『自衛隊の闇組織』秘密情報部隊「別班」の正体 石井暁 講談社現代新書 2018
感想 筆者は「別班」の存在を関係者が秘密にしていることは、民主主義の根幹を揺るがすとか、取材中に身の危険を感じたなどと言っているが、本書が実は「別班」スパイ組織の公然たる表舞台への登場を援助しているかのようにも受け取れないでもない。
感想 自衛隊創設の歴史に照らしてみても分かるように、日本政府は公然と国民に明らかにしていないが、自衛隊と米軍の一体化、「首相や防衛相も知らない」海外での自衛隊の情報活動など、他の外交密約と同様に、国民が眠っていると信じたい歴代自民党政権の方針は、実は見え見えであったが、本書は関係者の証言に基づいてそれを立証したということだ。政府が「別班」の存在を知らないはずがない。*ただ、自民党政府は、「別班」などないものと国民には思ってもらいたい、と考えているだけだ。そのように表と裏があるのが、自公政治の本質だ。
*しかし、この考えは、半田滋著『検証自衛隊・南スーダンPKO』岩波書店 2018 を読んでぐらついた。今自衛隊員が積極的に政治家を教育しようとしているとのこと。自衛隊内部のことは専門化しすぎていて、素人の政治家には分かりにくいことは、容易に想像できることだ。2018年11月6日(火)追記
それにしても著者はよく調べた。ジャーナリストの生活がよく分かった。
ただ、気になることは、国民の目となり耳となって働くジャーナリストを脅す関係者がいることは、許せないことだ。著者も指摘しているように、本書はその意味で価値がある。著者の命は本書によって守られている。 2018年11月1日(木)
感想 「別班」の活動費を自衛隊と米軍で折半していたり、空自の情報組織「作戦情報隊情報資料群第二資料隊」が集めた情報が、すべて米軍に吸収される仕組みになっていたりするが、これは独立国といえるのだろうか。いまだに占領状態を清算できていないのではないか。169, 187, 188 2018年11月2日(金)
003 キーパーソン
041 青桐グループのメンバーは、調査学校修了後の所属に関わらず、日本が仮想敵国のソ連に攻撃されるなど非常事態に直面した際には、緊急招集されることになっていた。
047 山本舜勝(調査学校副校長)は、2001年6月に著した『自衛隊「影の部隊」三島由紀夫を殺した真実の告白』の中で、青桐グループについて語っている。
060 こうした関係者による出版が相次いでも、未だに防衛省は一貫して別班について「過去も現在も、存在しない」と言い張っている。
071 筆者「日本共産党がどんな形にせよ、政権をとったら自衛隊はどうしますか」*
陸上自衛隊元将官「躊躇なくクーデターを起こします」
*これはこういう答えを誘っているかのような質問だ。
075 自衛官現役やOB「公の存在にしたほうがいい。国民にその必要性を説明して納得してもらうほうがいい。その方が別班員にとってもすっきりする」
085 元別班の一員だったAは失敗して、首になった。東京から、海外の情報源=協力者を遠隔操作していて失敗した。海外の情報源がスパイであることを突き止められてしまったらしい。
092 別班在籍時にも陸上自衛官としての身分証明書を受け取っていた。…それはそうだろう。
099 班員たちはプレッシャーを受けており、班員の半数ぐらいは精神的に、あるいは社会的に別班の活動に適応できないで潰れてしまった。誰にもいえない違法な仕事をやらされているのだから。
100 別班員のタイプには、自分は防衛省・自衛隊の情報分野でのスーパー・エリートだと思い上がっているか、組織を維持するためには旧中野学校の伝統を継承して後輩に引き継ぐことを自らの天職だと考えているか、命令されているからしょうがないと考えてやっているという、三つのタイプがある。
101 別班員は家族にも内容を話せないような非公然、非合法な任務を命令ひとつで遂行しなければならない日々を過ごしている。
102 別班は、役に立たないから潰してしまおうとしても、一度つくったものはつぶすにも理由が必要…これは潰さないための方便に過ぎない。
一度つぶしてしまったら、二度とできない…これも潰さないための方便に過ぎない。
104 陸上自衛隊が独断で別班を組織し、それを首相も防衛相も知らないというのはありえない、もともと米軍が組織したものであり、首相が知っていたはずだ。*112
108 B 陸上幕僚長経験者
110 別班の班員は自衛官の身分を離れている*ので、陸上幕僚長の指揮下にはないから、万が一でも私の身は大丈夫にしてある。…陸上幕僚長の発言 *092と矛盾
112 別班は、陸上幕僚長の指揮下にはなく、政府、内調=内閣情報調査室、外務省、米軍の指揮下にあるはずだ。
118 キーパーソン
121 C 元韓国駐在武官
122 Cがソウルに駐在していたとき、韓国軍の防諜部隊=国軍機務司令部幹部が、日本の別班の行動を把握していた。
130 自衛隊の特殊作戦群が、海外での要人暗殺を任務の一部とする方向である。これは米軍のNAVY SEALs チーム6に倣うものだ。
136 2008年に、表の現地情報隊や裏の別班を、特殊作戦群と一体運用する案が出てきた。
1980年の宮永事件、元陸上自衛隊陸将補が、在日ソ連大使館駐在武官(大佐)らに機密資料を流した「防衛庁スパイ事件」をきっかけに、自民党は1985年に、最高刑を死刑とする「国家秘密法(スパイ防止法)」案を議員立法で提出した。
2010年の尖閣諸島沖で中国漁船衝突事件が起きた際に、中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりする映像が流出すると、情報保全を強化しようとする動きが再燃した。当時の民主党政権は有識者会議を開き、国が「特別秘密」に指定した情報を漏らした場合に重罰を科すほか、報道機関の「正当な」取材活動は処罰の対象外とすべきだとする報告書を2011年8月にまとめた。
140 Fは、防衛省の情報収集・分析分野を統括する情報本部長の経験者が様々な情報を提供してくれた。
2006 海上自衛隊対馬防備隊の内部情報持ち出し事件
2013.4.16 安倍晋三は「特定秘密保全法」整備に意欲を示した。特定秘密保護法案を秋の臨時国会に提出しようとしていた。
145 Fは、「別班員が海外でやっている仕事は、ケースオフィサー(工作管理官)だ」と話してくれた。
146 別班の海外情報は、防衛省内で「別班長から、地域情報班長、運用支援・情報部長、陸上幕僚長の順に回す。陸上幕僚副長と情報課長には回さない。万が一のとき責任を免れるためだ」…組織保全維持のために彼らを残しておく。
「海外要員は自衛官の籍を外し、外務省、公安調査庁、内調=内閣情報調査室など他省庁の職員にして行かせる。万が一のことがあっても、公務員として補償するためだ」
150 キーパーソンは「別班の話、もし本当に書くのなら、お前にガードを付ける」「理由は、第一にお前が消されるのを防ぐため。第二に、お前がもし消されたら、自衛隊と戦うのに先手を打てるようにだ」…これは報道に対する脅しである。キーパーソンは今まで著者の動向を把握しようとして、著者に近づいていたのではないか。だから著者をこれまで手放さず、付き合ってくれた。今回は向こうから電話をしてきた。「本当に記事を出すなら、できれば48時間前、最低でも36時間前に連絡してくれ。準備に必要だ」…これも組織防衛のためと考えられる。
162 共同通信の記事に関する佐藤優の評はすばらしい。
169 OBの回想録によると、別班の活動費は自衛隊と米軍が折半してきた。
173 陸幕長は代々(別班の存在に関して)承知しないということで伝統的に申しつけがある。
小野寺「どなたが発言したかということについて教えていただくことも必要だと思っております」…情報源を言え、というのだ。これはセクハラを受けた女性記者の名前を言えというのと同じ手法だ。
177 2013.12.31の朝刊用に、別班と特殊部隊=特殊作戦群(特戦群)との一体運用構想記事を配信した。
この構想は2008年に、陸自内で始まった。情報源は元陸幕長。
その任務は、海外での人質救出、敵地への潜入、攻撃目標の偵察、海外での要人の暗殺130である。
これは武器使用基準の緩和、海外での武力行使に踏み込むものである。
特戦群幹部経験者「敵基地攻撃では、特戦群が目標指示のために潜入する必要がある」
179 自衛隊イラク派遣の教訓を踏まえ、現地情報の収集や人脈構築をするために、2007年に新設された「現地情報隊」も、別班や特戦群と一体運用する。
2004年に創設された特戦群は、当初は日本に潜入した武装ゲリラによる原発攻撃など、警察力で制圧できない事態への対処が目的だったが、その後、イラク復興支援活動に警備用員として派遣されるなど海外任務が増大してきた。
特戦群は極秘裏に、海外での人質救出、敵地への潜入、空爆目標の偵察などの訓練を重ねてきたが、ヒューミント(人的情報活動)の能力が欠けていることが分かり、表の現地情報隊と裏の別班とを、特戦群と一体運用する構想が2008年ごろ浮上した。
すでに特戦群と別班の幹部人事をリンクさせたほか、中央情報隊に所属する現地情報隊を、特戦群と同じ中央相応集団の傘下に移すことが検討されている。
181 小野寺五展「報告が来ていない」から、一体運用構想が存在するか答えられない。
石井 特殊部隊と情報部隊の海外での一体運用は三矢研究と同じだ。
183 小野寺は記者会見とは別の、私との差しでの酒席で「私も変だな、という感じは持っている」「長くて2年ぐらいしかいない防衛大臣になんて言うはずがない」
岩田清文・陸上幕僚長 2016.6.30の退官前記者会見「お願いしたいのは、事実に基づくご質問を頂きたい。ないものをあるかのようにご質問いただくというのは、逆に、こういう場において、ご質問されることに関しては、私は適正ではないと思っております」
187 2016.5.16 情報本部140の幹部経験者「情報本部が、陸海空のヒューミント組織について再編を視野に検討している」
自衛艦隊直轄の「情報業務群基礎情報支援隊基礎情報第2科」は、在日米軍第5空軍情報部隊と一体化し、米軍に情報を提供している。
航空総隊直轄の「作戦情報隊情報資料群第2資料隊」
188 2015年、政府が「国際テロ情報収集ユニット」を発足させると、情報本部は陸海空の一体化ヒューミント構想を練り始めた。同ユニットは、首相官邸が司令塔、活動の実態は警察庁と外務省で、防衛省も要員を出向させている。
既存の部隊は温存し、情報要求、収集・管理を情報本部に一元化した。
189 2018年、防衛省は、北朝鮮の核・ミサイル開発情報や、東京五輪・パラリンピックを前に、国際テロ情報の収集を強化する体制整備を盛り込んだ。
情報本部に「統合情報3課」を新設し、同課が陸海空のヒューミント情報を、一元管理する。別班、現地情報隊、海自の基礎情報支援隊、空自の情報資料群がベースで、特殊作戦群、基礎情報隊*も含まれる。防衛駐在官の情報は、内局の防衛政策局調査課とともに管理する。*公開情報を収集する陸上自衛隊の組織
190 そして別班がその中枢を担うというのだ。
191 非人間的な教育、非合法な仕事は、過酷で人格を破壊する。彼らは普通ではない冷徹な目をしている。
別班OBの言葉
喜怒哀楽など、自分の感情をコントロールできるようになった。
心理戦防護課程の教育を受けた結果は、①洗脳される、②何も感じなくなる、③壊れる
おわりに
195 元別班員「市ヶ谷の別班の本部には、あなたの顔写真と経歴が貼ってあり、『要注意』と書かれている」
以上 2018年11月1日(木)