2020年3月8日日曜日

日韓条約締結以前1960年の外務省文書の一部


 日韓条約締結以前1960年の外務省文書の一部が、請求に基づき開示されたと『週刊金曜日』で紹介されていましたので、さっそく調べてみました。達筆で判読できない所(〇で示した)や、読み間違いをしているところがあるかもしれませんが、以下にご紹介します。下記のサイトで原文を閲覧できますので、ご覧になって下さい。

 なお、以下の私の書き取りには、下線や、西暦、段落など、私が加工した部分があり、原文の体裁そのままではありません。

http://www.f8.wx301.smilestart.ne.jp/nihonkokai/2019-00547/2019-00547-0002-IMG.pdf




対韓経済・技術協力に関する予算措置について

1960.昭35.7.22
北東アジア課

1.対韓経済協力の趣旨

 近く再開予定の日韓会談において、韓国側は再び巨額の財産請求権を持ち出し、加えるに在日韓国人の南鮮帰還に関連して「補償金」の如きものを支払うよう主張するものと見られる。しかし、財産請求権問題は、

(イ)交渉が極めて困難かつ長期化する可能性が強い、
(ロ)韓国との間にこの問題を解決した場合、北鮮との問題が発生する、
(ハ)国内的には旧財産権者補償問題を惹起する、

との理由で、早急な解決をはかることは不適当であり、むしろ一種の「棚上げ」とする方が適当である。

 また在日韓国人の南鮮帰還に伴う「補償金」の支払要求に応ずべき筋合はない。他方、日韓会談を早急に妥結するためには、韓国側に対して何らかの経済協力乃至援助を行うことが不可避であり、またわが国にとっても、過去の償いということではなしに、韓国の将来の経済及び社会福祉に寄与するという趣旨でならば、かかる経済協力乃至援助を行う意義ありと認めらる。(米国の対韓経済援助と相俟って、韓国の経済が安定成長し、ひいては韓国の政治も安定することは、隣国日本にとっても好ましいことであり、当面の問題としても、韓国経済が安定化への傾向を見せることは、在日朝鮮人の北鮮帰還希望を手控えさせ、北鮮送還業務を早く終わらせる効果がある。

 上記のような事情を鑑み、日韓会談が妥結し、日韓交渉が正常化した後に、(大体明会計年度以降)毎年2,000万ドル(1,000万ドル)、5年間にわたり、合計1憶ドル(5千万ドル)を経済協力のための援助(無償)として支出することが適当と思われる。

2. 対韓無償経済協力のための予算措置

 現在わが国が実施している賠償及び経済協力を大別すると、

(1)無償のもの(賠償部所管)

(イ)ビルマ、フィリピン、インドネシア、ヴィエトナムに対する賠償
(ロ)ラオス、カンボディアに対する経済技術協力
 (この二国は対日賠償請求権を放棄したので、日本側はこれに応えて経済技術協力を行うこととしたもの)

(2)有償のもの(経済協力部所管)
 (わが国で通常言っている経済協力はこれに属する)

に分たれる。

 国交正常化後、韓国に対して行わんとする特別の経済協力は無償の建前なので、上記(1)(ロ)に類似したものになると思われる。上記(1)の賠償及び無償経済協力のための予算措置は、すべて賠償等特殊債務処理特別会計に計上されており、受益国は、契約の当事者として物資を供給し、役務に従事する日本国民に対して、日本政府よりの支払に基づいて、代金を支払う建前になっている。
 よって、今後の措置としては、日韓会談に臨む基本方針の決定の過程において、及び明年度予算編成の過程において、大蔵省側に上記1.の趣旨を篤と説明し、理財局外債課(賠償等特別会計の所管課)をして、所要の措置をとらしめるよう働きかけるべきものと思われる。

3. 対韓経済協力事業費のための予算措置

 ラオス、カンボディアに対する経済技術協力のための事業費に準じて、外務省として準備する必要がある(主に日韓合同委員会のための経費となる見込)。
 なお、これとは別に、日本側の学会・経済界の識者より成る日韓経済協力研究会のための経費、京城での打合せのための外国出張旅費は、当課において計上する予定である。

4. 日常の経済協力及び技術協力の前の予算措置

 尚、国交正常化迄の〇においても、対韓技術、融資による経済協力及び無償の技術協力が、或は今年度後半乃至本年度において必要となるかもしれず、その場合には、外務省の技術協力関係予算及び大蔵省の財政投融資関係予算乃至予備費について、措置を必要とする。

1頁目に糊付けされた付箋

こんな大ざっぱな立論では、説得の見込み無きよう思われる。
所見、別途述べるべし。
アジア局長

3頁に書き込まれた補筆 金額に関して

総額1憶弗は余りに過大であり、大蔵省や国会の強い反抗を受け、却って実現を困難にするであろう。むしろ総額5千万弗位が実際上、せいぜいの所ではなかろうか。何れにせよ、かかる多額の無償援助は、韓国側請求権を凡て確定的に放棄せしめるのでなければ、我が国において到底支持を得られないであろう。(三宅)

請求権を抛棄するならば、1憶ドル位考慮すべきであろう。(伊)

6頁目に糊付けされた付箋

賠償形式でなく、経済援助或は経済協力〇で巨額の資金を供与する場合には、所謂「つかみ」的なものでは、実施段階に種々の混乱を生ずる惧れがある。〇〇、経済協力という限り、相手国と我国との貿易関係、相手方の資源開発・産業開発問題、相手国の経済情勢等々充分に検討した上で、具体的構想を建ててかかることが絶対必要である。
尚本件、経済局長、賠償部長の御意見を必要とする。(〇協 白陽)


感想 1.で、「早急な解決をはかることは不適当であり、むしろ一種の「棚上げ」とする方が適当である。」に見られるように、相手の要望を正面から受け取ろうとせず、はぐらかし、まともに対応しようとする誠意が最初から欠落している。
 また、「また在日韓国人の南鮮帰還に伴う「補償金」の支払要求に応ずべき筋合はない」に見られるように、高飛車である。ここには戦前の反省がみじんもなく、その正当化であるような感をうける。

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