2020年9月4日金曜日

六大新聞論説記者に言論の自由と圧迫を聴く座談会 1934年、昭和9年6月号 「文芸春秋」にみる昭和史 第一巻1988 要旨・感想

六大新聞論説記者に言論の自由と圧迫を聴く座談会 1934年、昭和9年6月号 「文芸春秋」にみる昭和史 第一巻1988

 

 

感想 202091()202094()

 

・政府による、新聞や雑誌など報道に対する禁止条項、発売禁止処分、伏字の使用などにより、報道の自由が規制されていた。またそれは、右翼の暴力や商業的配慮を含む自主規制を強めた。

・報知新聞記者の発言から、政府迎合的な印象を受ける箇所もあるが、一方で、外交で国のやり方が少々間違っていてもマスコミがそれを支持するのが愛国かどうか疑わしい、日本の誤りを認めることが将来的に日本のためになるなどと指摘する建設的発言もある。222

・東京日日新聞は右翼にもてはやされていた。

・東京朝日新聞はインテリ層に人気があったが、大阪朝日での白虹事件1918以後、朝日の社長や記者や方針が変わり、批判的態度が弱まったようだ。

・国民新聞には鳩山一郎に近い山浦貫一がいて、右翼的社風だったようだ。218

 

・明治初年の自由民権運動時代における、政府側と民権派との激しいやりとり、暴力、暗殺、スパイ、集会・結社・新聞・雑誌などの規制制度などは、その後の日本に「遺産」として引き摺られ、昭和のこの時代になりいくらか民主化し、普選運動や米騒動・足尾鉱毒事件など大衆運動が盛んになっても、政府の弾圧手段として利用された。

この時代は民衆運動を政府の弾圧が凌駕し、警察・軍部の横暴とそれをバックにした右翼が、社会の方向を左右する傾向が強まったようだ。

その意味で明治初年の弾圧法が一掃されなかったことは、日本の民主制の発展においてマイナスの要因になったのではないか。結局その廃止は米軍の到来を待たねばならず、日本人は自分の力ではそれを廃止できなかったのだ。悔しい歴史だ。

 

要旨

 

編集部注

 

1928年、昭和3年の治安維持法以来、言論界に対する内務省の規制が強まった。満洲事変後は軍部の威嚇がこれに加わった。

 

出席者

AB 東京朝日新聞

CD 東京日日新聞

E 読売新聞

FGH 報知新聞

IJ 時事新報

K 国民新聞

 

記者 最近言論が圧迫される傾向がある。

F(報) 大阪朝日社長の村山が、社からの帰りに公園で「天に代わって誅す」などと言われながら暴漢に襲撃された。*

D(日) それは大阪朝日に、鳥居素川、長谷川如是閑、大山郁夫らがいた頃だ。

A(朝) 鳥居は、寺内正毅(まさたけ、軍人)内閣1916.10.9—1918.9.29を手厳しく攻撃していた。政府は何か手がかりがあると大阪朝日をしばしば発売禁止処分にした。

稲原が社説で二三回「ロシア革命は不可避である」と論じたところ、それは「同情」だと当局に受け取られ、「書き方がけしからぬ」とされた。

 もう一つは社会部の大西利夫が書いた記事の文句に「白○貫○」*云々とあり、それが朝憲紊乱に問われ、大西は2ヶ月、編集人兼発行人の山口信雄が1ヶ月「処刑」された。(禁固か懲役か)

 

*白虹事件1918.8.26 1918年8月25日の米騒動問題に関する関西新聞社通信大会の内容を報じた記事8.26の中の「白虹日を貫けり」(『史記』鄒陽列伝。「白虹」は凶器を、「日」は始皇帝を暗示。荊軻が秦王(後の始皇帝)暗殺を企てた時の自然現象を記録したもの。)という文句を、大阪府警察部新聞検閲係が、新聞紙法41条「安寧秩序を紊し、又は風俗を害する事を新聞紙に掲載したるとき」に当たるとし、大西、山口を大阪区裁判所に告発し、検察当局は大阪朝日新聞を発行禁止(新聞紙法43条)に持ち込もうとした。

 大阪朝日新聞不買運動が起こり、右翼団体・黒龍会の構成員7人は、村山龍平社長の人力車を襲撃し、村山を全裸にし、電柱に縛りつけ、首に「国賊村山龍平」と書いた札をぶら下げた。後藤新平は右翼系の『新時代』誌に朝日攻撃のキャンペーンを張らせ、他誌も追従した。(権力が右翼を増長させた。)村山は退陣し、上野理一が社長となり、鳥居素川編集局長や長谷川如是閑社会部長らが退社し、上野派の領袖西村天囚が編集顧問となり、「不偏不党」の方針を掲げ、当局の発行禁止処分を免れたが、論調の急進性は影を潜めた。

 

F(報) 寺内内閣が朝日新聞を潰してやると意気込んだとき、原内閣1918.9.29—1921.11.13に代わり立ち消えとなった。

213 A(朝) その時大阪朝日社内では、政変が起き、鳥居、長谷川らは退社した。

 

C(日) 大杉栄虐殺事件1923の頃は今と状況が違っていて、相当激しく書いても弾圧はなかった。各社とも大杉栄に関しては猛烈に批判した。その時読売新聞の編集局の入り口に太い青竹で柵を作ったのではなかったか。

D(日) 東京日日新聞には、△△団(右翼)の連中が10人来た。社説記者は丸山侃(かん)堂、花田大五郎、小村俊三郎など進歩派ばかりだった。小村は社説で大杉栄の虐殺に憤慨し、社説で攻撃した。私が右翼の10人に対応した。その時大庭柯公*(おおばかこう)はロシアに行って不在だった。右翼の連中は社長の松山を詰問すると言った。所轄署に頼んで警戒した。物別れに終わった。

 

大庭柯公 1921年5月、読売新聞の特派員としてシベリアからロシアに入る。ウテルスカヤ監獄に7ヶ月間監禁されるなど、スパイ容疑で2度逮捕された。1922年、ゲーペーウーによって国外追放が決定されたが、帰国せず、ロシアで死去したことが1924年に日本に伝えられた。

 

C(日) 東京日日新聞に暴漢が来てもみあいになった。編集室に青竹を備えておいた。それ以後来なくなった。「大杉栄の下手人は鬼畜に等しい」とまで書いた。そのころの情勢は今とは全く違っていた。

 

F(報) 徳冨蘇峰が暴れこまれた。

D(日) それは1912年か13年ころのことである。その前に日露戦争後の講和談判の始末に不満を持った民衆が焼き討ちを行い、栗原武三太は刀を抜いて斬って回った。憲政擁護運動のとき、日比谷の国民大会の流れが、当時非立憲の桂太郎内閣(軍人、第一次1901.6.2—1906.1.7、第二次1908.7.14—1911.8.30)を支持する「国民新聞」を焼打ちしろと言って押し寄せた。その頃桂は同志会を作っていた。

214 F(報) あの頃は政府の提灯を持つと暴れこまれたが、最近は政府の提灯を持たないと暴れこまれる。

 

記者 この間の朝日の鈴木文史朗さんの負傷は、鈴木さん個人を狙ったものか。

B(朝) 鈴木文史朗が編集局を身をもって護ったのだ。

F(報) 最近軍部が威張っていて、彼らの失敗を批評すると、圧迫を加える。彼らは軍部即ち国家と考えている。広大な権能をもつ軍部が新聞・雑誌を発売禁止にすることは危険だ。

 

215 記者 朝日新聞が外電で社説とは全く違う立場から(政府を)批判するように見られているのではないか。

A(朝) 外電は例えば、デイリー・テレグラフのように、朝日の立場を代弁するものがある。

F(報) 某役人は、政府が直接援助している団体に依頼して、「危険思想」でもコミュニストでもない特定の人の原稿や話を、政府の提灯を持たないという理由で、させないようにし、もし載せたら発禁にすると脅す。

B(朝) 補助金を減額すると脅す場合もある。

F(報) 水野広徳(軍人・軍事評論家)が『平和への直言』を改造に書いて発禁になった。その理由は内容ではなく、「題目と筆者が悪い」というのだ。政府が警保局に抗議しているのだろう。

B(朝) 暴風雨がひとしきり激しかった後の近頃は、多少薄日がさしている。(それは白虹事件の弾圧後、朝日が自主規制したからではないか。)最近言論の圧迫がひどくなったとは言えない。言論の圧迫は官憲による圧迫と右翼暴力団とがあるが、後者のほうが厳しい。何となく不自由らしいという一般の空気が怖い。

 

216 F(報) 新聞と雑誌では、新聞の方が強力だから、政府も手を出さない。雑誌は微力だから雑誌社の方への暴力団の殴りこみは少ない。

B(朝) 僕らが日本新聞1925—1935、日本主義を主張。元は『日本』)にいたころ、有名な新聞だけが政府の忌諱に触れ、長期間発行停止された。それは1904年、1905年、明治37、38年頃の話で、1、2回あった。

J(時) 1902年、1903年、明治35年、36年頃の(戦争)危機を当て込んで書かれた戦争物・軍事物の中には、軍機の漏洩になるものがあると言う軍人の専門家がいる。連合艦隊の司令長官・末次信正論は、末次の性質や戦術を暴露するから他国の利益なると言って、海軍の人が憤慨していた。

記者 軍艦などの細かい統計を載せるので、軍関係者が嫌っているようだ。

B(朝) 米国でもプラット提督の人物論が出ている。海軍提督の人物論まで書いてはならないというのでは困る。

217 D(日) 水野広徳さんは海軍についてだけ書いたのではなく、平和論も書いた。だから(軍部から)危険視されたのではないか。

F(報) 警保局は「軍民離間」だからいけないと言う。当局は、軍民離間についてうるさい。

 

記者 社説を書くとき拘束はないか。

B(朝) 具体的な拘束はないが、心理的にはある。ただし、字句に関する禁制はある。

記者 最近それがひどい。

B(朝) いや、最近は1、2年前に比べたらよい。(自己規制しているからではないか。)

記者 しかし、「朝日新聞を買うな」というビラが撒かれたこともあった。

B(朝) 一時はあったが、最近では社説に関してクレームが来たことはない。

記者 朝日は五・一五事件では相当大胆に書いていたが、怒鳴り込まれなかったのか。

B(朝) そのようなことはなかった。

F(報) 法律論で経済のことを書くと制裁がある。

G(報) 「陸海軍の予算が多すぎる」と私が書くと、社内の誰かが修正している。

 

記者 政党は政治問題の論説をどう見ているのか。

K(国) 最近では政党に好意を持つ論説はほとんどない。政党からは「もっと冷静に見てくれ」と言われる。しかしこれは過去のことを考えると虫のいい注文だ。今なら許せるが。

 

218 記者 岡本代議士問題で、国民新聞に××団体(左翼?)が押しかけたとのことだが。

K(国) 来なかったです。鳩山一郎さんと懇意な山浦貫一*さんが国民新聞にいるので噂されるが、山浦さんは論説を書きません。

 

*山浦貫一 森恪、鳩山一郎らと親交。東京新聞編集顧問。東京新聞で反共評論。

 

現在、言論の自由に重圧を感じるが、これは今までになかったことだ。それは非常時という雰囲気がそう感じさせ、皆が畏縮している。今日の言論界は右顧左眄している。政治が独裁的になってきたからこそ、言論は批判的であるべきだ。迎合的論説を最近見受ける。

 

記者 読売は最近活気横溢だが、社説の言論圧迫をどう考えるか。

E(読) 官憲による取締りよりも、妙な空気に脅威を感じている。(官憲がもともとはそれを作り出したのではないのか。)私も外務省の人事異動に関して刷新の必要性を書いたが、その中で「○○(幣原)外交」があった。すると××団がやって来て、「幣原」という文字を使っただけで悪いというのだ。私が幣原外交の説明をすると、「君とは見解の相違があるから国学者の意見を聞いておたがいに研究しよう」と言って帰って行った。

 

219 F(報) 国民の9割5分は言論の圧迫や言論の自由などの問題を知らない。多くの人は「自由」だと感じている。

 

記者 最近の新聞の社説は活気がなく権威がない。そのために読む人がいなくなった。これは掣肘を受けたせいではないか。

B(朝) 文芸春秋は新聞を評して微温的だというが、社説を読まずにそれを真に受ける読者がいる。

F(報) 自らに思想がなければ言論の圧迫など感じない。右翼は自由に書けると言う。右翼は戦争のことを平気で書ける。右翼的なことを書くのに制限はない。

 

220 D(日) 地方の新聞の方が激しい。福岡では官憲の制裁が緩い。読者層も違う。

B(朝) 同じことを販売部数の少ない新聞が書いても問題にならないが、販売部数の多い新聞が書くと問題になる。しかし、福岡日日は圧迫を受けているのではないか。

A(朝) (福岡日日の)菊竹六鼓*さんはある方面の圧迫と闘った。信濃毎日の桐生悠々*さんは防空演習を論じて問題視され、結局そこを辞めた。

 

菊竹六鼓 本名は淳。五・一五事件に際し、福岡日日新聞の紙上で軍部批判・憲政擁護の論陣を張った。

桐生悠々 反権力・反軍的言論。「関東防空大演習を嗤う」は、都市防空の脆弱性を指摘した。東京帝国大学法科大学政治学科卒。

 

F(報) ヒトラーのドイツでは600の新聞がなくなり、イタリアやロシアにも新聞がない。アングロサクソンやオランダ・スカンジナビアにはある。強力な右翼的政権があると圧迫があり、強力な国家権力がないと言論の自由がある。

 

221 G(報) 今は少し制約が穏やかになった。かつては軍人を攻撃してはいけないと言われた。必ずどこかにスパイがいると。それはつい半年前のことだ。

 

J(時) 帝大の牧野英一さんは「うかつなことは書けない。美濃部博士は国体観念を誤る者として右翼の○○ブラックリストに載っている。次は私だ。」と言っている。

G(報) 新聞が売れなくなると困るから、論説担当者は一般の雰囲気に迎合しがちだ。私も執筆する時、いつもそう感じる。

記者 朝日新聞はその点では逆だと私は思う。リベラルだからこそよく売れるともいえる。

H(報) インテリに売れるからそう書くのではないか。

G(報) 結果はそうだが、そういう意味で朝日が書いているのではないと私は思う。

B(朝) 売れ行きが悪くなればまずいという気持ちはあるが、そういう社からの要求は受けていない。執筆者も事情を察知しているし、社の所有者(社長)も表立ってそういう要求は言わない。

222 G(報) それなら「リベラルに書くことが売れる」ということにはならないのではないか。

B(朝) インテリが買ってくれるだろうと思いながら書くのではない。利害打算を離れて書くことがたまたま利害打算の結果と一致するかもしれないが。

C(日) 私は、外交問題は対外的に書くとか、外務省目当てに書くとか、政党の問題は政党目当てに書くとか、問題によってはただコメントで注釈的に書くとかはあるが、これといった目安(基準)はない。気兼ねするとすれば、これ以上書くと△△先生が怒るだろうという程度だ。

B(朝) 雑誌には伏字があるが、新聞にはない。

記者 だから新聞を書くときはかなり手心を加えるのだろうが、一方で、新聞は雑誌よりも大胆な面もある。

H(報) 日本では外交に関して少々政府のやることが間違っていても、それを支持することがお国のためだという考え方が強い。しかしそれが愛国かどうかは疑わしい。日本の誤りを認めることは将来的に日本のためになる。私はその点で圧迫を感じる。(これは今の日本でも言えることだ。)

223 I(時) 私は雑報でも社説でも、政府に反対して書いてきたから、官吏の受けがよくない。井上さんは私に会うたびに「また悪口を書いているのか」と言うが、それには慣れた。外務省と我々とは見解を異にしているのだと開き直っているから圧迫を感じない。

 

H(報) 経済、外交ではいくら攻撃しても大丈夫だが、軍隊を攻撃すると発禁になる。

I(時) 軍隊と右翼が一番強く当たってくる。

G(報) 私は政府の財政政策を攻撃しているが、圧迫はあまり感じない。

記者 池田成彬(しげあき、政治家、財界人。三井合名会社筆頭常務理事。)が3000万円を投げ出した件で、悪口を言う社説を聞かないと思うがどうか。

I(時) 時事新報は池田を褒めた。褒めておだてる社説もこれからは必要ではないか。

G(報) 昨年1933年、昭和8年の予算編成時に荒木貞夫(陸軍軍人、陸相1931.12—1932.5)さんが1000万円投げ出されて海軍を納得させた時に私は褒めた。

 

G(報) 社説でも官吏減俸問題*のような直接読者の生活に関連する問題は熱心に読まれる。あの時の投書は賛否相半ばして1000通を越した。

 

*官吏減俸問題 www.c20.jp 1929年10月15日、政府が全官吏の1割俸給厳を声明。10月22日、撤回。濱口首相。井上蔵相。

 

H(報) 外国の新聞は日本の新聞の社説を引用する。大使館や公使館の人は社説を翻訳して要約し、本国へ送っている。

 

記者 重大な国際問題では、外務省、陸海軍省などが新聞記者に対して「打ち合わせ」をやっているようだが、これも言論圧迫に加担するものではないか。

H(報) あれは言論圧迫ではない。当局の考えを「よく了解してやってくれ」という説明である。

記者 「これはなるべく書いてくれるな」ということがあるのではないか。

K(国) それはある。最近、禁止が非常に多い。非常に細かいものまで何十とある。

記者 皆各新聞社はその禁止事項を載せないのか。

K(国) 載せない。

記者 それでは社説は頼りなくなるね。

H(報) しかし、新聞社は禁止事項にされないと、争って記事を取ろうとし、外に奪われないために想像を書かねばならず、不統一、不正確な記事になりがちだ。(意味不明)軍縮会議に対する日本海軍の方針という問題では、報道が分かれると海軍省は困る。それなら記事掲載禁止にして下さいとこちらが希望する。

A(朝) 支那についてはそういうこと(口先合わせ)はないが、満洲ではあった。しかし、満州事変以後の言論に対する重々しい空気は、最近緩和されてきた。しかし、日本が将来孤立して、アメリカ、ロシアとの関係など全てが悪化し、政府や軍部の神経を刺激することがあれば、どうなるかは分からないが、今日のところは大分よくなった。満州事変当時、日本全体が認識不足だった。東京の○○(政府or新聞)でも大多数が十分認識を持っていたかどうか。満洲事変の当事者しか知らなかった。事件が起った当座、なるべく早く解決して欲しいと思う人が多かった。それは幣原さんばかりではなく、一般の言論界もそうだった。しかし、事変が大きくなり、熱河を取ると、それが当たり前になった。北平はまだ取っていないが、もう驚かない。五・一五事件は言論界ばかりでなく政界、実業界にも非常に重苦しい空気を与えたが、五・一五事件が言論の上で特に圧迫を与えたとは思わない。(意味不明、矛盾)

D(日) 陸軍省の新聞係の人が言うには、「陸軍省は一定の事項以外は禁止しない。新聞の側が危惧しているだけだ。風説が新聞を萎縮したのであって、陸軍省ではない。書きたいことは書けばいいじゃないか」と言っていた。

H(報) 新聞社の側の思惑が大きすぎるということはありうる。

D(日) 一部の知識階級の人はそう考えている。

H(報) 雇われているから萎縮するのではないか。つまり雇主や同僚への迷惑の気持ちが萎縮させるのではないか。

G(報) 陸海軍の当局者には圧迫を加える考えはない。新聞が右翼思想を批判すると×××が怒鳴り込んでくるので、新聞社側は、×××と陸海軍と連絡があると誤解しているのではないか。

227 D(日) 読者は×××を絶滅するよう努力せよと、×××に脅されている当の新聞社を責める。

I(時) 社説に権威がないのは、新聞社が、暴力や社の経済関係に関する配慮のため萎縮していることではないか。

C(日) 血盟団は犠牲者をリストアップしているとのことだ。これは気違いとの喧嘩だ。刑務所に入っても親分が生活を保障してやるそうだ。当局の取締が不完全だと言うことが見え透いている。

A(朝) 奴等は政党と関係している。○○局や○○庁とも関係があるように思われた。満州事変以後、○○(軍隊)と関係が密接になった。

C(日) 血盟団の被告は△△局へ行く途中、×××げて来てしまう場合が多いようだ。(意味不明)

A(朝) 西田選手(西田税)の参加取消しは、脅されたとかいう話を聞きました。一、二の新聞記者が満州国参加問題で○○学校の生徒に呼ばれた際、×を××××××やって、脅かされたという噂を聞きましたが、本当でしょうか。(意味不明)

I(時) 経済記事では暴力の圧迫はないが、雑報記事では資本や広告に基づく圧迫があるでしょうね。

A(朝) ××(右翼)は実際以上にことさら大きく見られているのではないか。本当の右翼ではない、ごく少数の人たちが寄り集まって、一部少壮の有志が集まると、××(右翼)と呼ばれたり、右翼全体の背景を持っていると世間は疑うらしい。

記者 右翼がえり好みしている新聞がある。日日には右翼が好意を持っているのではないか。

C(日) 東京日日新聞は、独自の判断で、満州事変の重要性を指摘し、上海事変のときも、「大兵を急派する要なきや」という社説を掲げた。

228 G(報) 一般国民は、一人の右翼が怒っていることを右翼全体が怒っているものと感じているが、それは間違いだ。

A(朝) 右翼そのものは上から下まで統制が取れているが、一部と全体との関係がはっきりしないこともある。

G(報) 五・一五事件での陸海軍軍人の判決に対する国民の批判は、新聞にそれが反映されなかったことがあるのではないか。

D(日) 第一の予審判決の時は新聞がそろって書いたが、最後の判決の時には、何も書かなかった。

C(日) 黙殺していた。

D(日) 黙殺はひどいと私は思った。

G(報) 最後に決まったとき、賛成論は載ったが、反対論は何も出なかった。

D(日) 触らぬ神にたたりなしで、賛成論もあまり聞かなかったのではないか。

I(時) 佐郷屋*の判決は、なぜ軍人の判決と違うのかという投書がたくさん来た。私は何かを書かなければと思い、ある権威に聞いてみた。すると「軍人のほうが刑が重くて、佐郷屋が軽いのなら合理的説明がつくが、あべこべですから、説明がつかない」「そこが時局の非常時であるゆえんでしょう」と言った。私は唖然として帰ってきた。

 

*佐郷屋留雄は愛国社社員。濱口雄幸首相を暗殺1930.11した。死刑判決1933、無期懲役1934、仮出所1940

 

D(日) 確か、時事新報が「なぜ民間の刑が重く、陸海軍の刑が軽いのか、法律の根本に対する国民の疑いが永遠に生ずるのではないか」というようなことをぼかしながら書いたと思う。

229 J(時) 仕方なしにそういう風に書いたかもしれない。

G(報) そこまで書いたのは時事だけではなかったか。

 

記者 社説の国民に対する指導性・感化力はあったか。市政浄化を新聞が提唱しても、ちっとも浄化されていないが。

B(朝) 反対する場合は結果が出て来やすいが、官吏減俸問題は社説の影響が大きい。一度内閣が決めたことを覆した。

H(報) 普通選挙では新聞が戦線統一し、実現した。

G(報) 報知新聞は、「日本の産金を海外に輸出すべきでない。準備に繰り込み、国内に置いておくべきだ」と以前から数回書いたところ、政府が方針を変えた。ところが民政党の田中貢くんが「あれは僕らの主張を大蔵大臣が容れたのだ」と言っていた。

I(時) 時事新報では大きな問題は繰り返し主張することにしている。(金輸出)再禁止の主張は一日おきに一月間やった。

B(朝) 第一回普通選挙の際の「灰色候補を排撃しろ」という標語は、選挙に影響を与えた。「中立候補を排撃しろ」もたびたびやった。

G(報) 官吏減俸問題では一回目は政府が引っ込めたが、二回目は減俸をやった。新聞の論調が変化したのか。

B(朝) 一回目と二回目とでは事情が変わった。一回目の時の反対論の中には、財政整理以外の工作をしないですぐ減俸するのは不都合だったが、二回目では緩和された。(意味不明)

また、官憲による今の制限事項は、どこから出てきても、我々制限を受ける側から言うと、ひとしく制限であることに変わりない。ところが発した方は、陸海軍、検事、内務省と様々で、一省がいいと思っていることでも、他省がいいとは思っていない。統制が取れないものか。整理して禁止事項を少なくしてもらいたいと某高官に要求してみた。今○○*の件が禁止されているが、その掲載禁止は政府にとって損だと思うのだが。新聞では「某重大事件」などと書いているが、読者は○○以上のものと思っていることが多い。僕が某高官に「政府は愚だ。掲載禁止を解くべきだ」と言ったら、「自分も賛成だが、筋(出てくるソース)が違う。あれは検事がやっている」と言う。*○○とは満洲か。

G(報) ××××が取り付けにでも会うという大蔵省の心配か、それとも犯罪捜査上の便宜のためにする司法省の要求か、…

B(朝) 犯罪捜査上の要求です。禁止事項は省間で一致していない。禁止事項は検事関係が一番多いか、それとも軍事関係が一番多いか。

H(報) 最近満洲関係が増えた。

B(朝) 検事関係が相当多い。そしてそれを「犯罪捜査上の便宜」と一くくりに言っている。困る(複雑な)事件が多いからでしょうが、広げられるとこちらはかなわない。政府のためにもそう思う。

記者 北鉄*交渉問題に関する禁止事項は、軍部かとれとも外務省か。*北陸鉄道か。

H(報) 外務省が値段のことを書いてはなるぬと言う。

231 H(報) 1ヶ月に1回くらいの割合で、当局から制裁処分を受けている。

J(時) 時事新報ではこの前400円取られた。

C(日) この間の箱館の火事の時、夜遅く大火の知らせが来た。箱館市街の写真を載せた。その写真には要塞司令部許可とあったのに、載せたら、載せる時はもう一度許可を得なければならぬという。写真は箱館の町だけで、軍事的には関係ないと思うのだが。

記者 じゃこのくらいで…どうもありがとうございました。

 

1934年、昭和9年6月号 

 

以上 202093()

 

 

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