2020年7月29日水曜日

満州事変をどう思うか 1931年、昭和6年11月号 「文芸春秋」にみる昭和史 第一巻 1988 要旨・感想

満州事変をどう思うか 1931年、昭和6年11月号 「文芸春秋」にみる昭和史 第一巻 1988

 

 

感想

 

 「五族協和」と言うが、その中に蔣介石は入っているのか。自分に都合のいいように、傀儡政権をつくってごまかしては駄目だ。また、日露戦争は自衛のための戦争で、満蒙の権益はその結果だと言うが、対華21か条の要求や5・4運動をどう考えているのか、そのことに関する言及が欠落しているのはなぜか。満州事変同様マスコミ操作によって、国民には知らされなかったのか。

 

感想

 

ショッキング。当時の人々の多くは、報道*によって嘘をつかれていたとは言え、日中どちらが先に手を出したにせよ、大きな方向性として、軍のやった行為を支持していたようだ。満州事変が中国先行の暴力から生じたという嘘がすんなりと通ってしまうような思考パターンだった。

「ロシアからの自衛」、「中国人は悪い」、「日露戦争で得た権益を守りたい」…

 

*新聞やラジオは「中国軍の不法なる攻撃に対し、権益を守るための自衛行動」と報道した。108

 

孫文や国民党の北伐を、日本人はどう考えていたのか。日本人は、日露戦争で得た権益の死守という観点しか持ち得なかったのだろうか。民族自決、国際協調、社会主義などのグローバルな視点は持ち得なかったのだろうか。

当時の日本人にとって国防とは対ソ連・ロシアを意味していた。

 

しかし幣原外交を支持する人もいる。

 

もし、満州事変が関東軍の陰謀だったという報道がなされていたら、国民はどう考えただろうか。幾分後ろめたい気分にはなっただろうが、それでも軍を支持したかもしれない。「ロシアの脅威に対する自衛」という観念が強い。10万人の戦死者を出し20億円の戦費を費やした日露戦争をやってからまだ25年しか経っていなかった。

 

 

要旨

 

108 美容術業 小坂巳之助 我が軍が支那の各地を占拠したことは、同胞として大変うれしい。ただ一点、我が声明書の発表が遅れたために事件の真相が分からず、「我が国が満洲に野心があるかのごとく」諸外国(欧米か)に思われたことは残念だ。満洲に対する「諸懸案」を平和的に解決されることを望む。(占拠したのに、野心はなく、「平和的に解決する」などとどうして言えるのか。)

 

海産物商 花野光成 満州事変の発生は遺憾だが、我が国の正当な権益擁護のため、満蒙諸懸案を解決し、将来の禍根を断つべきだ。

 

会社員 三浦白羽 日露戦争の意義は、満蒙に国防の第二線(第一線は朝鮮か)を獲得するためであった。国財20億円と10万の同胞を犠牲にして得られた自衛自給のための権益を一朝にして失うようなことがあれば、私たちは防衛手段を失い、安息を脅かされ、終には日本の存在を危うくし、「亡国」の憂き目を見ることは明らかだ。先般の日支の交戦は、この意義の現れである。満蒙における日支の交戦は、永久に我が権益を保持するための最後の決心である。

 

理髪業 原浦蔵 今回の日支衝突事件を穏やかに済ませず、再びこのような問題を中国が起こさないように、正義に強い日本人や日本魂の大なるを(中国に知らしめ)、卑怯な支那人が二度と日本人に手向かうようなことの出来ないように、ひどくとっちめてやりたい。

 

109 柴山啓一郎 今回の我が日本軍の行動は当然だ。それが失敗でも成功でも私は問題にしない。国家には生存の権利がある。(他の国家も同様のはずだが。しかし中国が攻めてきたと考えているからこう言うのも当然か。)人間に生存権があるのと同様に、我々は、国家の生存権のために、国を賭して強いロシアと戦った。我が国にとって、皇国の興廃は、この日露戦争にかかっていた。そして僅かだが満蒙の権益を獲得できた。世界の流行(民族自決か)に乗って、一挙にそれを蹂躙しようとする暴虐の行為に対して膺懲することは「神意」に叶っていて、人間の批判を超越している。(恐れ入りました。)

 蔣介石や張学良は、満蒙が自分の領土であるかのような顔をしているが、我が国のこれまでの努力がなかったならば、満蒙はロシアの領土となり、シベリアや北満と運命を同じくしただろうことは、歴史を勉強する以前に知ることができる。我が国がロシアと戦ったのは、自己生存のためだったが、満蒙の民をあの残虐なロシア人から救おうとする惻隠(憐れみ)の情からでもあったし、正義の観念からでもあった。それは単なる自己生存のためばかりではなく、満蒙民人と共存共栄の幸福を得るためでもあった。この公明正大の観念の下に獲得した権益が、理由なく掠奪されようとする場合、それに対して立たない国家があろうか。私は我が国家の先般の行動を是認したい。それは他のどの国家についても言えることだ。(憐れみだったら少しぐらい譲歩したらどうか。)

 

実業家 沢柳猛雄 日支衝突を肯定する。その理由は、一、日本民族自活権のため。二、三千万の満蒙在住中華民人の幸福のため。(こんなことがよく言える。)三、東洋と世界の平和を脅かす「禍根」を絶つためである。(蒋介石や張学良は禍根か。)「国運を賭しても」頑張ると中外に宣言すべきだ。

 

110 野口喜太郎 (満州事変に関する意見を求める)御端書ありがとうございます。私に意見を聞かせて欲しいとはもったいないことですが、何も申し上げることはありません。(なぜ、戦争や平和に関する重大事に関して、黙っているのか。それともすでに自分の意見を述べず、黙らざるを得ない状況だったのか。)ただ景気が好くなり、楽に暮らせるようになりたいものです。

 

東京市会議員 島本龍太郎 出来たことは仕方がない。禍を転じて福となす方法を考える他にない。私は幣原外交に多大の信認を払っている。幣原外相の大方針・大信念に基づいて行動されることが、最も我が国にとって有利であろうと思う。(幣原さんの1920年代の国際協調方針に賛成の人もいた。)

 

魚商 荒川仙吉 軍部の行動は少しも悪くない。罪のない邦人を虐殺し、か弱い女性を暴行する悪虐無道の支那人に対して、将来の「懲らしめ」のために、遠慮なく「制裁」を加えるべきだ。この機に、日本軍人の強さと立派な態度を海外に発揚すべきだ。

 

下宿業 松沢保 私の下宿の学生さんは皆、幣原外相を非難している。私も外相の行動は悪いと思う。日本国民全体の思想が、幣原外相の無能のために、世界に「誤解」されつつあることを悲しく思っている。

 

1931年、昭和6年11月号

 

以上 2020729()

 


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