2025年6月17日火曜日

田中靖宏「トランプ覇権戦略とグローバルサウス」

 

田中靖宏「トランプ覇権戦略とグローバルサウス」20250615 群馬県平和委員会 講演

 

 

広島・長崎への原爆投下は正当か?

トランプを支える背景は何か?

 

米にはトランプを支える思想運動がある。それは世界における力関係の変化、つまり発展途上国(AALA*)の台頭が原因となっている。

 

AALAとはJapan Asia, Africa, and Latin America Solidarity 日本アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会 非同盟運動団体。

 

 

 スティーブ・ミラン米経済諮問委委員長の講演 47日 ハドソン研究所

 

米国は二つの公共財(軍事力と金融=ドルで世界(平和)を支えてきたが、もはやそのコストに耐えられない。世界各国は分担して貢物を出せ。

 

1、報復しないで米が課す関税を受け入れよ。

2、各国はその市場を開放し、アメリカからの輸入を増やせ。

3、各国は軍事支出を増やし、アメリカの武器を買え。

4、米国に投資し、米国内に工場を作れ。

5、米国に小切手を送り、献金せよ。

 

 

アメリカの軍事予算はGDP3.4%、世界の軍事費の37.5%を占める。2023年。

アメリカは世界の80か国に750の基地を置き、159か国に173000人を展開。日本が最大。(米国地理協会、202211UBIQUE

 

アメリカの経常赤字(貿易収支Current Account Balance*)と、債務残高(累積赤字=国債発行残高)は37兆ドル、これはGDP122%(20254月)

 

Current Account (当座預金)、Balance(差引残高)

 

 

P6 アメリカ連邦政府の財源=歳入に占める所得税Income Taxの割合が高くなってきている。かつては所得税がなかったので、以前のように所得税をなくせという運動がある。

 

Tariffs(関税)/ Excise(間接税)

Payroll Tax給与徴収=源泉徴収(所得税、社会保障税、医療税)

 

 

P7 米GDP構成比(2024年第4半期)で、金融・保険・不動産賃貸業 21.3%、製造業 9.9

 

米では株と不動産を持っていない人が半分

 

 

MAGAMake America Great Again運動のイデオローグを二人紹介する。一人はスティーブ・バノン、もう一人はマイケル・カントン

 

スティーブ・バノン「堕落したリベラルのために資本主義が危機に瀕している。建国時の理念=ユダヤ・キリスト教の価値観を取り戻せ。フロンティア精神と愛国主義を復権させよ。イスラム教徒の集会に、銃を持って集まれ。」

 

マイケル・カントンの主張は「外国に援助をするな」というトランプ・ドクトリンと同じ。

1、自国の利益を最優先する。*

2、リベラル国際主義や人権・民主主義の理念に反対。

3、「万人のためのナショナリズム」?

4、平常に回帰?

 

*グローバリズムの反動としてのナショナリズムと反エリート主義。グローバル主義者が政府を乗っ取って、建国の価値観に攻撃しかけていると考える。

 

アメリカには二つの民主主義の潮流がある。一つは第三代大統領のジェファーソン主義であり、もう一つは第七代大統領のジャクソン主義である。ジェファーソン主義が普遍的価値観に基づくのに対して、ジャクソン主義は利己主義的愛国主義である。その特徴は以下の通りp.11である。トランプの支持基盤の思想となっていて、トランプはジャクソンの写真をホワイトハウスに掲げている。

 

1、リアリズムに基礎を置き、?

2、国際法や国際機関を尊重せず、(自己愛的自国中心主義)

3、平和は「悪魔の計画」だとする悲観主義で、(好戦的)

4、国家の威信と名誉を重んじ、戦争も辞さない。(国家主義)

5、戦争のやり方に明確な基準を持つ。?

6、限定戦争を排し、敵の闘争心を奪うまで遂行する。

7、勝利に代わる代案はないとする。

8、勝利の後に寛大さを示す。

 

ジャクソン主義者で、第11代大統領ジェームズ・ノックス・ポークは、対メキシコ戦争でテキサスを獲得し、決闘を推奨し、インディアンを徹底的に全滅させた。ただし、有産階級だけによる制限選挙から白人男性全員による普通選挙に拡大したが。

 

ジャクソン主義者は、エリートに対して猜疑心を持ち、連邦税に反対して連邦政府を疑い、州や自治体の権力を望む。

ベトナム戦争ではジェファーソン主義派とジャクソン主義派とが対立した。

ジャクソン主義者は言論の自由(憲法修正1条)よりも、銃をもつ自由(憲法修正2条)を優先する。イデオロギーよりも本能と直感を重視し、体罰を推奨する。

ハミルトン1755-1804説の貿易○○に反対?Wikiによれば、ハミルトンは保護主義者で国内製造業の保護育成を重視した。

 

 

P11

 

「日本を二度と立ち上がれないようにする」という米の好戦性の理由は何か。

 

ウオルター・ラッセル・ミード1952- 「アングロ・アメリカは神の恩寵」

 

バンス副大統領もこの思想に染まっている。

 

ヘグセス国防長官は自らを「十字軍」の一員を自認し、「アメリカは中国と世界の左翼、リベラルとイスラムとの聖戦中にある」とし、その著書 “American Crusade”2020(アメリカ十字軍(改革運動))では「共産主義中国は崩壊するだろう。イスラエルとアメリカは絆をさらに緊密にし、イスラム主義と国際主義的左翼運動の災禍と戦う」と誓っている。そして自らの体に十字の入れ墨を入れている。

 

P13 エルブリッジ・コルビーはちょっとだけ違う。コルビー国防次官『アジア・ファースト』文春新書

「米は世界全体を相手にする余裕はない。最大の競争相手の中国が東アジアで覇権を握ることを拒否する戦略・目的は、中国の体制変革ではない。そのための資源の集中と、中国を封じ込める反覇権連合を構築する必要がある。そのためには軍事力を早急に増強する必要があり、最前線にいる日本はm軍事費をGDP3%にせよ。」

コルビーはアメリカの覇権の維持を前提にして一方的な判断をしている。対日要求はネオコンと同じである。

 

 

p.14 ステイシー・E・ゴダード 大国間が競争しつつも協調するという説。これは19世紀の帝国主義復活論のようで、大国がそれぞれの植民地を争奪するのを互いに容認し合うというものらしい。

 

中露のような大国が、イデオロギー上や米国主導の秩序に対立すると考えるのではなく、米中ロが互いに協調し、中露を「潜在的なパートナー」として捕え、米中ロの「集団的利益」を守るために、中露が米と協力する。但し米中ロは互いに協調する親密な友人ではなく、競争は続ける。

真の敵は「無秩序」であることを互いに認識していて、その意味で三者間の対立は抑えなければならない。トランプの「協商ビジョン」では、中露は「無秩序」と「憂慮すべき社会変化」を鎮めるための同志である。米は中国と貿易で競争し続けるが、「内なる敵」(=不法移民、イスラムテロリスト、目ざめた進歩主義者、欧州型社会主義者、性的マイノリティら)を助けることを犠牲にしてはならない。=助けてはならない。

 大国は仲間の権利を尊重しつつ自らの野心を追求する。逆に、他者の権利を踏みにじることは秩序を維持するために容認されるとも言う。大国は世界に影響を与え、自由な拡張と支配を行い、その勢力範囲の境界線を区分する。これは19世紀の常識だった。

 ロシアがその安全保障のためにウクライナの領土を永久に掌握することを米国が許すことは合理的である中国が沿岸警備隊のパトロール回数を減らす代わりに、米がフィリピンから軍事力や兵器を撤去するのも合理的である中国が台湾を支配する場合、米国は身を引く。その見返りとして米国はカナダ、グリーンランド、パナマを脅しても、中ロが黙認することを期待したい

 

 

人民ピープルと民族共同体フォークとの違い 人民が個人主義であるのに対して、フォークは、生活様式を共にする家族・親族・民俗を重視し、啓蒙主義ではなく、共同体の価値観を重視する。

 

以上が前半、以下は後半

 

p.16 500年間の欧米中心の時代は終わりつつある。世界人口に占めるAALAの割合は間もなく9割になるだろう。経済活動の中心はアジアに移動しつつある。地域の多様な文化が認められるようになった。GSグローバルサウスは西側に追随しない。

 

P17 2050年にはグローバルサウスのGDPは米中を上回るだろう。(三菱総合研究所) 2024年の世界のGDPシェアはBRICS+が41.4%、G729%であった。

 

BRICS加盟国は11か国、ブラジル、中露印、南ア、エジプト、エチオピア、イラン、UAE、インドネシア。パートナー国が8か国、ベラルーシ、ボリビア、キューバ、カザフスタン、マレーシア、ナイジェリア、タイ、ウガンダ。その他34か国が加盟を希望している。

 

 BRICS+はドルの支配から独立しようとしている。

 

 

 グローバルサウスの加盟国は121か国、オブザーバー国は18か国で、国連の72%、世界人口の84%を占める。

 

 非核地帯も広がっている。中央アジア、モンゴル、東南アジア、南太平洋、アフリカ、ラテンアメリカ・カリブ海、南極などの非核条約が結ばれている。

 

 p. 22 AALA地域はロシアの侵略には反対だが、非同盟・中立である。南部アフリカ連合はロシア非難の押し付けに反対決議。

 

P22 AALAはウロ戦争に対してはどっちもどっちという考えであり、国連安保理の拒否権に反対。

 

 グローバルサウス(非西欧)は、国連総会でイスラエルに占領地域からの撤退を要求。賛成124、反対14。棄権5420249月)

 

 p.24 欧米支配から多極化へ チャンドラ・ネア(ナショナル・インタレスト202568日号)

 

1、ネットの普及で「植民地支配」の真実が明らかになり、西側優位の物語の終焉。

2、「法に基づく国際秩序」という考え方は、欧米による世界支配と覇権維持の道具である。

3、欧米による平和維持=軍事費と軍産複合体からの脱却。

4、欧米による金融の武器化に反発し、ドル依存が74%から47%に低下した。

5、欧米のマスコミに対する信頼性が崩壊し、「反中」「我々対彼ら」構図がその客観性を失った。

 

P24 これまで「GSは遅れていて欧米に啓蒙された」とマインドコントロールされていた。それは実は人権侵害と植民地支配だった。これまでの植民地支配に対する賠償を求めるべきだ。現にカリブ海諸国はイギリスに賠償を求めている。実に英人のジョンソンは「イギリスが南アから撤退したのは間違いだった」と述べている。

 

 

p.26  K・ミータ「グローバルサウスから見たウクライナ戦争」

 

1、欧米はGSの問題に冷淡だ。

2、植民地支配の反省がない。

3、ウクライナ問題は欧州の問題で、世界の問題ではない。

4、GSには欧米従属ではない他の選択肢がある。

 

 

 p.27 トランプ関税戦争の目的は、各個撃破してWTOの多国間体制を破壊し、米国の支配を貫徹することである。ルールを米一国で決めてそれを押しつけ、追随国をモデル化しようとしている。

 

しかし米の世界貿易シェアは15%にすぎず、中国より少ない。

 

中国、メキシコ、カナダは対抗措置を打ち出した。

南アのラマポーサ大統領演説2025.4.10「多国間貿易システムの強化は世界の責務である。」

マレーシアのアンワル大統領「ASEANの統一された地域戦線を提示し、開放的で回復力のあるサプライチェーンを維持し、ASEANの集合的な声が国際舞台で明確に聞かれるように取り組む。」

 

p.28 「ASEANは大国の代理人にはならない。」

 

P29 ラオスでは今でも米軍の不発弾で死ぬ人が多い。ラオスの某の日本での発言「武力は使わない、他国の悪口は面と向かって言わない。タイやベトナムの悪口は言わない。「共同してくれ」と大国に言われても、「私どもの国には力がないから大国とは共同できない」と答える。」

 

 

 

p.30 インドネシアのブラボウ大統領=かつてのブラボウ・スビアント国防相

 

ウガンダで19日非同盟首脳会議が開かれた。

 

ウロ戦争の原因 ウクライナの親EU派がNATOに入ろうとし、それに親ロシア派が反対した。

 

台湾の金門島ではすでに非武装運動を展開している。

 

問 中露イランがBRICSに入っているが、それらの力をなだめることはできるのか。

 

答 「中国は「必ず」覇権を求める」と米のウオーレンは言うが、本当に「必ず」か。その証拠はない。中国は中華民国になって初めて欧米流の主権国家になり、五族をまとめようとしたのであり、共産党になってから初めてチベットやウイグルを獲得しようとしたのではない。中国から見れば、東側を米軍が取り巻いていて、それは脅威であり、現在の中国の行為は防衛だ。

 

米が今後「平和的衰退」をするかどうかが問題だ。

 

自民は「消極的対米従属」から「積極的対米従属」に最近変質した。

 

YouTubeで自民の某が「日本は米にゆすられたかられている」と発言している。*

YouTube “Judging Freedom Napolitano Napolitanoは司会者。

 

米の州議会など地方議会では、社会主義を名乗る人が活躍し、議員となっている。連邦議員でも10人くらいが当選している。サンダースは今でも運動を展開しているが、報道されていないだけだ。シアトルやサンフランシスコには左派の人がいる。米議会でも共和党から離れて無所属に転じた人も多い。

 

 

感想 2025617()

 

講演者田中靖宏さんは、自分は研究者でもなく著書もないと謙虚だが、米国滞在が長いと見えて、米国など英語圏の書籍・報道をよく知っている。YouTubeの“Judging Freedom Napolitano”なども日常的に視聴しているようだ。

トランプ理論の背景となる米国内の潮流はどれほどの力を持っているのだろうか。それは19世紀の帝国主義理論そのものではないか。そんなものが世界の支持を得られるはずがない。欧州はこれまでの植民地支配を反省し、米国信仰から目覚めるべきだ。

 

 

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