った。

 

スノーデン 20165月、その1年前に退任した前任の米司法長官、つまり私が暴露した当時の司法長官が、私の暴露は「公共のためになった」と述べた。39 

070 欧州では「大量情報収集保持指針」を撤回した。40 EUは米・EU間の「セイフハーバー合意」が基本的人権を侵害すると判断した。41 国連は大量監視が「国際人権条約」に違反し、プライバシー侵害であると明言し、プライバシーの権利に関する特別報告者を任命した。42, 43 

 情報取得のプロセスが秘密であることは問題である。

071 説明責任もなく、法律も適用されない(国家)機関は腐敗する。権限が拡大し、影響力が拡大し、特権が拡大し、予算が拡大し、権力の乱用も次第に大きくなるだろう。

 裁判所はメタデータ収集を違法とした。NSA文書44自体が、NSAが法律やNSA指針に1年間で2776回違反したと自ら認めている。45 なのに誰も責任を問われていない。

072 権限を持つ人は説明責任を果たさなければならない。しかし現実は国家安全保障のためだとして法を逸脱しても言い逃れできる。拷問しても46 国家安全保障のためだとして免責される。日本でもムスリムを監視しても「必要があった」として責任が問われていない。

 政府関係者なら法を犯しても免責されることになれば、坂道を転げ落ちるだけだ。

 

39 20165月、前司法長官エリック・ホルダーはスノーデンの行為を「公共的行為」であったと評価した。

40 1995年制定された「個人情報保護指令」Data Protection Directiveの内容を修正し、20164月に「一般データ保護規則」General Data Protection Regulationを制定した。

41 2001年のEUと米商務省との間のSafe Harbor Agreementで、米がEU保護指令の実施を宣言すれば、EU内の情報を例外的に米に移転することを認めた。ところが、スノーデン暴露で、米某事業者がNSAに(EU内の)個人情報を提供していたことが明らかになり、オーストリアの某青年がこの協定がEU基本権憲章第8条違反だと指摘し提訴した。2015106日、EU司法裁判所がセイフハーバー条項の無効を宣言した。

42 20131218日、国連総会決議The right to privacy in the digital age

43 20157月、国連人権理事会がプライバシーに関する特別報告者を新たに選任した。

44 NSAの監督機関Signals Intelligence Directorate 201253日に取りまとめた資料。ワシントンポスト紙。

45 20114月から20123月までの1年間で2776件の違反行為を報告した。2013815日付ワシントンポスト紙。

46 米は「テロリストの捜査」と称してムスリムやアラブ系を拉致して拷問を加えた。911直後のニューヨークで、ムスリムやアラブ系762人を手当たり次第に拘束し、独房に監禁し、腕をねじ曲げ、手錠をかけて引っ張り、壁に押し付け、24時間部屋を明るくし、数十分おきに看守がドアを蹴とばして眠らせず、入退出時には裸にして所持品検査をし、トイレットペーパーや石鹸などを支給せず、宗教を侮辱し、大声で怒鳴りつけた。そしてその中にテロリストは一人もおらず、数か月後に全員が釈放された。これをTurkmen v. Hasty事件という。

 

感想 この拷問に関する記述から、米が人種差別社会であることがよく分かる。この記述は加害者側の証言にも基づいているのだろうか、それとも被害者側だけの証言に基づくものなのだろうか。戦前の日本では治安維持法関連で500人の人命が奪われたが、その加害の実態を加害者側が語ることはなかった。そして加害者側は今でもそれが「適法」だったとうそぶいているのである。従って被害の実態は生還した被害者の言葉に基づくしかない。また戦前の日本では、他民族の朝鮮人や満洲人(中国人)に対しては、日本人に対する以上に苛酷で、死刑執行も行われたという。(荻野富士夫『よみがえる戦時体制』039

 

 

人類史上未曽有のコンピューター・セキュリティの危機(専門的で意味不明)

 

072 完全に安全なシステムは、現在のところ誰にも作れない。メッセージ・プログラムであれ、プロトコル*であれ、根本的に脆弱である。政府が(某サイトへの)特別なアクセスを(某ネット会社に)求めて来る時、特定のグループに関する通信のセキュリティを突破するための「マスターキー」をつくるよう要請して来る。

 

*プロトコル データのやり取りでの手順や規約、信号の電気的規則、通信における送受信の手順などを定めた規格。

 

 米政府は「そのためには裁判所の令状が必要で、事前に第三者が審査するから大丈夫だ」と言う。しかし一つの政府のために働くということは、世界中の全政府のために働くことも含意する。

 また政府は合法的な捜査手続きを経る必要も、(電子)サービスを提供する会社の協力を待つ必要もなく、独力で特定のシステムに潜入してハッキングできる。つまり政府は暗号化をすり抜けることができる。それはNSAが毎日やっていることである。

074 暗号化は無意味ではないが、集合的なレベルで保護してくれるにすぎない。すべての通信の暗号を解読することはできないから。他方、暗号化をすり抜けて特定のデバイスにハッキングしてキーを盗むことはできる。

 政府に協力してシステムを弱体化させるということは、自国の政府をシステムに入れるようにする(利点)だけでなく、世界中のすべての政府との関係で、これらの基礎的システムを弱体化させることになる。

 その結果、システムの脆弱性が悪用され、政府に協力することによって防止しようとした被害よりも大きな被害が発生する恐れがある。

 

 

民主主義では市民が政府に法律を守れと言えなければならない

 

075 金昌浩 チェルシー・マニング47やダニエル・エルズバーグ48など過去の内部通報者は安全な生活を捨て、生命のリスクを冒し、場合によっては国を出なければならなくなった。

 

スノーデン トーマス・ドレークは私以前にNSAの大量監視49に関して正式な手続きで内部通報した。彼はジャーナリストとは接触せず、政府内の監督機関、政府機関が法律を遵守しているかどうかを確認する機関である監察官(査察官)50Inspector generalに告発した。

076 彼はまた議会の情報機関監視委員会51Intelligence Committeeにも話した。これは法律の定める手続き52に則っていた。

 しかし彼は検察官に送り付けられ、解雇され、家を失い、妻を失い、今はアップル・ストアでiPadを売っている。53

 ドレークはNSAのナンバー2である副ジェネラルカウンシルのビート・ポテンザを訪ね、大量情報取得監視は違法・違憲だと訴えたが、それに対してポテンザは「聞きたくない、私には関係ないことだ」と答えた。

078 市民は政府が違法行為をしていないかを知る必要がある。政策が法律に違反している場合は責任者に説明責任を果たすように追及できるようにしなければならない。

 政府がベールに包まれた舞台裏で政策判断を下す限り、何も分からない市民には発言権がなく、市民ではなく召使だ。対等なパートナーではなく、それ以下の存在だ。

 

47 チェルシー・マニングは2010年、イラク戦争やアフガン戦争の空爆ビデオや軍事資料など、所属していた米軍の機密情報をウィキリークスに暴露した。スパイ法で禁錮35年の刑を受け、服役していたが、20171月、オバマ大統領が恩赦を与え、20175月に釈放される見通し。

48 ダニエル・エルズバーグは国務省に勤務し、ベトナム戦争に関する政策立案に携わっていたが、1971年、ペンタゴン・ペーパーズという最高機密をニューヨークタイムズ紙に暴露した。スノーデンの行動を高く評価しているという。

49 省略

50 トーマス・ドレークはNSAと防衛省のそれぞれの監察官に面会し、違法行為を指摘した。

51 情報機関監視委員会は上下両院にあり、NSACIAなどの監視活動を監督する。

52 情報機関内部告発者保護法

53 20151112日、アルジャジーラが彼のインタビュー記事を報道した。

 

 

判断過程をAIやアルゴリズム*に委ねることは権力の濫用を生む

 

*アルゴリズム 問題解決のための方法の手順

 

079 大量監視は質の悪い無能なAIと言える。大量監視は世界中の人々の全ての情報を集めればその中からテロリストを発見できると考えるのだが、フォルス・ポジティブの比率が高い。54, 55つまりテロリストでない人をテロリストとする。

 

54 「フォルス・ポジティブ」は誤検知とか擬陽性と訳される。

55 国連人権理事会の「対テロ対策と人権」に関する特別報告者マーティン・シェイニーは、「大量監視は警察の労力を無駄遣いする」と報告した。2007/1/29

 

政府は私の2013年の暴露を踏まえて、独立委員会PCLOB56NSAの大量監視の検証をさせ、その結果2014年に報告書を公開した。その結論は、「大量監視は違法であり、終了すべきだ」57とし、「10年近く33千万人の全アメリカ人と世界中の通信情報を裁判所の審査もなく、法的手続きもなく収集したが、一つのテロも防止できず、テロ捜査のために有意義な情報が一つも得られなかった」と報告した。

080 そしてテロリストでない人をテロリストとし(フォルス・ポジティブfalse-positive、擬陽性)、テロリストをテロリストでないとする。(フォルス・ネガティブfalse-negative、偽陰性)

081 AIが役立つのは人間の判断を支援する画像認識などであり、法制度の代わりはできない。判断過程をアルゴリズムに委ねると、権力の濫用を生む。

 

56 Privacy and Civil Liberties Oversight Board 議会が設立した大統領直属の組織。法律専門家など5人からなる。

57 愛国者法215条に基づく電話盗聴制度に関する報告書。

 

 

自由を享受できる社会は市民が主役になって初めて実現される

 

081 日本人に対するメッセージ 

 

 関心を持つこと。プライバシーは隠すことではなく、守るためのものであり、開かれた社会の自由を守ることである。自分の権利を守り、政府が適切に運営されるように努力しないと、権力は腐敗する。

082 市民が反対しているのに政府が意に介さず法律を成立させるような社会の政府は制御不能となる、人々が政府と対等なパートナーではなくなる、全体主義になる。

 常に目を光らせる。政府の良いことも評価する。自分の要求を言う。選択、同意、参加がキーワード。

083 会話し、議論し、忘れない。

084 リスクは存在するが、怖がらない。(政府の)過ちを見つけたらそれが既定路線になる前にすぐに行動する。自由を享受できる社会は、市民が主役になって初めて実現される。

 

おしまい


 

第二章 信教の自由・プライバシーと監視社会

――テロ対策を改めて考える

 

イントロダクション

 

100 司会、注釈作成、本文構成 井桁大介 JCLU所属弁護士。201、巻末

・ベン・ワイズナー ACLU所属の弁護士で、スノーデンの法律アドバイザー、

・マリコ・ヒロセ NYCLUニューヨーク自由人権協会New York Civil Liberties Union所属の弁護士、ニューヨーク市警によるムスリム監視差し止め訴訟代理人、

・宮下紘 中央大准教授、専門はプライバシー、米とベルギー留学、

・青木理 ジャーナリスト、公安警察を取材、

 

1 スノーデン暴露が明らかにした米政府による監視

 

101 エドワード・スノーデンはNSAの下請会社に勤務していた。20136月から英ガーディアンと米ワシントンポストが報道した。大きく三つあり、

・膨大な電話のメタデータの収集bulk collection NSAが米電話会社に命じて国際・国内通話のメタデータを毎日提出させていた。別名215条関連。

102 ・FB、グーグル、アップルなど米に本社のある9社に、メールやSNSなどを提出させていた。別名PRISM

・海底光ファイバーなどに捜査官が直接アクセスしていた。別名Upstream

 後の二つ、PRISMUpstreamは、FISAForeign Intelligence Surveillance Act)改正法702条関連で、裁判所の令状を取る必要がない。年間2500万件以上の通信傍受をしていた。1 

 

1 省略

 

 

誤った者(トランプ)が裁判官や連邦議員の情報を手にできるかもしれない。

 

103 ワイズナー このシンポジウムはJCLU自由人権協会主催である。

 

 

NSAは日本語のメールや電話も傍受している

 

105 米国民にはNSAの監視に対する一定の保護があるが、外国人にはそれがない。またネット情報の大部分は米企業を経由する。

 

 

全てを集める

 

106 NSAは全ての情報を集める時に、法律上の許可を得なかった。

 

 

メタデータは過去の記録に遡ることのできる監視のタイムマシンである。

 

107 NSAはアフガニスタンやバハマ関連の全ての通話を集めている。

 

 

2 ムスリムに対する監視

 

再掲 094 46 米は「テロリストの捜査」と称してムスリムやアラブ系を拉致して拷問を加えた。911直後のニューヨークで、ムスリムやアラブ系762人を手当たり次第に拘束し、独房に監禁し、腕をねじ曲げ、手錠をかけて引っ張り、壁に押し付け、24時間部屋を明るくし、数十分おきに看守がドアを蹴とばして眠らせず、入退出時には裸にして所持品検査をし、トイレットペーパーや石鹸などを支給せず、宗教を侮辱し、大声で怒鳴りつけた。そしてその中にテロリストは一人もおらず、数か月後に全員が釈放された。これをTurkmen v. Hasty事件という。

 

ヒロセ

 

110 20118月、AP通信の調査報道が、ニューヨーク市警が911以降、ニューヨーク州やニュージャージー州など3つの州でムスリムに対する監視捜査を行っていると報じた。そしてその監視理由はイスラム教を信じていることだった。

 報道後、ニュージャージー州(ハッサン事件)とニューヨーク州(ラザ事件)のムスリムやモスクは、ニューヨーク市警に監視収集の差止を求めて提訴した。

 ハッサン事件は一審では敗訴したが、連邦控訴審が「宗教だけに注目して実施した監視捜査は違法の疑いがある」として原審に差し戻した。4

111 ラザ事件は長年の協議を経て、20161月、ニューヨーク市警が「二度と宗教に着目した監視捜査を行わない」ことを約束して和解がなされた。5 

 

4 省略

5 ところがこの訴訟は「ハンチュー事件」と併合して審理が行われ、前述の1月の和解案の効力発生にはハンチュー事件の裁判所の同意が必要とされていたが、201610月、その裁判所が「該和解案の内容は再発防止策として不十分である」として、具体的な改善内容を提案し、該和解案への同意を拒否した。これを受けて、当事者間で再度協議が行われ、201736日、前記10月の裁判所提案とほぼ同じ形で和解案が訂正された。NYTが報じた

 

 

911後のムスリムの監視は、第二次大戦時の日系米人の境遇と似ている。

 

ヒロセ 私は米自由人権協会ACLUのニューヨーク州支部であるニューヨーク自由人権協会NYCLUに所属している。私は日本で育った。

 2011年のAP通信の報道6によってニューヨーク市警察NYPD911直後、ニューヨーク市や市外のムスリム社会をイスラム教徒であるという理由だけで監視していることが分かった。ムスリムはAP報道以前からこのことに気づいていた。

112 警察はモスクの前に監視カメラを設置し、モスクやムスリムの学生団体へスパイを潜入させ、ムスリムが多く住む地域の商業活動を把握し、マッピング7をしていた。

 この監視捜査はムスリム社会に相互不信を招来し、モスク来訪者も減少した。

 第二次大戦中、米で生まれ、米市民権を持った米人が、日本人を祖先に持つという理由だけで、監視され、一定の地域から退去させられ、自宅を捨てて収容所に収容された。8

113 その過ちを忘れたかのように今ムスリムに対して同じことが行われている。

 

6 AP通信はこの報道によって2012年のピュリツァ―賞を受賞した。そんな賞はいらない。

7 ニューヨーク市警は、ムスリムが多い国ごとに地図を作製し、居住地、経営者や客の多くがムスリムの商店、モスクなどをその地図に書き込んだ。

8 米政府は1941128日以後、太平洋沿岸の大部分を軍事区域に指定し、区域内に住む日本人、日系人に移動を命じた。当時これは人種に基づく差別であるとして訴訟がいくつか提起されたが、当時の最高裁は日系人の訴えをすべて却下した。数十年後、軍が主張していた「日系人スパイ可能説」が捏造されたものであることが判明し、政府と議会はそれが差別的で違法であったと認め、謝罪し補償金が支払われた。

 

 

監視捜査は宗教差別であり、監視の効果はゼロだった

 

 警察は店を訪問して店主や客の国籍や会話の内容を記録した。モスクについても同様で、説教の内容も記録し、さらにスパイを送り込んで、モスク内に疑心暗鬼が広がった。

114 米自由人権協会、ニューヨーク自由人権協会、ニューヨーク市立大学ロースクールのCLEAR, Creating Law Enforcement Accountability & Responsibilityの三者が、監視捜査は宗教差別であり宗教への干渉であるとして訴訟を起こした。

115 監視の効果はなかった。

 これまでに警察は反政府組織や黒人、ラテンアメリカ人社会に対しても監視を行っていた。9, 10ニューヨーク市警は黒人やラテン系住民を、白人よりも高い比率で犯罪容疑の対象にし、路上で訊問した。11

 

9 1960年代から90年代にかけてCIAFBIは、反戦活動や公民権運動、LGBT活動などを監視し、違法な盗聴を行っていた。それをNYTが報道した。(CIAFBIは)マーティン・ルーサー・キングに自殺を迫る脅迫文を送るなどもしていて、批判が高まり、議会はチャーチ委員会を設置した。その結果監視捜査を制御する仕組みができた。

10 ニューヨーク市警はデモ活動を対象に監視捜査を行っていた。ニューヨーク市警に対する集団訴訟が提起された。この訴訟は原告代表の弁護士の名前をとってハンチュー事件と呼ばれる。1985年和解が成立し、ハンチュー委員会が設立された。この委員会はニューヨーク市警の内部に設置される独立した委員会で、市警の行為を個別にチェックしている。

11 職質。Stop and friskという。Friskとは身体検査。日本の職質以上にプライバシーや身体の拘束度がひどい。ニューヨーク人権協会が調べたところ、人口や犯罪率とかけ離れて黒人やラテン系が(職質の)対象とされていることが分かった。警官による差別的言動もあった。2010年代にいくつかの訴訟が起こされ、裁判所は差別的として差止を命じた。この問題は2013年の(ニューヨーク市の)市長選の争点となり、改革派の市長が当選すると、運用が見直され、職質の年間件数10万件が2万件に減少した。

 

3 新しい科学技術の利用

 

ヒロセ

 

116 日本の警察は新しい科学技術を秘密裏に利用しているが、米では利用している一部を公表している。

 「スティングレイ」という監視手法を米警察は議論もなく秘密裏に使用している。いくつかのタイプがあり、一つは通信会社の周波数と同一の周波数を用いた基地局を設置して、顧客の情報を奪うというもの。二つ目は、この方が一般的だが、某携帯の識別子を入力して、その携帯の動きを追跡するというもの。12三つめは、より進化したものだが、メールの送り先やさらに電話やメールの内容を傍受するというもの。いずれも軍事用に開発されたものである。

 

12 その他の手法として、フィッシングがある。NSAは偽装FBサーバーにアクセスさせたり、迷惑メールを送り付けたりして、コンピューターをウイルスに感染させ、その内部の情報を抜き取っていた。全世界で数百万のコンピューターを感染させる計画だった。またFBIは顔の画像を数億人分保有している。これをNext Generation Identification-Interstate Photo Systemという。さらに防犯カメラの映像から、対象人物がいつどこにいたかを、またリアルタイムに知ることができつつある。これをFacial Analysis, Comparison, and Evaluationという。

 NSAは数兆件の情報を収集したが、その監督制度が必要である。科学技術の専門家がいない日本の公安委員会は役に立たない。

 

 

4 日本におけるムスリムに対する監視の概要

 

118 201010月末、警察庁外事第三課などの捜査資料がネット上に流出した。それには日本に住む多数のイスラム教徒の個人情報が大量に含まれていた。警察はその資料が警察のものとは認めず、賠償もしなかったが、おかしなことに、一応謝罪はした。被害者たちは、国と東京都(警視庁)を相手取り提訴した。最高裁は流出した資料は公安警察のものであると認定して損害賠償を認めたが、監視捜査は合憲とした。なんと。おかしい。ネット漏洩の経緯や犯人はまだ分かっていない。

 

 

冷戦終結後、911によってムスリムが新たなターゲットになった

 

青木 日本では戦後CIANSAに類する専門の情報機関を持たない状態をずっと維持してきた。これは戦争中の反省13によるものだろう。警察組織の一部門である警備公安警察が、ニューヨーク市警やFBIなどの機能を持つ情報機関としてテロ情報を収集している。CIAのような国外の情報機関と情報交換をしているのが、公安警察の中の警察庁警備局公安警察出身の官僚が配された組織である。内閣情報調査室防衛省の情報機関にも警察官僚が出向している。最近防衛省の情報機関も力を強めているが、警察特に警備公安部門が(情報収集の)中心となっている。

120 ムスリムの監視をしていたのは、警察庁の意向を受けた警視庁である。

 

13 戦中に特高は思想警察として人々から恐れられていた。特高は、犯罪予防、国家秩序の安定、機密情報の保持などを理由に、密告などに頼る監視捜査網を構築し、国民の表現の自由、信教の自由、思想良心の自由などを侵害し続けた。その反省から治安維持、犯罪予防に特化した特別の組織を設立することに「アレルギー」があると言われている。

 

警察の歴史

 

 戦前の警察組織は内務省を頂点とした中央集権組織だったが、戦後はGHQの意向などを受け、自治体警察として再出発した。東京に警視庁が、他の道府県に警察本部がおかれ、一応独立した組織となっている。

 しかし自治体警察制度は徐々に骨抜きにされ、中央省庁として設置された警察庁が人事と予算の権限を握り、実態として警察庁が頂点として君臨し、各都道府県警察を統制している。特に警備公安部門は中央集権的である。

 警備公安部門は戦後、思想統制的な特高警察などは撤廃されたが、共産主義や左翼運動の監視を目的に息を吹き返し、徐々に巨大化した。

 しかし冷戦体制が終わり、警備公安部は存在意義を喪失し、徐々に人員が削減されたが、911で国際テロ対策部門を充実させ始めた。特に警視庁公安部は911の翌年、新たに外事三課を設け、ムスリムを監視し始めた。その資料がネット上に大量流出した。

 

流出資料から分かる公安警察によるムスリム監視の実態

 

121 私はオウム真理教事件の頃、通信社の記者として警備公安警察を集中的に取材していた。その後の2000年に『日本の公安警察』講談社現代新書を出版したところ、警備公安警察から「パージ」され、それ以後は深く取材していない。だからスマホやGPSなどの時代の警備公安警察の活動実態の詳細は把握していない。

122 対象組織の拠点の監視・尾行 ムスリムの監視 モスクの前のアパートやマンションを借り上げてカメラを設置し、出入りする人々を24時間態勢で監視する。それらの人々を尾行し、立ち寄り先や交友関係を調べる。

 そうした人物をさらに尾行し、プライバシー情報を集める。そうした情報収集によって、点が線となり、線が面となると彼らは言っている。ネットに流出した資料1がそれを示している。

 資料2は都内に住むムスリムの男性のプライバシー情報である。氏名、住所、生年月日、家族とその生年月日、勤務先、旅券番号、出入国歴、モスクへの立ち入り状況、身体的な特徴などである。

125 資料3は都内にあるモスクの場所、代表者、モスクの設立年月日、モスクに出入りしている人々の特徴、国籍、礼拝への参加者数、モスクの銀行口座などである。このことから違法に近い手段を用いて日常的に監視している様が浮かび上がる。

 資料4の「要警戒対象視察結果報告」は尾行の記録である。「要警戒」と決めつけたムスリムを24時間追跡する。朝8時「マルタイ=要警戒対象人物」の「視察」を開始し、居室のカーテンや電灯の様子、外出後は、セブンイレブンに入って何を買ったか、飲食店で誰と接触したか、「マルタイ」と接触した人物が何者か、そして必要ならその接触者も24時間体制で尾行をする。

 これらはかつて左翼勢力を監視する際に使っていた手段である。

 

別紙参照

 

5 ヨーロッパにおける監視捜査の状況

 

127 個人情報の収集に関する考え方は欧米で異なる。米のプライバシー権に関する規定である憲法修正4条は日本国憲法35条と類似し、住居の不可侵をうたい、特定の容疑と結びつく令状のない捜索や差し押さえを禁止する。判例法も発展し、住居など閉鎖的空間でなくても、プライバシーの合理的な期待が及ぶ状況でもこれが適用され、通信の秘密にも保護が及ぶ。

 

128 一方ヨーロッパではナチスが個人情報を収集・分析してユダヤ人を選別した経験を踏まえ、EUは国家が個人情報を収集すること自体を厳格に制限する。

 

 

ナチスのユダヤ人大量虐殺を可能にしたものは何か

 

宮下 国家の安全のためのテロ対策の情報収集は必要だが、プライバシー情報の「無断の」収集は許されない。(断ればいいのか)監視はテロを防げない。

私は「ブリュッセル自由大学」で20165月まで研究していた。EU各国首脳は「イスラム教徒はテロリストでない」と言っている。

私はポーランドのワルシャワの国際会議に参加したとき、アウシュビッツ収容所に行った。ナチスはユダヤ人の個人情報を収集した。目の色、肌の色、髪の色、話す言葉など80項目をパンチカードに穴を開けて管理していた。15, 16

 

15 IBMが国勢調査のデータを処理するために開発したホレリス機器を用いることにより、ユダヤ人の個人情報の仕分けや管理が可能になった。ナチスは国勢調査の情報をもとにドイツに居住するユダヤ人登記簿を作製し、その後その対象をヨーロッパ全土に拡大した。ヨーロッパでは国家権力が個人情報を管理すること自体を基本権に対する侵害と考える。

16 スノーデン流出資料から、いくつかの日本企業が違法に顧客の情報を警察に提供していたことが判明した。

 

オーストリアの青年の訴えがセイフハーバー協定を無効にした

 

131 2015106日、EU司法裁判所はEUと米とのセイフハーバー協定EU-US Safe Harbor Decisionを無効にした。これは28歳のオーストリア人マックス・シュレムスが、スノーデン暴露に基き、自らのFBNSAが監視対象にしていたことに対する抗議に基づく。17

 

17 第1章の注41を参照

 

 

6 NSAの監視は違憲(か)

 

132 NSAが光ファイバーに直接アクセスしたり、ネット会社に情報の提出を求めたりすることは米憲法違憲か。

 

スノーデン暴露がNSA監視の違憲性を問うことを可能にした。

 

ワイズナー ほとんどの監視技術は戦争のために開発された。それは深刻な危機に対応するためである。(戦争なら何をしてもいいのか)また(戦争の)危機が去った後は、新たに危機(テロの脅威)をつくって監視を正当化することもある。

133  NSAが光ファイバーに直接アクセスしたり、ネット会社に情報の提出を求めたりすることは米憲法違憲である。スノーデン暴露の前は、監視されているという証拠を提出できないから裁判を提起できないとされていた。18

 監視するには「正当な理由」が必要だ。(正当な理由(例えば戦争など)があれば監視してもいいのか)後で役立つから全てを収集するということは、私は違憲だと考えるが、今後争われるだろう。19

 

18 2013226日、米連邦最高裁は監視による具体的な損害が生じる証拠がないとして監視の違憲性の主張を却下した。第一章注23, 089, Clapper v. Amnesty International事件。

19 連邦控訴審で、電話のメタデータ収集は違憲とされた。これはスノーデン暴露に基づく。ACLU v. Clapper事件。

 

「テロの危険」という口実は、諜報機関の存在の正当化のための「燃料」である。

 

ワイズナー 911以後、米諜報機関の予算や権限が大きく変化した(肥大化した)。NSAは本来外国に対する諜報機関であり、米人に対しては利用できないとされていたが、1970年代にNSACIAFBIが国内の米人――市民運動のリーダーや女性運動、黒人の学生団体、反戦活動家など――を対象に大規模な監視を行っていたことが暴露され(前注9参照)、その結果NSAによる米国内での監視は法律で制限された。

 NSAは米国外での監視21では、あらゆる情報を収集している。その根拠は当初冷戦だった。(ソ連の)核兵器の存在は、「例外的な監視」を正当化した。(戦争なら例外よしか)そして冷戦後の911は「テロ対策」という巨大な予算を正当化し、22政府は毎年テロ対策として800億ドルを費やしている。「テロの脅威」は諜報機関を正当化するための燃料である。

 

21 省略

22 FISAは外国のスパイを取り締まるためのものだったが、911以後の「愛国者法」制定により、強力な監視権限が与えられた。

 

 

7 米政府による監視を制御するためにはどうしたらよいか

 

 地の文(文責不明) 警察による監視は国家防衛のために必要である。国家は民衆の監視を「適正に」用いればよい。(私はこの考えに反対だ。どんなにオバマが言ったとしても)

 

スノーデンは法律を破ることで民主的な「監視の監督制度」を再活性化した。

 

137 ヒロセ 監視と、地元警察による犯罪捜査とは異なる。後者は検察や裁判所が警察を監督することでその正当性が担保される。(そうかな)一方前者の監視は、犯罪が発生しなくても行う。23地元警察による監視は、それが法執行だから問題である。

 

138 ワイズナー 米議会の独立委員会PCLOBは、NSACIAを監督する。24また「諜報監視裁判所」Foreign Intelligence Surveillance Courtは、特別な裁判所であるが、これは法執行ではなく、海外での諜報活動の監視を承認する。

 以上の制度が機能していないことをスノーデンが示した。1970年代の制度は、現在では期待(信頼)できない。

 2013年のスノーデン暴露後に、オバマ大統領は「NSAの活動は三権によって承認されているから心配ない」と言った25, 26が、その後 オバマは「監視制度の一部は不要かもしれない」と前言を翻し、裁判所も「この制度の一部は違法かもしれない」と言い出した。そして議会は監視活動を制限する法案を通過させた。1978年に政府による監視権限が認められたが、それが今回初めて制限されることになった。

 

23 テロ対策は永遠に必要となる。(そうかな)全ての情報は犯罪(テロ)の予防上必要である。NSAのスローガンは「この世のあらゆる情報を集め、永遠に保存することは、テロ対策の究極の目的である」とするが、それは当然である。(そうかな)

24 第一章注56参照097

25 注14参照175 20136月の記者会見でオバマ大統領は「議会と裁判所が承認しているから憲法上問題ない」とした。

26 三権のお墨付きの下に適法・適正に監視していたのだが、スノーデン暴露はその間違いを指摘した。

 

スノーデン暴露以前、諜報監視裁判所138は機能していなかった。

 

139 宮下 私は2012年から2013年にかけてボストンにいたが、帰国直後にボストンマラソンテロ事件が発生した。米諜報監視裁判所は2012年に1789件の電子監視令状請求を受け、そのうちで却下したのは1件だけだった。27

 Pクラブ、つまり米議会の独立委員会PCLOB, 079,138は独立監視機関であり、大統領に直接進言できる機関だが、監視がここまで大規模に行われていたことは事前に知らされておらず、事後的な報告書を提出することになった。

 

27 2013年の統計によると、2001年以降平均毎年1700件の申請を受け、令状審査で拒否されたのは12件だった。その後2013年に1588件、2014年に1379件、2015年に1456件の申請があったが、電子監視に関するものでは1件も拒否されていない。

 

外国人(日本人)を対象とした監視は今でも続いている。

 

140 宮下 215条監視制度(計画、プログラム)は、米国民を対象として、電話のメタデータを収集する監視制度だが、これは20156月のフリーダムアクト法(米自由法069)によって停止された。一方702条監視制度は、外国人を対象としたもので、今でも行われている。28EUはセイフハーバー決定は無効であるとする判決を下したが、日本では議会・司法とも沈黙している。29

 

28 702条監視制度は、防諜のために、外国人を対象にその通信の傍受を目的としているが、防諜目的でないものや米人対象のものも含まれている。そして米議会の独立委員会PCLOBは、それがテロ対策として有効として、廃止を求めていない。これは215条監視制度とは異なり、スノーデン暴露後も連邦控訴審で合憲とされた事例がある。2017年にこの法律の効力が切れる。

29 メルケル首相が首脳会談で盗聴に抗議した。日本の高官も盗聴の対象と報道されたが、2013612日、菅義偉官房長官は「違法ならあってはならない」と発言した。(米が合法と言えばOKということか)

 

「自由な社会」の「唯一の」有用な解決策は、(政府から)独立したメディアである

 

141 ワイズナー 意味不明。国家権力が戦争を決断するとき、市民に伝えない秘密があってもよい。その秘密をどれだけ市民に暴露するかはメディアに任せる。

 

感想 米国は他国が嫌だ言われなければ自己中を押し通し、他国に対するスパイ活動を止めない。メルケルは首脳会談で「嫌だから止めろ」と言い、それで米が止めたか止めなかったか分からないが、日本はどうか。菅義偉官房長官は「米法に則って合法ならいい」と言う。対中国ではどうか、気象用気球飛来やTikTokの件で大声を上げる資格が米にはあるのだろうか。米は二重基準。

 

 

8 メディアの役割

 

143 青木 日本には専門の情報機関がない。これは戦後民主主義の成果であり、今でも(それによって)警察に対する制御が効いていると言える。日本の情報機関を公安警察が担ってきた。公安警察はある時期までは権力の行使に謙抑的であった。しかし「例外」があった。それは「左翼過激派」に対してであった。「あいつは過激派だ」と公安が目すれば、微罪でも別件でも検挙して身体拘束し違法な盗聴を行った。しかしオウム真理教に対しては、公安は事前に知らなかった。30公安は「テロ対策」には機能しなかった。

144 信仰の自由に対して公安が手を出したらまずいと考えていたのだろう。それを私は「謙抑的」という。

 オウム事件や911以後、その謙抑感が取り払われた。そして多少批判されることもあったが、悪法の特定秘密保護法が成立した。

 さらについ一、二週間前の20165月に、完全な盗聴法=改正通信傍受法が成立した。市民やメディアの警戒感は弱い。戦後70年を経て日本社会が変質したこともその理由かもしれない。(もともとなかったのではないか)

145 政府(警察)の持つ情報は市民の共有財産であり、「一時的に秘密が必要な場面がある」としても、それはいずれ公開されて歴史の検証を受けなければならない。日本社会にはこの原理原則が「根付いていない。」日本には政府に任せて守ってもらえれば安心・安全だというお上依存体質が非常に強い

 日本メディアの警察監視機能がますます弱まっている。警察の活動を深堀するメディアは皆無に近い。

 警察の捜査の実態はほとんど伝えられない。警察はGPS発信機を容疑者の車に取り付けていたが、裁判では合法・違法で割れている。(第一章注1では最高裁は違法としたとある085)こういう捜査がどのくらい行われているのかに関する報道がない。31

146 スマホや携帯内臓のGPSデータは捜査に使われていないのか、それが公安の情報収集活動に使われていないのか、アメリカでは「これだけ」使われている。32その(使われているという)情報やデータがメディアに出てこない。スノーデンのような告発を受け止める大手メディアが日本にはないだろう。33

 

30 オウム真理教は「かなり早い段階で」大規模なテロを計画していたが、公安がそれを把握していた形跡がない。

31 第一章注1参照。20171月、日本の警察が秘密裏にGPS捜査を行っていたことが暴露されたが、その運用の基準や実施件数は今でも明らかになっていない

32 米では逮捕時にスマホが押収され、令状なしに中味を警察が無断で確認していたが、20146月、米連邦最高裁は、スマホの中には詳細なプライバシー情報が含まれているので、中味を確認するためには個別の令状を取得する必要があると判断した。Riley v. California

33 ムスリムの監視については米ではメディアが調査報道していたが、日本では201010月にネットで公安資料が流出するまで一切明らかにされなかった。把握していても報道しなかったのかもしれない。

 

147 青木 先日ジャーナリストの後藤健二がシリアで殺害されたが、その直後にオバマ大統領は言った「後藤さんは勇敢にも自らの報道を通してシリアの人々の窮状を世界に伝えようとしていた」34と。日本の首相はどう対応したか。勇ましく「テロは断固許さない」とは言ったが、後藤さんの仕事への敬意は一言もなかった。そればかりか直後にシリア入りしようとしていたフリーカメラマンのパスポートを取り上げた。35そしてこれに対する批判は(市民やメディアの間で)ほとんど起らなかった。

 同じ時期の米国務省のHPにこんなことが記載されていた。国務省が紛争地域の取材に当たるジャーナリストやメディアを集めて勉強会を開き、ケリー国務長官がこう言った。「危険地で取材するジャーナリストの危険性をゼロにすることはできない。その危険性をゼロにする唯一の方法は沈黙することだが、沈黙は独裁者や圧制者に力を与えるから駄目だ。政府があなたがたにできることがあれば教えて欲しい」と。

148 日本ではジャーナリズムに対する理解が、政府も市民も低い。紛争地域の取材に当たるジャーナリストを「自己責任だ」などと切り捨てるなら、紛争地の真実を知ることはできない。

 

34 省略

35 シリア渡航を予定していたジャーナリスト松本祐一はパスポートの返納を強制された。

 

 

9 米での警察に対する新しい監督の仕組み――ムスリム監視に関する司法の取り組み

 

ヒロセ ラザ事件で警察と和解した。ムスリムに関する事件では、ラザ事件の他に2件、ハッサン事件(ニュージャージー州)とハンチュー事件がある。

 

149 ハンチュー事件は1970年代に提起されたが、これは政治的信念や信仰に基づいて自由な言論を行う人々を代表して起こした訴訟である。ニューヨーク市警が政治的活動などを不当に監視していることが発覚し裁判となったのである。1985年に和解したが、その際、ニューヨーク市警が監視捜査をするときには政治的な言論の自由を尊重すべきこと、そのための監督体制をつくることなどを約束した。

 2011年にAP通信がムスリムが監視されているという報道を行い、ハンチュー事件の代理人がかつての和解当時の合意に基づいてニューヨーク市警に情報提供をするように申し立てた。そしてムスリム地域に対する監視はハンチュー事件の合意に違反するとして提訴した。ハンチュー事件とラザ事件は併合して審理されており、和解に関しても併せて協議されている。

 警察との和解事項の一つは、ニューヨーク市警がウエブに掲載していた「西洋における過激化」という報告書の削除である。この報告書はテロの思想とイスラム教信仰とを混同し、ムスリム居住地域をテロリスト予備軍とするものであった。36ニューヨーク市警は今後のテロ捜査でこの報告書に依拠しないと約束し、報告書をウエブから削除した。

 二つ目はハンチュー事件で設けられた枠組みを強化したことである。言論の自由や信教の自由に干渉する捜査をする前に、検討すべき考慮事項を設定し、捜査の手法ごとに期間を制限した。37三つめは捜査の開始の是非を決定する委員会に市民代表の民間法律家Civilian Representativeを加えたことである。

 

36 全てのムスリムは過激化するものであり、その過激化の段階は4つある。第1段階は「前過激化段階」、第2段階は、「自己規定段階」、第3段階は「教化段階」、第4段階は「聖戦主義化段階」。松本裕之『ムスリムの過激化対策を考える~アメリカでの実例、インタビューから~』警察学論集657102頁以下参照。

37 テロ対策捜査を三段階に分類し、第1段階を「捜査の端緒」、第2段階を「予備的調査」、第3段階を「本格捜査」とし、それぞれの段階で可能な捜査手法を規定している。

 

151 ハッサン事件はニュージャージー州で行われた訴訟である。これもニューヨーク市警が担当した。(連邦控訴審は)第三巡回区連邦控訴裁判所が却下した原審を差し戻して本案審理を求めた。

 連邦控訴審は、「ニューヨーク市警の差別的捜査は具体的であり、審理に値する」とし、また「宗教に依拠した差別を行う際にはそれを正当化するだけの高度な事由が必要である」とした。そして(連邦)控訴審は「今回の(ニューヨーク市警による)監視捜査は、第二次大戦中の日系米人の強制収用に酷似している」とした。

 ニューヨーク市警による「テロ対策が目的だった」という主張に対して、(連邦控訴審)裁判所は、「宗教に基づき地域社会全体を監視したからには、それは宗教に基づく差別を禁止した米合衆国憲法の平等条項に反する」とし、「本案審理を進めるのに十分だ」とした。

 

 

10 日本やEUの取り組み

 

152 宮下 201312月、国連総会が、スノーデン暴露を受けて、「デジタル時代のプライバシー権」という決議38をし、日本もこれに賛同した。この決議は、「国連の全ての加盟国は、(警察の)監視に対して独立の監督機関を設けるべきだ」とした。

153 2014年の国連総会で特別報告者(ケナタッチ教授など)が任命され、報告書を提出した。特別報告者が各国の、国連決議の実施状況を調査している。

 日本では今年20161に堀部政男を委員長とする「個人情報保護委員会」ができた。しかし日本の「監督委員会」は、(警察による監視活動に関するものではなく)民間部門による監視活動に関するものである。

20165、警察、防衛、外交等の行政機関に対して、個人情報保護委員会がその監督権限を及ぼすことができる、「行政機関が保有する個人情報保護に関する法律の改正案」が成立した。39しかし匿名情報だけを監督するとし、一般的な(警察による)捜査活動に対する監督活動が及ばない。国連の決議を履行するためには、すべての行政機関に対して、第三者の監督機能が必要である。

 

38 省略

39 「行政機関等の保有する個人情報の適正かつ効果的な活用による新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するための関係法律の整備に関する法律」平成282016年法律第51号。この題名からは全く中味が分からない。

 

154 宮下 EU28全ての加盟国に警察を監視・監督する独立した機関があり、その機関に、捜査機関に対する立ち入り検査を認め、違法な個人情報を集めていないかをチェックしている。日本の個人情報保護委員会はこれと同様のものを目指したが、重要な部分(警察の捜査の監督)が抜け落ちている。

 警察を監視・監督する活動が第三者の下で行われ、テロ対策のための必要最小限の監視しかしないように監督すべきである。

 

155 青木 日本では残念ながらそういう議論になっていない。個人情報保護法も民間業者による個人情報の収集だけを問題としてダイレクトメール問題などに矮小化された。またそのためメディアの取材も不自由になる一方で、国家や政府による個人情報の収集が問題視されていない。

 特定秘密保護法、盗聴法強化、マイナンバー法(国民総背番号制)などの情報を、警察が捜査のために使うのを阻止することができていない。

 公安委員会制度は警察機構に対する監視機関であり、戦前・戦中における中央集権的な警察機構が市民弾圧の尖兵になっていたことに対する反省からできたものだが、これには二つの目的があり、一つは民間人が主体の公安委員会が警察を民主的に統制すること、二つ目は、政治と警察との間に公安委員会を置いて、政治権力が警察組織を恣意的に動かすことがないようにすることであった。

156 制度はいいのだが、都道府県警察の公安委員会も、警察庁の公安委員会も、事務局の役割を警察組織が握っていて、機能していない。公安委員の人選も各警察組織が行っていて、名誉職になってしまっている。

 公安委員会制度を復活・充実させることは有効である。公安委員会の事務局を警察から引き離し、専門のスタッフを置けば、かなりのことができるはずだ。警察は抵抗するだろうが。

 

157 宮下 EUでは基本権憲章第8条第3項で「プライバシーや個人情報を守るために独立した監督機関が監督する」としている。だから第三者機関が警察を監視することができる。またナチスの反省から、権力は民衆の情報を集めてはならないという背景もある。

 企業に営業秘密があるのだから、国家にも秘密があってもいい。しかし国民に「どこかのタイミングで」それを開示しなくてはならない。私は特定秘密保護法には賛成だ。しかし監視機能も充実すべきである。(自己矛盾)

 

宮下紘(憲法学)や司会者・井桁大介(弁護士)の発言から見られる、テロ=悪魔がアプリオリに存在しているとする考え方は、「テロ」=悪意の原因が自らの側にある社会的背景を無視あるいは忘れているのではないか。ここに「法律」の枠の中でしか考えられない法律家の落とし穴を感じる。

 

 

11 質疑応答

 

158 質問 政府の持つ情報は市民のものであるとのことだが、性犯罪者の個人情報を公表すれば、その人の更生に役立たないのではないか。

ヒロセ 性犯罪に関する情報の収集は無意味である。というのは性犯罪は家庭内や知り合いの間で生じることが多く、再犯率は低いからだ。

 

質問 民間企業に対する監督

 

ワイズナー 市民と民間企業との関係は同意に基づくから選択できるが、政府に対しては選挙や「民主主義的な監督」以外に監督できない。また政府は市民を牢屋に入れることもできる。(民間では選択できるといっても、実際は独占状態だから、実質選択できないのでは)

 

青木 ムスリム監視に関する流出データから分かることだが、民間企業は警察(警視庁外事三課)に進んで協力している。某大都市銀行は中東の国の大使館員(大使、大使館員、大使館付き運転手にいたるまで)の口座記録を警視庁に提供していた。令状を取って出させることはできるが、裁判所は認めないだろう。警察は「捜査関係事項照会書」を銀行側に出すこともできるが、これは任意であり、しかも特定の事件捜査を目的としなければならない。

 また都内の某レンタカー会社は顧客データを警視庁に提供し、都内の某大学はムスリム留学生のデータを提供していた。

 

宮下 201510月、アムステルダムでプライバシー・コミッショナー国際会議(プライバシー規制当局の国際会議)があり、民間企業に透明性*に関する報告書を提出させる決議が行われた。捜査機関がネット企業に情報提供を要求した件数、その提供件数などに関して報告をせよというものだ。(*これを透明性という)この会議に日本の「特定情報保護委員会」の堀部も出席したが、日本ではまだこの制度を導入していない。

 昨年総務省は、捜査機関が、携帯事業者から特定人の位置情報を本人に通知しないで取得できる、とガイドラインを改悪した。この報道を受けて海外では日本企業の海外進出は許さないという議論になっている。

 

質問 ラザ事件における警察との和解過程

 

ヒロセ ハンチュー事件における和解はうまく機能していなかった。警察によるムスリム監視はハンチュー合意に反していた。警察は宗教による監視捜査が憲法に違反することを認め、市民代表法律家を警察内部に設置して監視することに合意したが、和解ではニューヨーク市警の懸念も取り入れ、市民代表者の身元調査が行われ、守秘義務を課し、検討内容の公表前にニューヨーク市警内でそれを報告しなければならないことになった。

ワイズナー ラザ事件が提訴された時点と和解が成立した時点とで市長と警察のトップが入れ替わった。ニューヨーク自由人権委員会は市民に働きかけ、新聞の編集委員も事件を記事にするようになった。そのような政治的・市民的環境の中で和解に至った。

 

質問 日本の会計検査院は行政府の了解がないと検査できない。国政調査権も決議がないと行使できない。

 

164 宮下 201629日、オバマ大統領がFederal Privacy Councilを創設した。これは大統領直下の組織であり、各省庁に指示できる強大な権限を持つ。

 

ワイズナー 恒久的な解決策はない。闘い続けなければならない。組織は陳腐化する。監督機関は監督対象者と親しくなるものだ。市民に情報が行き渡る必要があるが、市民が情報を得るには、政府関係者が法を破ってジャーナリストに伝える必要がある。勇気と信念を持った内部者が、情報を市民と共有し、市民がこれに怒り、変化が起きる。情報は組織からはもたらされない。(大賛成)

 

ワイズナー スノーデンが恩赦されることを期待する。今週連邦政府の前司法長官が、「スノーデンは公的役割を果たした」と言った。二年前にはあり得ないことである。(オバマ)大統領は「スノーデン暴露以後の議論がアメリカを強くした」と言った。これも2013年には言われないことだった。裁判所が声を上げ、議会は法律を変えた。映画「シチズンホー」40は、スノーデンの動機が真摯であり、彼が行ったことは、個人的な目的ではなく、社会を強くするために行ったことであることを語っている。

 

40 ローラ・ポイトラス監督のドキュメンタリー映画。スノーデンがローラ・ポイトラスとジャーナリストのグレン・グリーンウォルドに暗号化したメールを送って香港で落ち合い、内部資料を提供し、それをグリーンウォルドらが記事にしてゆく過程が描かれている。2016年、Gaga+が日本で公開した。

 

 

まとめ

 

青木 私はメディア界に入って30年になる。警察に対する一番強力な監視機関はマスメディアである。スノーデンとそれを受け止めた記者に敬意を表する。

宮下 警察による監視とプライバシー保護とのバランスが大事で、一方だけを取ることはできない。

ヒロセ 透明性と(警察に対する)監督が大事だ。ラザ事件は和解したが、その後も問題がある。透明性に関して戦い続けなければならない。ニューヨーク市警は、スティングレイ116など、秘密裏に新しい技術を監視捜査に用いている。

ワイズナー アリストテレス「人々が政府のことについて全てのことを知っていることが民主主義であり、政府が多くのことを知っているが人々が政府のことを知らないのは専制政治である」

 


 

あとがきにかえて ベン・ワイズナーとの対話 201721日 聞き手=金昌浩

 

「トランプ政権前にスノーデン事件があったことは幸運だった」

 

トランプ時代のアメリカ

 

182 ワイズナー 201610月ごろ米自由人権協会ACLUDonald Trump : A One-Man Constitutional Crisisという報告書を出した。1イスラム教徒の入国禁止、名誉棄損法の改悪、捕虜の拷問など、トランプの提案の多くは違憲である。2017127日、トランプが難民入国禁止の大統領令に署名した日の翌朝、我々ACLUは訴訟を起こした。そして同日夜ニューヨークとボストンの連邦裁判所で審理が行われ、裁判官はトランプの憲法違反を判決した。

 

1 省略

 

186 

 

4 トランプによってCIA長官に指名された共和党のマイク・ポンペオ下院議員「国家機密を他国に漏洩し、アメリカ軍隊を危険にさらしたスノーデンは死刑に値する」

 

188 ロサンゼルス市やニューヨーク市は移民にとっては聖域都市である。トランプはこれらの都市に対する連邦補助金を削減しようとしている。6

 

6 トランプ大統領は2017125日、聖域都市に対する連邦資金を削減する大統領令に署名した。これに対してサンフランシスコ市やその他の自治体が、大統領令が憲法違反だとして訴訟を起こしている。

 

189 金昌浩 元軍人でCIA長官になったポンペオは拷問を正当視している。

 

ワイズナー イスラム教徒の入国を禁止する大統領令は新聞に掲載されるまで国防長官やCIA長官、国土安全保障長官などが目を通すことはなかった。

 

190 金昌浩 国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルや米自由人権協会はスノーデンの恩赦を求めたが、実現しなかった。

 

ワイズナー トランプ大統領やポンペオCIA長官はスノーデンの死刑を求めている。トランプ政権と合理的な対話はできない。ロシアでの滞在許可が20204月まで延長された。

 

192 ワイズナー 一般民衆は(プライバシーに関して)関心を持つべきである。一般民衆が政治的変化をもたらすべきである。議員に働きかけなければならない。また企業に対しても監視から保護するように求めることもできる。プライバシー保護の道具や暗号の使い方を学ぶことができる。

193 テロ行為は社会の存亡にかかわることではない。政府の今のテロに対する関心のあり方を変えなければならない。テロ対策のための金銭や権力は必要ない。米でテロで殺される確率は1/400万にすぎない。今は世界大戦や冷戦下の脅威に直面していない。人々は少しくらいのリスクよりも自由の方を求める。

 

194 ワイズナー 過去50年間で現在の犯罪率は記録的な低水準にあるのに、メディアは犯罪を誇張して報道し、テロ行為を大々的に報道する。政治家がテロの脅威について語ると力強いと称賛されるが、穏やかな口調で「この問題をいろいろな角度から分析しよう、戦争を始める必要はない、新たな政府の権限は必要ない」などと言えば、世間知らずで意気地がないと批判される。

 今米国では(トランプの下に)憲法が危機に陥り、自由が制限されつつあるが、週末に何千人もの人々が空港に押し掛け、難民入国禁止に抗議し、トランプ就任の翌日には抗議する何百人もの人々が路上を埋め尽くした。米自由人権協会の加盟者数は二倍以上に増えた。7行動が求められる。

 

7 20171月の最後の週末だけで、米自由人権協会に2400万ドル27億円の寄付が集まった。それはこれまでの年間平均の6倍であった。

 

以上

巻末付録 スノーデンからのメッセージ原文より抜粋

 

Foreword from Edward Snowden

 

002  I hope that citizens in democracies – and not just in the U.S. – will appreciate that democracy is not just an inheritance we can enjoy; it’s something we have to fight for in every generation.  Maybe “President Trump” will be the wake-up call that we all need in order to recommit ourselves to defending our values more actively. … Every one of us will have the chance to do something not because it is safe, but because it is right.

 

Edward Snowden

February, 2017

Moscow, Russia

 

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