2021年11月14日日曜日

『冤罪法廷』 魚住昭 講談社2010 メモ・感想

『冤罪法廷』 魚住昭 講談社2010

 

 

感想 20211114()

 

 東京・大阪・名古屋の地方検察庁特捜部(やそれ以外の主要道府県の特別刑事部)が関わる裁判で重要なことは、報道陣を味方につけることである。村木厚子事件でもそのことが有能な弁護士・広中淳一郎によって実証された。それは公判での証言がいかに被告に有利に展開しても、裁判官は検察を信じ、有罪ありきで臨むからだ。

検察は保守・自由主義(或は戦前の価値観)の砦を自認し、自らが重要と判断した場合には、政治に口を挟もうとする態度を持っているようだ。小沢(陸山会)事件でも民主党がやられたように。

検察は拷問までして証言を捏造し、主任検事の作ったストーリーを実現しようとする。266

 

 

メモ

 

 

前史122-126

 

戦前、検察は日陰の存在だったが、疑獄と思想(左翼の弾圧)をテコに発言力を強めた。その主人公が平沼騏一郎である。

日糖疑獄1909を皮切りに、大逆事件1910、シーメンス事件1914、3・15弾圧1928などを通して検察は発言力を強めた。

平沼は配下の司法官僚、軍幹部、政治家を引き入れて国粋主義の「国本社」を結成1924し、帝人事件をでっち上げて、平沼を嫌う西園寺公望によって首相に抜擢された斎藤実の内閣を総辞職させ、首相に就任した。1939

 

戦後 GHQの改革から検察は逃れ、戦前の体質がそのまま残った。126-128

 

 戦後の改革点

 

・裁判所は司法省から離れ、最高裁を頂点とする独立組織となった。

・検事局は裁判所から離れ、検察庁として独立し、法務省(旧司法省)に設置された。しかしこれは戦前から議論されていたことだった。

 

 戦前の制度が温存された点

 

GSGHQ民政局)は検察の役割を、捜査権を持つ警察から分離し、法廷の中だけで活動し、起訴するかどうかの判断だけに限定し、捜査権を持たせないようにしようとしたが、実際は彼らの必死の工作で、

 

・検察は公安委員会に、警察官に対する指示・指揮権や、警察官の懲戒・罷免の訴追をする権限を持たせた。

・検察は独自の捜査権を持った。

・検察は起訴・不起訴の裁量権を持った。

・検事調書を条件付きで証拠として採用できる。員面調書(被告以外の者の供述の記録)や検事調書は被告の同意がないと証拠として法廷に出せないのだが。裁判官は殆ど検事調書を採用する。

・保釈の際、裁判官は検察官の意見を聞かなければならない。

 

GHQや法曹界、言論界は検察の問題点を不問にした。

 

 

129 自由主義体制が崩壊しない程度の政治腐敗の摘発

 

造船疑獄1954、日通事件1968、ロッキード事件1976

 

 

 

いくつかのこれまでの検察の体質を暴露する事件。冷戦構造の崩壊後その傾向がひどくなった。

 

 

・リクルート事件

 

拷問129-

 

リクルート事件1988-89の江副浩正前リクルート会長に対する神垣清水検事の拷問。130

部屋の隅の壁の直前に顔をつけさせ、他に行き場のない状態にしておいて、検事が耳元で大声で罵倒する。『リクルート事件・江副浩正の真実』

 

 

 

1993年の金丸信自民党副総裁の脱税事件後、小澤一郎ら44人が自民党を離党して新生党を結成し、7月の総選挙後に社会党、日本新党などとの連立で細川政権が樹立した。132, 133

2002.4、検察内部の裏金を内部告発した三井(たまき)大阪高検公安部長が逮捕された

記者は検察権力の横暴を糾弾するよりも、捜査情報を得たいから検察を批判しない。

 

 

 

135 2004年に検事総長になった松尾邦弘「我が国が規制緩和・事後救済型社会への転換を図る諸改革を推進しているなかで、司法の役割はますます拡大していく」

この意味は、これまで手を出さなかった企業社会へ検察が縄張りを拡大することであり、ライブドアがその最初のターゲットとなった。

 

 

 

・ライブドア事件200528141

 

141 堀江貴文『徹底抗戦』によれば「昨今の経済事件の重罰化の流れは、検察OBに対して企業のコンプライアンス特需をもたらし、多くの企業は多額の報酬を払って検察OBを受け入れるようになった。(顧問などで)一種の天下りのようなものだ。警察がパチンコ業界の自主規制団体みたいなものに天下りしているのも同じ構図だろう。」

 

特捜事件はヤメ検弁護士の収入源となっている。

被告側は検察への影響力を期待して検察高官OBに弁護を依頼する。

元高官は配下の若いヤメ検たちに実務を任せ、高額の弁護報酬を得る。

特捜部は裏取引で被疑者に容疑を認めさせ、裁判を早期決着させる。

 

 

136 「時間外取引」

証取法は上場企業の3分の1を超える株式を「市場外」の「相対取引」で買う場合、買い付け価格や株数などを事前に開示するTOBをかけねばならないと定めている。

しかし「時間外取引」は「市場内」だからTOB規制はかからない。

最初の容疑は、相場の変動を目的とする不正行為(偽計取引・風説の流布)を禁じる証取引法第158条違反。「内部告発」があった。

某会社の買収が済んでいたのに、新たに株式交換で買収するように見せかけ、自社の売上高や利益を水増しするという虚偽の発表をしたという疑いであるが、これは形式犯であり、首脳陣を逮捕するほどの事件ではない。

次の容疑は、連結決算粉飾容疑で、再逮捕した。自社株買いを売り上げとしたことが4年前から違法になっていた。

しかしグループ全体の実質財産の総額をごまかしたわけではなかった。139

 

感想 難しい。分かりにくい。

 

 

 

・ムネオ疑獄

 

139 20025月、鈴木宗男元官房副長官の盟友と言われた外務省前国際情報局主任分析官佐藤優が背任容疑で逮捕された。

 

 

 

・小沢一郎(陸山会)事件 この事件は検察が民主党政権を好ましくないと思っていることを示唆するような事件だ。

 

141 093月、西松建設の幹部らが海外工事で捻出した1億円の裏金を国内に持ち込んだという内部告発があり、裏金の一部が長野県知事周辺に流れたという疑惑があったが、知事側近が自殺し、解明できなかった。

 

142 東京地検特捜部がこのまま捜査を終えると検察内部やマスコミの批判を浴びかねない。

 

西松建設関連の政治団体から小沢一郎側へ3500万円の政治献金がなされたが、これは政治資金収支報告書に記載されている。

 

 従来はヤミ献金額が1億円以上の場合に、政治資金規正法違反容疑で政治家の強制捜査に踏み切っていたが、小沢の場合はその慣習を突然やめ、しかもヤミでもなく、額も3500万円なのに、西松建設からの献金をダミーの政治団体名義に偽装したとして、政治資金規正法違反(虚偽記載)で、野党第一党党首の小沢一郎の公設秘書・大久保隆規を逮捕した。

 

 逮捕の理由は、小沢が検察を中心とする霞が関・官僚制度の解体を主張していたからである。また小沢は政治の師田中角栄や金丸信を検察によって葬られていた。

 

143 小沢一郎『90年代の証言 小沢一郎政権奪取論』のなかで小沢は、92年の金丸信・自民党副総裁の5億円献金事件について「議員本人は政治資金に直接関与せず、秘書ら事務方が資金を扱っていた。だから政治資金にまつわる金銭スキャンダルが起きた時は、捜査はだいたい事務方の刑事責任で終わっていた。」「金丸本人の立件は検察の裁量権の拡大であり、検察の考え次第で逮捕・起訴が自由にできることになってしまう。これは法治主義の破壊であり、民主主義の破壊だ。」としている。

 

 検察はそういう小沢による政権の出現を快く思っていなかった。

 世論は総選挙を前にした微罪逮捕が政治的意図を感じさせると受け止めた。5か月後の8月の総選挙で民主党が圧勝した。

 

 

 2010113日、検察は陸山会事件の強制捜査に着手した。

 

144 0911月、三重県のゼネコン水谷建設から小沢側へのヤミ献金疑惑をマスコミが報じた。

 

水谷建設の水谷功元会長(当時脱税の罪で服役中)らが、0410月と054月の2回にわたり、石川と大久保に5000万円ずつ計1億円を小沢側に渡したと、特捜部の調べで供述したと報道した。

 

 石川知裕衆院議員は小沢事務所の秘書で、献金の事務処理を担当していた。

 魚住昭は0911月、石川に会った。その結果、石川は水谷に会ったこともなかった。水谷建設の別の元幹部の名刺はあったが、どこで会ったか記憶にない。また石川は献金の窓口ではなく、口座を管理していたが、そのような入金はなかった、とのことだった。

 

 

 水谷には佐藤栄佐久前福島県知事の汚職事件での前科(嘘の供述)があった。

 

 前知事は「知事の弟が経営する会社の土地を、水谷建設が時価より17000万円高く買った」という水谷元会長の供述をもとに起訴された。

ところが、一審では賄賂額が7372万円に減額し、二審ではゼロと認定され、「土地を売却し、換金する利益を得たことは賄賂と認められるが(どうして)、高値で買い取らせたとは言えない」として懲役2年、執行猶予4年とした。二審の途中で水谷が「執行猶予欲しさに事実と異なる供述をしていた」と告白したと知事の弁護人が明らかにした。

 

 

146 また石川が全日空ホテルの喫茶店アトリウムラウンジで5000万円を受け取ったとされるが、そこは誰でも見られる場所であり、あり得ないことだった。

 

09年末、特捜部は石川の聴取に踏み切った。容疑は0410月に陸山会が世田谷区の土地を34000万円で購入したのに、その代金支出を04年分の政治資金収支報告書に記載しなかったという政治資金規正法違反容疑であった。

147 05年分の収支報告書には土地代金の支出が記載されている。登記は051月である。

 

 特捜部の真の狙いはそれではなかった。

 

148 特捜部は秘書寮建設のための小沢個人の資金4億円の分散入金の中に水谷建設のヤミ献金5000万円が含まれていると見立てた。

 

149 113日、特捜部は陸山会事務所などを家宅捜索し、石川の二回目の聴取をし、検事は石川に「収支報告書に故意に虚偽記載したと認めないと逮捕される」と脅した。

115日、石川と二人の秘書大久保・池田光智が逮捕された。

石川は水谷建設からの5000万円受け取りについて確認された後で逮捕された。

 

拘留訊問(116日、東京地裁)は形骸化していて、検察の拘留請求が退けられる場合は殆どない。

 

123日、小沢幹事長が特捜部の事情聴取に応じた。4億円の原資と収支報告書の虚偽記載への関与を問われた。

 

小澤逮捕の条件

 

・土地購入資金4億円の中に水谷建設からのヤミ献金5000万円が含まれていること。

・収支報告書の虚偽記載が小沢の指示で行われたこと。

 

3歳と5歳の子どもを保育園に預けて石川の事務所で働いている女性秘書Uは、126日午後1時から東京地検に呼ばれ、10時間監禁された。「必ず戻ってくるから、保育園のお迎えだけは行かせて欲しい」という懇願も無視された。血も涙もない検察だ。

 

 特捜部の吉田正喜副部長は石川に「政権交代を潰してもいいのか」と言い、帰り際に関西弁で凄んだという。

吉田副部長「あなたは水谷建設から5000万円預かったことをただ忘れているだけだ。それを思い出せばいいんだ

24日、石川は20日間の取調べに何とか耐えた。

 

157 24日、東京地検は石川と大久保を政治資金規正法違反(虚偽記載)で起訴し、小沢は嫌疑不十分で不起訴とした。その理由を「収支報告書の不記載を具体的に指示した証拠が得られなかった」としたが、真の理由は水谷建設のヤミ献金を立証できなかったことである

 検察の見込み捜査は失敗した。特捜部は証拠不足を石川の自白で埋めようとした。また多くのメディアが検察に同調し、小沢・石川を攻撃した。

 

 

 補足

 

 Wikiによれば、200410月と20054月の水谷建設から小沢一郎事務所へのヤミ献金問題(事案)で、大久保隆規と石川知裕は「認定確定」とされ、小沢は「立証せず」となっている。大久保や石川の「認定確定」とは、二人が水谷側からヤミ献金を受け取ったと「認定」されたということか。それなら、そういう証拠を採用しておきながら、なぜその罪で二人を起訴しないのか。

 

 

 またWikiによれば、石川の女性秘書に対する検察の血も涙もない取調べ方を『週刊朝日』が指摘したら、東京地検は「事実無根」として週刊朝日の山口一臣編集長あてに抗議文を送ったと明らかにした。どこまで検察は嘘つきなのだろうか。

 

 週刊朝日は2010212日号で「子ども“人質”に女性秘書『恫喝』10時間」という記事を掲載したが、それによると以下の通りである。

126日、東京地検特捜部検事・民野健治は、石川の女性秘書を事情聴取に呼び出し、10時間もの取り調べに及んだ。石川の女性秘書は、幼い子どもと連絡が取れないまま圧迫質問を受け続けて難聴になった。女性秘書には3歳と5歳の子どもがおり、取調べ途中、保育園へ二人を迎えに行く時間が迫っているため、「必ず戻ってくるから、子どもを迎えに行かせて欲しい」と懇願したが、聞き入れられず、この時、検事は

 

「何言っちゃってんの?そんなに人生、甘くないでしょ?」

 

と発言したと言う。また、どこからか入手してきた彼女の子どもの写真をパソコンで見せて、

 

「母親が逮捕されたら子どもたちはどう思うか」

 

と恫喝したという。

 

 

 

207 金沢事件 199311月、金沢仁検事が仙台地検で取り調べ中に参考人の木材会社専務らに暴行を加えた。金沢は静岡地検浜松支部から特捜部のゼネコン汚職捜査の応援にきていた。金沢は逮捕された。

 

金沢は椅子の足を蹴飛ばし、そこに座っていた専務を弾き飛ばした。また専務の背広の襟首をつかんで上体を揺さぶった。そしてそれらの行為を数十回繰り返した。

専務を壁に向かって長時間立たせ、質問に答えられなかったりすると、後ろから繰り返し腰のあたりを蹴り、専務の額や腹部を壁に激突させた。「豚野郎」「猿野郎」「半殺しにして帰してやる」などと大 声で怒鳴りつけながらわき腹や(もも)を蹴った。

専務を靴のままで正座させた土下座の状態で、専務の首や後頭部を繰り返し(足で)踏みつけ、専務の額を床にぶつけさせた。

顔を数十回平手で殴り、口の中から出た血が机の上に飛び散った。

専務は口や耳、首、腰などに「一週間のけが」をした。

 

検察は不変のストーリーを作ってそれに供述を当てはめようとする。

 

新聞記者も「ある程度のきつい調べは行われているだろう」と思い、世のなかの人も「どうせ相手は悪党だから、調室で少しくらい痛めつけてもいいんだ」という人もいたかもしれない。そして暴行、脅し、法廷での偽証が繰り返された。

検察官の中にそういう暴行で自分が起訴されるかもしれないと考えた人はほとんどいないだろう。公訴権のすべて検察官が握っているからだ。法廷での(検察官が作文した)証言が裁判所に信用されないとしても、偽証罪で起訴されることはないと確信しているから無謀なことをやる。

 

210 一方裁判所は検事が嘘をつくわけがないとし、有罪判決を出すことを最初から考えている。

 

 

 

検察の取調べ方

 

取調べをもとに調書をつくるのではなく、初めから検察のボスがストーリーを作っておき、被疑者の「証言」をそれに無理やり合わさせる。

ボスの作文を取調べ検事間で共有するのであり、取調べた被告人の証言を纏めるのではない。

 

 

 

裁判を有利に進めるには、マスコミを味方につけなければならない。

 

 

 

 村木事件に関する疑問

 

倉沢は検察に迎合したのか。283

倉沢は村松義弘社会参加推進室社会参加係係長に会って、その村松から村木を紹介された。283とあるが、これは真実か。(第3章)

 

以上 20211114()

 

2021年10月13日水曜日

『枝野ビジョン 支え合う日本』 枝野幸男 2021 抜粋・感想

『枝野ビジョン 支え合う日本』 枝野幸男 2021

 

 

感想 20211013()

 

外交・安全保障の考え方では私は枝野とは異なる。枝野は米の軍事力に頼らず、自力で北朝鮮の核やミサイルと戦い、尖閣では中国軍を撃退する実力をつけなければならないという。なぜ外交で平和を維持して軍事費を削減し、その分を福祉や財政健全化に回すという発想を取らないのか。枝野はすごい鷹派だ。

枝野は米軍が尖閣を守ってくれるだろうという考え方は間違っていると言うが、それはその通りだろう。米中有事の際に米は自国の国益を優先するからだ。244, 245

 

感想

 

枝野は安倍晋三が重視する明治維新後の150年間(近代化一本鎗で自己中心的な好戦性)と対比して、17条憲法制定以後の1500年間の意義(水田稲作農耕社会の共同体的親睦)を提起する。

 

疑問点 社会制度の異なる1500年前の日本人と今の日本人を同じ物差しで測れるのだろうか。また、枝野は聖徳太子や17条憲法よりも1500年間の日本の歴史の方に力点を置いているのだろうが、聖徳太子が17条憲法をつくったというのは史実に反しないか。027

 

枝野は日本が八百万の多神教文明だとし、現代でも多くの日本人が初詣は神社に行き、結婚式はキリスト教会で挙げ、葬式は仏教寺院で行うといったことを違和感なく行っている029というが、多くの人がやっているのだろうか。少なくとも私はどれもやっていない。またそもそも日本は多神教社会なのだろうか。

 

水田稲作農耕社会が共同社会だ032というのはどこからの引用なのだろうか。典拠を示してもらいたい。

 

035 枝野は「日本人の平和志向は、農耕社会を背景に、争いを好まず、合意形成を大切にし、他者に寛容な文明をもつことから生じた日本の歴史と伝統に基づく。」というが、関東大震災での朝鮮人や中国人の虐殺、中国での三光作戦、南京虐殺などは他者に寛容と言えるのか。枝野はおそらくそれを明治維新以後の150年間に肩代わりさせるつもりなのかもしれない。

036, 037 また枝野は日本が戦後「国際協調路線と必要最小限の軽武装路線を継承したのは、憲法九条の有無にかかわらず、それが日本の歴史と伝統を踏まえたものだったからと考えるべきではないか。」というが、戦時中の日本人は日本の伝統のうちに含まれないのか。おそらくこれも同様に明治維新以後の150年間に肩代わりさせるつもりなのだろう。枝野は「昭和初期体制」を問題視している。

 

枝野が政治的「左右」にこだわらないのは、自らの政治家としての出自が、左派の社会党ではなく、自民党の派生物(日本新党)であったからのようだ。

そのころ小沢一郎が自民党を離脱したことから、自民党が下野し、社会党も分裂した。それを枝野は55年体制に比して、1993年体制(小選挙区体制)という。050

Wikiによれば当時は、日本新党1992.5.22—1994.12.9(新進党に吸収された。創設者細川護熙は元自民党の参議院議員)や新党さきがけ1993.6.21—2002.1.16(自民から派生)の時代である。

 

 

抜粋

 

042 立憲主義の考え方は、人間は誰もが不完全であり、そういう人間が構成する社会も不完全であるとし、先人たちの積み重ねてきた経験知を謙虚に踏まえ、世の中を少しでも良くしていこうという「保守」の観点に立ち、権力の行使を経験知の集約である憲法で制約することである。

043 民主主義は多数決ではない。民主主義はみんなで話し合い、みんなが納得できる結論を導き出すことである。多数決はみんなが納得できる結論を導くための一つの手段に過ぎない。

 例えば、五人が食事会で何を食べるか相談する。四人は蕎麦屋が良いというが、残る一人が蕎麦アレルギーで蕎麦屋に行くと何も食べられない。この場合、蕎麦屋が多数意見であってもこれを押し切るのは正義ではない。食べられない人がいるなら、そのことに配慮しつつ他に何が良いかについてもう一度話し合うのが、みんなが納得できる決め方つまり真の民主主義である。

044 自らを批判する勢力(野党とは限らない)を力で封じ込めようとすることに躊躇する謙虚さがあるのが真の「保守」である。

045 自らを批判する勢力は全て間違っているかのように振舞う独善的な姿勢、国民を敵と味方に分けて味方以外を敵視する姿勢も全く「保守」的でない。

 

046 安倍政権は「昭和初期体制」に親和的である。1500年の日本の歴史の中で「昭和初期体制」は異質である。武力で物事に決着をつけようとする志向、絶対に排他的な価値観で社会国家を染め上げる体制は、多様性と寛容を基本とする日本の歴史と伝統に矛盾する。

 

073 かつての民主党には第二自民党論つまり自民党との違いが小さいことを強調すべきであり、理念や政策に幅を持たせなくてはならないという議論があった。

 

 

感想 20211011()

 

近代化モデル=アベノミクス=新自由主義(金融緩和、財政出動、規制緩和)は格差を生んだだけで、利益のトリクルダウンは起こらず、非正規や困窮者が増えた。117

GDP(経済)の内訳で、輸出は20%に過ぎないが、内需は50%超である。だから内需を増やした方がいい。また高所得者より低所得者の方が収入をすぐ消費に回すので、低所得者の収入を増やせば内需が増え、GDPも増える。118

哀れみの対象をつくらない方がいい。収入による児童手当の支給差別をしない方がいい。誰でも必要なサービスが受けられる方がいい。このことについては後述する。140, 141

 

 

098 こうした(民営化の)流れは昭和の終わり1989、国鉄や電電公社の民営化を実現した中曽根行革から続いてきた。「公務員を減らせば行革だ」などという30年以上前からの発想はもはや時代遅れである。

112 近代化モデルは限界に達した。

122 アベノミクスの金融緩和は、潜在的な投資や消費が乏しい中では、経済対策として期待される効果を生まない。

 

132 こうした(老後の)不安を抱かずに済むのは、自分の貯えで長期間(10年)にわたり、介護などのサービスを自己責任で手に入れることができる超富裕層に限られる。

 高齢者が求めているのは、最後まで現在の豊かさを享受できるのかという不安に応えてもらうことではないか。将来の年金額や、将来受けられる医療や介護のサービス水準についての不安を解消したいのではないか。100歳まで生きても、最期まで適切な医療や介護を受けることができ、子や孫に負担をかけることなく、今と同程度の生活水準を確保することが大部分の高齢者の望みなのではないか。

 

今の日本人は一定程度の生活レベルに達しているから、昔の高度成長時代のようにさらに収入を増やしたいとは望んでいない。

 

135 一見これらの問題(年金や介護に対する不安、子育てサポートの不足に対する不満、安定した職に就けないという苛立ち)の外にいると思われている国民の間にも、将来自分がその状況に陥るのではないかという不安が潜在的に広まっている。

より物質的に豊かになるというこれまでの目標に代わり、これからはより安心できることを目指していく。

136 若い世代には非営利活動による社会貢献を目指す人や、高いレベルでの自己実現を目指して世界にチャレンジするスポーツ選手や芸術家など、物質的に豊かになること以外の夢や目標を掲げて努力している人たちが着実に増えてきているように思われる。

137 政治と行政には、支え合い、分かち合う機能を果たすことが求められている。

140 お互いさま リスクとコストを分かち合い、誰が病気になったり、失業して貧困に陥ったりしても、お互いさまに支え合う政治や行政を取り戻していく。

 

支え合いでは収入や資産の要件を問うことで弱者を探し出すのではなく、そのサポートが必要かどうかで判断すべきだ。弱者だからではなく、必要だからサポートする。

141 いつか自分が、同じような障害や病気になれば、同様のサポートが得られる。そのような安心感があるから、他者をサポートすることに寛容でいられる。(所得制限のない子ども手当を参照。後述。)

 

142 年金や介護などで高齢者に対する社会全体での支え合いを強化すれば、自分の親や祖父母に対する現役世代の個別の負担が小さくなる。

147 自民党の一部ではかつての前近代的な家族協同体を取り戻し、子育てや介護の責任を家族に押し付け、社会全体の負荷を小さくしようとする動きがあるが、そうすれば女性がますます過重な負担を強いられることになる。

 

152 2012年、勤労者世帯の年収352万円未満の世帯では消費性向が8割を超えているが、年収828万円以上の世帯では6割台に留まる。

 

160 同じ高い生産性でも、同じ富を少ない労力で生み出すという考えからは人件費のカットが生じるが、同じ労力でより大きな富を生み出すという考えからは労働者の豊かさが高まる。

 

162 財源確保のため、高齢者から、いざというときの窓口負担ではなく、所得税や保険料で徴収する。

 

163 人口増は消費内需)の拡大につながる。

 

164 教育の底上げが生産性を向上させる。

168 産休や育休の代替を除いて、常勤者と同様に働いている非正規雇用の教員が、公立の小中学校で1割存在する。

170 経済的困窮家庭の多い地域や、地方など近くに民間の塾や予備校がない場合は、公教育が補習を担ってこれを補う役割を果たす体制にすべきだ。

172 非正規職員の多い児童相談所の職員の正規化と大幅増員で、全ての子どもの教育機会を確保する。

174 かつて野口英世など貧困だが優秀で意欲のある子弟を、地域の資産家が支援して高等教育を受けさせた。

 

178 国際収支の黒字を保つべきだ。

180 規格化と大量生産は新興国が得意である。知的所有権や海外投資で稼ぐために研究開発をするのもそれと同じ発想である。少量・多品種で競争すべきだ。そこは中小企業の出番だ。

183 旅客機の化粧室や厨房施設での世界市場の半分を日本の中小企業が占めている。

 

187 発電は地産地消がよい。対価や収益が地方にもたらされ、地域に雇用が生まれる。

190 既存電力会社は競合する他社の自然エネルギーによる電力を送電するためにコストがかけられないから、送電網の建設は政府がしないとできない。

 

192 風呂場が寒くヒートショックで死ぬ人が交通事故で死ぬ人よりも多い。

 

196 介護や保育の職員の賃金を上げるために、窓口負担の増額ではなく、保険料や税を徴収して社会保障費を出す。(軍事費を削ったらどうなのか。)

198 消防署交通警察を火災や交通事故死がないから無駄だとして廃止はしない。(警察へのリップサービス)

200 大型公共事業では地元に落ちる金が少ない。公のための仕事(保育、介護、物流、小売、旅客運送、警察、消防)を福祉事業と見なし、それに従事する人の給料を上げるべきだ。

202 その経済波及効果は大きい。安全な雇用と十分な賃金によって現役世代が地域に残る

 

205 一律支援(給付)は国会議員や官僚が反対する。公的支出の対象を選択することが彼らの権力の源であるからだ。

206 そして自分を応援してくれる地域や業者に「箇所づけ」(予算を優先的に回す)する。

207 弱者保護政策は、所得基準をつくったり、実態調査をしたりするなど、行政のコストがかかる。基礎年金の半分は所得と無関係に一律支出されている。

208 高額所得者からは税で徴収すればよい。

 

210 自衛隊に生活支援隊をつくり、緊急時に災害支援をする。

212 10年前、産科、小児科、麻酔科などで緊急に利用しにくいことがあった。

213 余力が必要だ。 

219 国債でサービスの充実を先行させ、その後に徴収する。

 

219 消費税の導入時に間接税の比率が低すぎると言われた。

220 社会保険料(年金や健康保険の保険料)は所得税のように累進ではなく、所得比例で賦課されるが、上限が低く設定されていて、所得が増えても負担額が増えず、高額所得者に有利である。

所得税定率課税で逆進的な金融所得課税逆進性の高い社会保険料負担、内部留保に回る法人税などの直接税やこれに準ずる負担と、消費税という間接税との直間比率を、かつてとは逆の方向で見直す、つまり、累進性を強化し直接税などの比率を高める。

223 消費税減税によって政府が消費を増やそうとしているメッセージを民衆が汲み取るだろう。(それは疑問)

224 消費税減税が低所得者程恩恵が大きいのか。金額では高所得者のほうが恩恵が大きく、低所得者の恩恵は小さい。(これは屁理屈。このあたりは言葉のトリックのようだ。しかし次のこと(直接給付)を言いたいのだろう。)

緊急時は、減税よりも一番困っている層への給付の方が良い。その方法は、一律給付にし、高額所得者には所得税で調整する。

225 給付付き税額控除制度とは消費税額事前還付制度である。全ての人に最低生活費(消費額)の10%を給付する。所得税からその分を控除する。所得税が10%に達しない部分は現金給付する。高額所得者には所得税を増税する。

 

226 自治体は小さい方がいい。道州制はそれに逆行する。小さい自治体の利点は以下三つある。

 

・住民の要求に行政の目が届きやすい。

・自己実現できる。

・参加意識から納得感が得られる。

 

229 補助金は一律的に駅前整備に使われ、地域の個性が失われた。

 

232 水、空気、土地、緑、棚田などは、産業価値で測れない価値である。

233 農家への戸別所得補償制度にはその意味が込められている。かつての食管制度や関税は、農産物価格支持制度であったが、過剰生産を招いた。

 

238 外交・安全保障政策は、他の主権国家の意志や行動によっていやおうなく(決定的に)制約を受けるという特殊性がある。

239 どの国も自国に有利な国際環境を作り上げていく。

 

240 健全な日米同盟を軸にして、地位協定の改定を米国に働きかけるSACO合意から25年も経過しているのに完成の目途が立たない辺野古基地の建設を中止し、普天間基地の危険除去に向けて米と協議する

核兵器禁止条約へのオブザーバー参加を米国等と調整する。(そこまで制約されているのか。)

 

241 人権や人道問題で日本は得意である。軍事力を75年間行使しなかった。(本当だろうか。)

242 日本は人権、民主主義、地球環境、核軍縮、公平なルール作りなどで国際社会で役割を果たす。

 

243 「日本を守ってくれる米軍」の下で、自衛隊が米国との協力を深めれば、同盟関係が強化され、抑止力が高まると自民党は言う。確かにその分、米の負担が減るから米は歓迎するだろう。

 

「米国はなぜ日米安保条約を締結し、日本を守ることに協力すると約束しているのか。」

244 太平洋の西側、アジアの東端に信頼できる同盟国が存在し、そこに安定的な米軍基地を置けることが、米国自身の国益にかなっているからだ。

米国から見た日米同盟の本質を踏まえれば、日本の防衛を米国の協力だけに依存することはできない。米中の緊張が高まれば、アジア太平洋地域に止まらず全世界に影響が生じかねない。その時、米国は尖閣でどのくらい協力するのか、未知数である。米国は米国の国益の観点から尖閣介入の度合いを判断するだろう

 

245 北朝鮮の核やミサイルがあるから米の抑止力は不可欠である。(この発想は分からない。)日本自身の対応力を強めることが求められる。(自民と同じ)

 

246 東アジア問題では個別的自衛権で日米が対応できる。集団的自衛権は不可欠ではない。

247 安倍晋三は集団的自衛権行使容認を初めから目論んでいた。安全保障政策の目的は日本の領土と国民の安全を守るうえでの具体的な備えを怠らないことだ。

 

248 民主党は領域警備法案を国会に提出し、尖閣諸島での民間の組織を装った他国の軍隊による侵略(グレーゾーン事態)に備え、民間組織の場合に対応する警察権と、他国軍の場合に対応する個別的自衛権を提唱した。しかし安倍晋三はその提案を全否定した。

 しかし今年、中国が海警法を施行し、与党もその必要性を議論し始めた。

 

250 民主党政権時の北澤俊美防衛相のとき2010、北朝鮮からのミサイル防衛、南西諸島島嶼防衛、テロ対策などを含む動的防衛力構想を打ち出し、基礎的防衛力構想1976から転換した。

安倍晋三はそれを「統合機動防衛力構想」に名称変更した。

 

 

254 これまで蓄積された恩恵(豊かさ)を活かし、支え合いによる不安の少ない社会、一定の豊かさを享受できる社会、多様な一人ひとりの生き方が尊重され、それぞれが自己実現を図ることのできる社会をつくる。

 

以上 20211013()

  

青柳雄介『袴田事件』文春新書2024

  青柳雄介『袴田事件』文春新書 2024       裁判所への要望   (1) 公判時に録音・録画を許さないことは、知識の独占であり、非民主的・権威主義的・高圧的である。またスマホや小さいバッジなどの持ち込みを禁止し、さらにはその禁止事項を失念するくら...