『枝野ビジョン 支え合う日本』 枝野幸男 2021
感想 2021年10月13日(水)
外交・安全保障の考え方では私は枝野とは異なる。枝野は米の軍事力に頼らず、自力で北朝鮮の核やミサイルと戦い、尖閣では中国軍を撃退する実力をつけなければならないという。なぜ外交で平和を維持して軍事費を削減し、その分を福祉や財政健全化に回すという発想を取らないのか。枝野はすごい鷹派だ。
枝野は米軍が尖閣を守ってくれるだろうという考え方は間違っていると言うが、それはその通りだろう。米中有事の際に米は自国の国益を優先するからだ。244, 245
感想
枝野は安倍晋三が重視する明治維新後の150年間(近代化一本鎗で自己中心的な好戦性)と対比して、17条憲法制定以後の1500年間の意義(水田稲作農耕社会の共同体的親睦)を提起する。
疑問点 社会制度の異なる1500年前の日本人と今の日本人を同じ物差しで測れるのだろうか。また、枝野は聖徳太子や17条憲法よりも1500年間の日本の歴史の方に力点を置いているのだろうが、聖徳太子が17条憲法をつくったというのは史実に反しないか。027
枝野は日本が八百万の多神教文明だとし、現代でも多くの日本人が初詣は神社に行き、結婚式はキリスト教会で挙げ、葬式は仏教寺院で行うといったことを違和感なく行っている029というが、多くの人がやっているのだろうか。少なくとも私はどれもやっていない。またそもそも日本は多神教社会なのだろうか。
水田稲作農耕社会が共同社会だ032というのはどこからの引用なのだろうか。典拠を示してもらいたい。
035 枝野は「日本人の平和志向は、農耕社会を背景に、争いを好まず、合意形成を大切にし、他者に寛容な文明をもつことから生じた日本の歴史と伝統に基づく。」というが、関東大震災での朝鮮人や中国人の虐殺、中国での三光作戦、南京虐殺などは他者に寛容と言えるのか。枝野はおそらくそれを明治維新以後の150年間に肩代わりさせるつもりなのかもしれない。
036, 037 また枝野は日本が戦後「国際協調路線と必要最小限の軽武装路線を継承したのは、憲法九条の有無にかかわらず、それが日本の歴史と伝統を踏まえたものだったからと考えるべきではないか。」というが、戦時中の日本人は日本の伝統のうちに含まれないのか。おそらくこれも同様に明治維新以後の150年間に肩代わりさせるつもりなのだろう。枝野は「昭和初期体制」を問題視している。
枝野が政治的「左右」にこだわらないのは、自らの政治家としての出自が、左派の社会党ではなく、自民党の派生物(日本新党)であったからのようだ。
そのころ小沢一郎が自民党を離脱したことから、自民党が下野し、社会党も分裂した。それを枝野は55年体制に比して、1993年体制(小選挙区体制)という。050
Wikiによれば当時は、日本新党1992.5.22—1994.12.9(新進党に吸収された。創設者細川護熙は元自民党の参議院議員)や新党さきがけ1993.6.21—2002.1.16(自民から派生)の時代である。
抜粋
042 立憲主義の考え方は、人間は誰もが不完全であり、そういう人間が構成する社会も不完全であるとし、先人たちの積み重ねてきた経験知を謙虚に踏まえ、世の中を少しでも良くしていこうという「保守」の観点に立ち、権力の行使を経験知の集約である憲法で制約することである。
043 民主主義は多数決ではない。民主主義はみんなで話し合い、みんなが納得できる結論を導き出すことである。多数決はみんなが納得できる結論を導くための一つの手段に過ぎない。
例えば、五人が食事会で何を食べるか相談する。四人は蕎麦屋が良いというが、残る一人が蕎麦アレルギーで蕎麦屋に行くと何も食べられない。この場合、蕎麦屋が多数意見であってもこれを押し切るのは正義ではない。食べられない人がいるなら、そのことに配慮しつつ他に何が良いかについてもう一度話し合うのが、みんなが納得できる決め方つまり真の民主主義である。
044 自らを批判する勢力(野党とは限らない)を力で封じ込めようとすることに躊躇する謙虚さがあるのが真の「保守」である。
045 自らを批判する勢力は全て間違っているかのように振舞う独善的な姿勢、国民を敵と味方に分けて味方以外を敵視する姿勢も全く「保守」的でない。
046 安倍政権は「昭和初期体制」に親和的である。1500年の日本の歴史の中で「昭和初期体制」は異質である。武力で物事に決着をつけようとする志向、絶対に排他的な価値観で社会国家を染め上げる体制は、多様性と寛容を基本とする日本の歴史と伝統に矛盾する。
073 かつての民主党には第二自民党論つまり自民党との違いが小さいことを強調すべきであり、理念や政策に幅を持たせなくてはならないという議論があった。
感想 2021年10月11日(月)
近代化モデル=アベノミクス=新自由主義(金融緩和、財政出動、規制緩和)は格差を生んだだけで、利益のトリクルダウンは起こらず、非正規や困窮者が増えた。117
GDP(経済)の内訳で、輸出は20%に過ぎないが、内需は50%超である。だから内需を増やした方がいい。また高所得者より低所得者の方が収入をすぐ消費に回すので、低所得者の収入を増やせば内需が増え、GDPも増える。118
哀れみの対象をつくらない方がいい。収入による児童手当の支給差別をしない方がいい。誰でも必要なサービスが受けられる方がいい。このことについては後述する。140, 141
098 こうした(民営化の)流れは昭和の終わり1989、国鉄や電電公社の民営化を実現した中曽根行革から続いてきた。「公務員を減らせば行革だ」などという30年以上前からの発想はもはや時代遅れである。
112 近代化モデルは限界に達した。
122 アベノミクスの金融緩和は、潜在的な投資や消費が乏しい中では、経済対策として期待される効果を生まない。
132 こうした(老後の)不安を抱かずに済むのは、自分の貯えで長期間(10年)にわたり、介護などのサービスを自己責任で手に入れることができる超富裕層に限られる。
高齢者が求めているのは、最後まで現在の豊かさを享受できるのかという不安に応えてもらうことではないか。将来の年金額や、将来受けられる医療や介護のサービス水準についての不安を解消したいのではないか。100歳まで生きても、最期まで適切な医療や介護を受けることができ、子や孫に負担をかけることなく、今と同程度の生活水準を確保することが大部分の高齢者の望みなのではないか。
今の日本人は一定程度の生活レベルに達しているから、昔の高度成長時代のようにさらに収入を増やしたいとは望んでいない。
135 一見これらの問題(年金や介護に対する不安、子育てサポートの不足に対する不満、安定した職に就けないという苛立ち)の外にいると思われている国民の間にも、将来自分がその状況に陥るのではないかという不安が潜在的に広まっている。
より物質的に豊かになるというこれまでの目標に代わり、これからはより安心できることを目指していく。
136 若い世代には非営利活動による社会貢献を目指す人や、高いレベルでの自己実現を目指して世界にチャレンジするスポーツ選手や芸術家など、物質的に豊かになること以外の夢や目標を掲げて努力している人たちが着実に増えてきているように思われる。
137 政治と行政には、支え合い、分かち合う機能を果たすことが求められている。
140 お互いさま リスクとコストを分かち合い、誰が病気になったり、失業して貧困に陥ったりしても、お互いさまに支え合う政治や行政を取り戻していく。
支え合いでは収入や資産の要件を問うことで弱者を探し出すのではなく、そのサポートが必要かどうかで判断すべきだ。弱者だからではなく、必要だからサポートする。
141 いつか自分が、同じような障害や病気になれば、同様のサポートが得られる。そのような安心感があるから、他者をサポートすることに寛容でいられる。(所得制限のない子ども手当を参照。後述。)
142 年金や介護などで高齢者に対する社会全体での支え合いを強化すれば、自分の親や祖父母に対する現役世代の個別の負担が小さくなる。
147 自民党の一部ではかつての前近代的な家族協同体を取り戻し、子育てや介護の責任を家族に押し付け、社会全体の負荷を小さくしようとする動きがあるが、そうすれば女性がますます過重な負担を強いられることになる。
152 2012年、勤労者世帯の年収352万円未満の世帯では消費性向が8割を超えているが、年収828万円以上の世帯では6割台に留まる。
160 同じ高い生産性でも、同じ富を少ない労力で生み出すという考えからは人件費のカットが生じるが、同じ労力でより大きな富を生み出すという考えからは労働者の豊かさが高まる。
162 財源確保のため、高齢者から、いざというときの窓口負担ではなく、所得税や保険料で徴収する。
163 人口増は消費(内需)の拡大につながる。
164 教育の底上げが生産性を向上させる。
168 産休や育休の代替を除いて、常勤者と同様に働いている非正規雇用の教員が、公立の小中学校で1割存在する。
170 経済的困窮家庭の多い地域や、地方など近くに民間の塾や予備校がない場合は、公教育が補習を担ってこれを補う役割を果たす体制にすべきだ。
172 非正規職員の多い児童相談所の職員の正規化と大幅増員で、全ての子どもの教育機会を確保する。
174 かつて野口英世など貧困だが優秀で意欲のある子弟を、地域の資産家が支援して高等教育を受けさせた。
178 国際収支の黒字を保つべきだ。
180 規格化と大量生産は新興国が得意である。知的所有権や海外投資で稼ぐために研究開発をするのもそれと同じ発想である。少量・多品種で競争すべきだ。そこは中小企業の出番だ。
183 旅客機の化粧室や厨房施設での世界市場の半分を日本の中小企業が占めている。
187 発電は地産地消がよい。対価や収益が地方にもたらされ、地域に雇用が生まれる。
190 既存電力会社は競合する他社の自然エネルギーによる電力を送電するためにコストがかけられないから、送電網の建設は政府がしないとできない。
192 風呂場が寒くヒートショックで死ぬ人が交通事故で死ぬ人よりも多い。
196 介護や保育の職員の賃金を上げるために、窓口負担の増額ではなく、保険料や税を徴収して社会保障費を出す。(軍事費を削ったらどうなのか。)
198 消防署や交通警察を火災や交通事故死がないから無駄だとして廃止はしない。(警察へのリップサービス)
200 大型公共事業では地元に落ちる金が少ない。公のための仕事(保育、介護、物流、小売、旅客運送、警察、消防)を福祉事業と見なし、それに従事する人の給料を上げるべきだ。
202 その経済波及効果は大きい。安全な雇用と十分な賃金によって現役世代が地域に残る。
205 一律支援(給付)は国会議員や官僚が反対する。公的支出の対象を選択することが彼らの権力の源であるからだ。
206 そして自分を応援してくれる地域や業者に「箇所づけ」(予算を優先的に回す)する。
207 弱者保護政策は、所得基準をつくったり、実態調査をしたりするなど、行政のコストがかかる。基礎年金の半分は所得と無関係に一律支出されている。
208 高額所得者からは税で徴収すればよい。
210 自衛隊に生活支援隊をつくり、緊急時に災害支援をする。
212 10年前、産科、小児科、麻酔科などで緊急に利用しにくいことがあった。
213 余力が必要だ。
219 国債でサービスの充実を先行させ、その後に徴収する。
219 消費税の導入時に間接税の比率が低すぎると言われた。
220 社会保険料(年金や健康保険の保険料)は所得税のように累進ではなく、所得比例で賦課されるが、上限が低く設定されていて、所得が増えても負担額が増えず、高額所得者に有利である。
所得税、定率課税で逆進的な金融所得課税、逆進性の高い社会保険料負担、内部留保に回る法人税などの直接税やこれに準ずる負担と、消費税という間接税との直間比率を、かつてとは逆の方向で見直す、つまり、累進性を強化し直接税などの比率を高める。
223 消費税減税によって政府が消費を増やそうとしているメッセージを民衆が汲み取るだろう。(それは疑問)
224 消費税減税が低所得者程恩恵が大きいのか。金額では高所得者のほうが恩恵が大きく、低所得者の恩恵は小さい。(これは屁理屈。このあたりは言葉のトリックのようだ。しかし次のこと(直接給付)を言いたいのだろう。)
緊急時は、減税よりも一番困っている層への給付の方が良い。その方法は、一律給付にし、高額所得者には所得税で調整する。
225 給付付き税額控除制度とは消費税額事前還付制度である。全ての人に最低生活費(消費額)の10%を給付する。所得税からその分を控除する。所得税が10%に達しない部分は現金給付する。高額所得者には所得税を増税する。
226 自治体は小さい方がいい。道州制はそれに逆行する。小さい自治体の利点は以下三つある。
・住民の要求に行政の目が届きやすい。
・自己実現できる。
・参加意識から納得感が得られる。
229 補助金は一律的に駅前整備に使われ、地域の個性が失われた。
232 水、空気、土地、緑、棚田などは、産業価値で測れない価値である。
233 農家への戸別所得補償制度にはその意味が込められている。かつての食管制度や関税は、農産物価格支持制度であったが、過剰生産を招いた。
238 外交・安全保障政策は、他の主権国家の意志や行動によっていやおうなく(決定的に)制約を受けるという特殊性がある。
239 どの国も自国に有利な国際環境を作り上げていく。
240 健全な日米同盟を軸にして、地位協定の改定を米国に働きかける。SACO合意から25年も経過しているのに完成の目途が立たない辺野古基地の建設を中止し、普天間基地の危険除去に向けて米と協議する。
核兵器禁止条約へのオブザーバー参加を米国等と調整する。(そこまで制約されているのか。)
241 人権や人道問題で日本は得意である。軍事力を75年間行使しなかった。(本当だろうか。)
242 日本は人権、民主主義、地球環境、核軍縮、公平なルール作りなどで国際社会で役割を果たす。
243 「日本を守ってくれる米軍」の下で、自衛隊が米国との協力を深めれば、同盟関係が強化され、抑止力が高まると自民党は言う。確かにその分、米の負担が減るから米は歓迎するだろう。
「米国はなぜ日米安保条約を締結し、日本を守ることに協力すると約束しているのか。」
244 太平洋の西側、アジアの東端に信頼できる同盟国が存在し、そこに安定的な米軍基地を置けることが、米国自身の国益にかなっているからだ。
米国から見た日米同盟の本質を踏まえれば、日本の防衛を米国の協力だけに依存することはできない。米中の緊張が高まれば、アジア太平洋地域に止まらず全世界に影響が生じかねない。その時、米国は尖閣でどのくらい協力するのか、未知数である。米国は米国の国益の観点から尖閣介入の度合いを判断するだろう。
245 北朝鮮の核やミサイルがあるから米の抑止力は不可欠である。(この発想は分からない。)日本自身の対応力を強めることが求められる。(自民と同じ)
246 東アジア問題では個別的自衛権で日米が対応できる。集団的自衛権は不可欠ではない。
247 安倍晋三は集団的自衛権行使容認を初めから目論んでいた。安全保障政策の目的は日本の領土と国民の安全を守るうえでの具体的な備えを怠らないことだ。
248 民主党は領域警備法案を国会に提出し、尖閣諸島での民間の組織を装った他国の軍隊による侵略(グレーゾーン事態)に備え、民間組織の場合に対応する警察権と、他国軍の場合に対応する個別的自衛権を提唱した。しかし安倍晋三はその提案を全否定した。
しかし今年、中国が海警法を施行し、与党もその必要性を議論し始めた。
250 民主党政権時の北澤俊美防衛相のとき2010、北朝鮮からのミサイル防衛、南西諸島島嶼防衛、テロ対策などを含む動的防衛力構想を打ち出し、基礎的防衛力構想1976から転換した。
安倍晋三はそれを「統合機動防衛力構想」に名称変更した。
254 これまで蓄積された恩恵(豊かさ)を活かし、支え合いによる不安の少ない社会、一定の豊かさを享受できる社会、多様な一人ひとりの生き方が尊重され、それぞれが自己実現を図ることのできる社会をつくる。
以上 2021年10月13日(水)
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