2025年11月26日水曜日

荻野富士夫『検証 治安維持法』平凡社新書

 

荻野富士夫『検証 治安維持法』平凡社新書2024

 

 

序章

 

017 現在の政府は戦前の治安維持法を肯定する。恐るべき事実。それを法実証主義・実定法一元論というらしい。

 

2005712日、衆議院法務委員会で共謀罪法案審議中の南野(のおの)知恵子法相の答弁「治安維持法は戦前の特殊な情勢の中で、国の体制を変革することを目的として結社を組織することなどを取り締まるために、これを処罰の対象としていたものである。」

 

018 また安倍晋三政権下の201762日、衆議院法務委員会での金田勝利法相の答弁「治安維持法は当時適法に制定されたものでありますので、同法違反の罪に係ります拘留・拘禁は適法でありまして、また、同法違反の罪に係る刑の執行も、適法に構成された裁判所において言い渡された有罪判決に基づいて適法に行われたものであって、違法であったとは認められません」と、謝罪や実態調査の必要も否定する。

 

1941年の新治安維持法制定の中心となり「満洲国」刑事局長として「満洲国」治安維持法の運用に関わった太田耐造は、占領終結後の19527月、特高警察の行き過ぎがあったことは認めつつ、転向については「反共政策の具体的成功として誇ってよい」と公言した。

 

関之(いたる)は思想検事や経済検事の経歴を持つ男だが、1952年、公安調査庁総務部長として破防法の運用に当たり、『破壊活動防止法解説』1952の中で、「治安維持法その他の治安立法についての苦い体験を再び繰り返してはならない」と述べているが、それを丸山眞男は「信用できないのは当然だ」と皮肉った。(『法律時報』別冊19528月)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一章 治安維持法小史――施行から廃止まで

 

 

 

4 1930年代前半の運用

 

050 特高警察の習熟 警保局官僚の木下英一『特高法令の新研究』1932「特に社会運動の動向を適確に把握し、(治安維持)法の蔵する弾力性を筒一杯活用し、以て社会運動に節度を与えてその健全な発達を促し、社会運動の目図(もくと)する社会変化に秩序あらしめねばならぬ」

 

053 思想検事の習熟 東京地裁検事局がまとめた司法警察官向けの取調要領「思想事件聴取書作成上の注意」3311月の「日本共産党に対する認識」の中で、「党の存在及目的に関する認識並認識するに至りたる経路」に加えて「共産主義者としての意識水準信念の有無程度等を明らかにするため、特に所謂暴力革命の不可避性に対する認識議会主義に対する見解等に留意し取調をなすこと」

 

056 1934年の(治安維持法)「改正」案 司法省刑事局の司法書記官大竹武七郎は『思想犯罪取締法要論』1933の中で、「時々刻々急速に変化しつつある社会運動、思想犯罪を適切に取締り、思想犯罪を禁遏(あつ)し、社会運動をして矯激に亘らしめず、常軌を逸せざらしめるところに法律運用の妙がある」

 

057 19342月、治安維持法「改正」案が第65議会に提出された。それは処罰規定の拡大、厳重化、「刑事手続」の簡略化と予防拘禁(保護観察を含む)という新たな司法処分を含む。

 

1935年の「改正」案

 

059 政友会の高見之通「法律ばかり拵(こしら)えても、植民地なり台湾あたりの共産思想が相当跋扈横溢して行くことに対する対策位は、ちゃんと御持ちになって居らぬといかぬだろう」

 

 

5 1930年代後半の運用

 

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