2021年11月14日日曜日

『冤罪法廷』 魚住昭 講談社2010 メモ・感想

『冤罪法廷』 魚住昭 講談社2010

 

 

感想 20211114()

 

 東京・大阪・名古屋の地方検察庁特捜部(やそれ以外の主要道府県の特別刑事部)が関わる裁判で重要なことは、報道陣を味方につけることである。村木厚子事件でもそのことが有能な弁護士・広中淳一郎によって実証された。それは公判での証言がいかに被告に有利に展開しても、裁判官は検察を信じ、有罪ありきで臨むからだ。

検察は保守・自由主義(或は戦前の価値観)の砦を自認し、自らが重要と判断した場合には、政治に口を挟もうとする態度を持っているようだ。小沢(陸山会)事件でも民主党がやられたように。

検察は拷問までして証言を捏造し、主任検事の作ったストーリーを実現しようとする。266

 

 

メモ

 

 

前史122-126

 

戦前、検察は日陰の存在だったが、疑獄と思想(左翼の弾圧)をテコに発言力を強めた。その主人公が平沼騏一郎である。

日糖疑獄1909を皮切りに、大逆事件1910、シーメンス事件1914、3・15弾圧1928などを通して検察は発言力を強めた。

平沼は配下の司法官僚、軍幹部、政治家を引き入れて国粋主義の「国本社」を結成1924し、帝人事件をでっち上げて、平沼を嫌う西園寺公望によって首相に抜擢された斎藤実の内閣を総辞職させ、首相に就任した。1939

 

戦後 GHQの改革から検察は逃れ、戦前の体質がそのまま残った。126-128

 

 戦後の改革点

 

・裁判所は司法省から離れ、最高裁を頂点とする独立組織となった。

・検事局は裁判所から離れ、検察庁として独立し、法務省(旧司法省)に設置された。しかしこれは戦前から議論されていたことだった。

 

 戦前の制度が温存された点

 

GSGHQ民政局)は検察の役割を、捜査権を持つ警察から分離し、法廷の中だけで活動し、起訴するかどうかの判断だけに限定し、捜査権を持たせないようにしようとしたが、実際は彼らの必死の工作で、

 

・検察は公安委員会に、警察官に対する指示・指揮権や、警察官の懲戒・罷免の訴追をする権限を持たせた。

・検察は独自の捜査権を持った。

・検察は起訴・不起訴の裁量権を持った。

・検事調書を条件付きで証拠として採用できる。員面調書(被告以外の者の供述の記録)や検事調書は被告の同意がないと証拠として法廷に出せないのだが。裁判官は殆ど検事調書を採用する。

・保釈の際、裁判官は検察官の意見を聞かなければならない。

 

GHQや法曹界、言論界は検察の問題点を不問にした。

 

 

129 自由主義体制が崩壊しない程度の政治腐敗の摘発

 

造船疑獄1954、日通事件1968、ロッキード事件1976

 

 

 

いくつかのこれまでの検察の体質を暴露する事件。冷戦構造の崩壊後その傾向がひどくなった。

 

 

・リクルート事件

 

拷問129-

 

リクルート事件1988-89の江副浩正前リクルート会長に対する神垣清水検事の拷問。130

部屋の隅の壁の直前に顔をつけさせ、他に行き場のない状態にしておいて、検事が耳元で大声で罵倒する。『リクルート事件・江副浩正の真実』

 

 

 

1993年の金丸信自民党副総裁の脱税事件後、小澤一郎ら44人が自民党を離党して新生党を結成し、7月の総選挙後に社会党、日本新党などとの連立で細川政権が樹立した。132, 133

2002.4、検察内部の裏金を内部告発した三井(たまき)大阪高検公安部長が逮捕された

記者は検察権力の横暴を糾弾するよりも、捜査情報を得たいから検察を批判しない。

 

 

 

135 2004年に検事総長になった松尾邦弘「我が国が規制緩和・事後救済型社会への転換を図る諸改革を推進しているなかで、司法の役割はますます拡大していく」

この意味は、これまで手を出さなかった企業社会へ検察が縄張りを拡大することであり、ライブドアがその最初のターゲットとなった。

 

 

 

・ライブドア事件200528141

 

141 堀江貴文『徹底抗戦』によれば「昨今の経済事件の重罰化の流れは、検察OBに対して企業のコンプライアンス特需をもたらし、多くの企業は多額の報酬を払って検察OBを受け入れるようになった。(顧問などで)一種の天下りのようなものだ。警察がパチンコ業界の自主規制団体みたいなものに天下りしているのも同じ構図だろう。」

 

特捜事件はヤメ検弁護士の収入源となっている。

被告側は検察への影響力を期待して検察高官OBに弁護を依頼する。

元高官は配下の若いヤメ検たちに実務を任せ、高額の弁護報酬を得る。

特捜部は裏取引で被疑者に容疑を認めさせ、裁判を早期決着させる。

 

 

136 「時間外取引」

証取法は上場企業の3分の1を超える株式を「市場外」の「相対取引」で買う場合、買い付け価格や株数などを事前に開示するTOBをかけねばならないと定めている。

しかし「時間外取引」は「市場内」だからTOB規制はかからない。

最初の容疑は、相場の変動を目的とする不正行為(偽計取引・風説の流布)を禁じる証取引法第158条違反。「内部告発」があった。

某会社の買収が済んでいたのに、新たに株式交換で買収するように見せかけ、自社の売上高や利益を水増しするという虚偽の発表をしたという疑いであるが、これは形式犯であり、首脳陣を逮捕するほどの事件ではない。

次の容疑は、連結決算粉飾容疑で、再逮捕した。自社株買いを売り上げとしたことが4年前から違法になっていた。

しかしグループ全体の実質財産の総額をごまかしたわけではなかった。139

 

感想 難しい。分かりにくい。

 

 

 

・ムネオ疑獄

 

139 20025月、鈴木宗男元官房副長官の盟友と言われた外務省前国際情報局主任分析官佐藤優が背任容疑で逮捕された。

 

 

 

・小沢一郎(陸山会)事件 この事件は検察が民主党政権を好ましくないと思っていることを示唆するような事件だ。

 

141 093月、西松建設の幹部らが海外工事で捻出した1億円の裏金を国内に持ち込んだという内部告発があり、裏金の一部が長野県知事周辺に流れたという疑惑があったが、知事側近が自殺し、解明できなかった。

 

142 東京地検特捜部がこのまま捜査を終えると検察内部やマスコミの批判を浴びかねない。

 

西松建設関連の政治団体から小沢一郎側へ3500万円の政治献金がなされたが、これは政治資金収支報告書に記載されている。

 

 従来はヤミ献金額が1億円以上の場合に、政治資金規正法違反容疑で政治家の強制捜査に踏み切っていたが、小沢の場合はその慣習を突然やめ、しかもヤミでもなく、額も3500万円なのに、西松建設からの献金をダミーの政治団体名義に偽装したとして、政治資金規正法違反(虚偽記載)で、野党第一党党首の小沢一郎の公設秘書・大久保隆規を逮捕した。

 

 逮捕の理由は、小沢が検察を中心とする霞が関・官僚制度の解体を主張していたからである。また小沢は政治の師田中角栄や金丸信を検察によって葬られていた。

 

143 小沢一郎『90年代の証言 小沢一郎政権奪取論』のなかで小沢は、92年の金丸信・自民党副総裁の5億円献金事件について「議員本人は政治資金に直接関与せず、秘書ら事務方が資金を扱っていた。だから政治資金にまつわる金銭スキャンダルが起きた時は、捜査はだいたい事務方の刑事責任で終わっていた。」「金丸本人の立件は検察の裁量権の拡大であり、検察の考え次第で逮捕・起訴が自由にできることになってしまう。これは法治主義の破壊であり、民主主義の破壊だ。」としている。

 

 検察はそういう小沢による政権の出現を快く思っていなかった。

 世論は総選挙を前にした微罪逮捕が政治的意図を感じさせると受け止めた。5か月後の8月の総選挙で民主党が圧勝した。

 

 

 2010113日、検察は陸山会事件の強制捜査に着手した。

 

144 0911月、三重県のゼネコン水谷建設から小沢側へのヤミ献金疑惑をマスコミが報じた。

 

水谷建設の水谷功元会長(当時脱税の罪で服役中)らが、0410月と054月の2回にわたり、石川と大久保に5000万円ずつ計1億円を小沢側に渡したと、特捜部の調べで供述したと報道した。

 

 石川知裕衆院議員は小沢事務所の秘書で、献金の事務処理を担当していた。

 魚住昭は0911月、石川に会った。その結果、石川は水谷に会ったこともなかった。水谷建設の別の元幹部の名刺はあったが、どこで会ったか記憶にない。また石川は献金の窓口ではなく、口座を管理していたが、そのような入金はなかった、とのことだった。

 

 

 水谷には佐藤栄佐久前福島県知事の汚職事件での前科(嘘の供述)があった。

 

 前知事は「知事の弟が経営する会社の土地を、水谷建設が時価より17000万円高く買った」という水谷元会長の供述をもとに起訴された。

ところが、一審では賄賂額が7372万円に減額し、二審ではゼロと認定され、「土地を売却し、換金する利益を得たことは賄賂と認められるが(どうして)、高値で買い取らせたとは言えない」として懲役2年、執行猶予4年とした。二審の途中で水谷が「執行猶予欲しさに事実と異なる供述をしていた」と告白したと知事の弁護人が明らかにした。

 

 

146 また石川が全日空ホテルの喫茶店アトリウムラウンジで5000万円を受け取ったとされるが、そこは誰でも見られる場所であり、あり得ないことだった。

 

09年末、特捜部は石川の聴取に踏み切った。容疑は0410月に陸山会が世田谷区の土地を34000万円で購入したのに、その代金支出を04年分の政治資金収支報告書に記載しなかったという政治資金規正法違反容疑であった。

147 05年分の収支報告書には土地代金の支出が記載されている。登記は051月である。

 

 特捜部の真の狙いはそれではなかった。

 

148 特捜部は秘書寮建設のための小沢個人の資金4億円の分散入金の中に水谷建設のヤミ献金5000万円が含まれていると見立てた。

 

149 113日、特捜部は陸山会事務所などを家宅捜索し、石川の二回目の聴取をし、検事は石川に「収支報告書に故意に虚偽記載したと認めないと逮捕される」と脅した。

115日、石川と二人の秘書大久保・池田光智が逮捕された。

石川は水谷建設からの5000万円受け取りについて確認された後で逮捕された。

 

拘留訊問(116日、東京地裁)は形骸化していて、検察の拘留請求が退けられる場合は殆どない。

 

123日、小沢幹事長が特捜部の事情聴取に応じた。4億円の原資と収支報告書の虚偽記載への関与を問われた。

 

小澤逮捕の条件

 

・土地購入資金4億円の中に水谷建設からのヤミ献金5000万円が含まれていること。

・収支報告書の虚偽記載が小沢の指示で行われたこと。

 

3歳と5歳の子どもを保育園に預けて石川の事務所で働いている女性秘書Uは、126日午後1時から東京地検に呼ばれ、10時間監禁された。「必ず戻ってくるから、保育園のお迎えだけは行かせて欲しい」という懇願も無視された。血も涙もない検察だ。

 

 特捜部の吉田正喜副部長は石川に「政権交代を潰してもいいのか」と言い、帰り際に関西弁で凄んだという。

吉田副部長「あなたは水谷建設から5000万円預かったことをただ忘れているだけだ。それを思い出せばいいんだ

24日、石川は20日間の取調べに何とか耐えた。

 

157 24日、東京地検は石川と大久保を政治資金規正法違反(虚偽記載)で起訴し、小沢は嫌疑不十分で不起訴とした。その理由を「収支報告書の不記載を具体的に指示した証拠が得られなかった」としたが、真の理由は水谷建設のヤミ献金を立証できなかったことである

 検察の見込み捜査は失敗した。特捜部は証拠不足を石川の自白で埋めようとした。また多くのメディアが検察に同調し、小沢・石川を攻撃した。

 

 

 補足

 

 Wikiによれば、200410月と20054月の水谷建設から小沢一郎事務所へのヤミ献金問題(事案)で、大久保隆規と石川知裕は「認定確定」とされ、小沢は「立証せず」となっている。大久保や石川の「認定確定」とは、二人が水谷側からヤミ献金を受け取ったと「認定」されたということか。それなら、そういう証拠を採用しておきながら、なぜその罪で二人を起訴しないのか。

 

 

 またWikiによれば、石川の女性秘書に対する検察の血も涙もない取調べ方を『週刊朝日』が指摘したら、東京地検は「事実無根」として週刊朝日の山口一臣編集長あてに抗議文を送ったと明らかにした。どこまで検察は嘘つきなのだろうか。

 

 週刊朝日は2010212日号で「子ども“人質”に女性秘書『恫喝』10時間」という記事を掲載したが、それによると以下の通りである。

126日、東京地検特捜部検事・民野健治は、石川の女性秘書を事情聴取に呼び出し、10時間もの取り調べに及んだ。石川の女性秘書は、幼い子どもと連絡が取れないまま圧迫質問を受け続けて難聴になった。女性秘書には3歳と5歳の子どもがおり、取調べ途中、保育園へ二人を迎えに行く時間が迫っているため、「必ず戻ってくるから、子どもを迎えに行かせて欲しい」と懇願したが、聞き入れられず、この時、検事は

 

「何言っちゃってんの?そんなに人生、甘くないでしょ?」

 

と発言したと言う。また、どこからか入手してきた彼女の子どもの写真をパソコンで見せて、

 

「母親が逮捕されたら子どもたちはどう思うか」

 

と恫喝したという。

 

 

 

207 金沢事件 199311月、金沢仁検事が仙台地検で取り調べ中に参考人の木材会社専務らに暴行を加えた。金沢は静岡地検浜松支部から特捜部のゼネコン汚職捜査の応援にきていた。金沢は逮捕された。

 

金沢は椅子の足を蹴飛ばし、そこに座っていた専務を弾き飛ばした。また専務の背広の襟首をつかんで上体を揺さぶった。そしてそれらの行為を数十回繰り返した。

専務を壁に向かって長時間立たせ、質問に答えられなかったりすると、後ろから繰り返し腰のあたりを蹴り、専務の額や腹部を壁に激突させた。「豚野郎」「猿野郎」「半殺しにして帰してやる」などと大 声で怒鳴りつけながらわき腹や(もも)を蹴った。

専務を靴のままで正座させた土下座の状態で、専務の首や後頭部を繰り返し(足で)踏みつけ、専務の額を床にぶつけさせた。

顔を数十回平手で殴り、口の中から出た血が机の上に飛び散った。

専務は口や耳、首、腰などに「一週間のけが」をした。

 

検察は不変のストーリーを作ってそれに供述を当てはめようとする。

 

新聞記者も「ある程度のきつい調べは行われているだろう」と思い、世のなかの人も「どうせ相手は悪党だから、調室で少しくらい痛めつけてもいいんだ」という人もいたかもしれない。そして暴行、脅し、法廷での偽証が繰り返された。

検察官の中にそういう暴行で自分が起訴されるかもしれないと考えた人はほとんどいないだろう。公訴権のすべて検察官が握っているからだ。法廷での(検察官が作文した)証言が裁判所に信用されないとしても、偽証罪で起訴されることはないと確信しているから無謀なことをやる。

 

210 一方裁判所は検事が嘘をつくわけがないとし、有罪判決を出すことを最初から考えている。

 

 

 

検察の取調べ方

 

取調べをもとに調書をつくるのではなく、初めから検察のボスがストーリーを作っておき、被疑者の「証言」をそれに無理やり合わさせる。

ボスの作文を取調べ検事間で共有するのであり、取調べた被告人の証言を纏めるのではない。

 

 

 

裁判を有利に進めるには、マスコミを味方につけなければならない。

 

 

 

 村木事件に関する疑問

 

倉沢は検察に迎合したのか。283

倉沢は村松義弘社会参加推進室社会参加係係長に会って、その村松から村木を紹介された。283とあるが、これは真実か。(第3章)

 

以上 20211114()

 

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