2019年9月11日水曜日

武力紛争時における「人道に対する罪」の成立要件としての「広範な又は組織的な攻撃」――国際刑事裁判所規定の適用上「人道に対する罪」が「戦争犯罪」と重複する場合の検討を中心に―― 木原正樹 メモ



武力紛争時における「人道に対する罪」の成立要件としての「広範な又は組織的な攻撃」――国際刑事裁判所規定の適用上「人道に対する罪」が「戦争犯罪」と重複する場合の検討を中心に―― 木原正樹

はじめに115から第一章「人道に対する罪」と「戦争犯罪」の適用範囲の重複原因 第1節 ニュルンベルグ条例における「人道に対する罪」と「戦争犯罪」124までからの抜粋


「人道に対する罪」と「戦争犯罪」の構成要件から見て、両罪の適用範囲は大きく重複している。117

しかし、国際刑事裁判所規に関するローマ条約1998(以下、国際刑事裁判所規定とする)第31条は、財産の防衛が、違法性阻却(違法性を免れる)事由を構成する余地を「戦争犯罪」に限って認めており、また、同規定第33条は、上官命令が犯罪の責任阻却事由となりうることを「戦争犯罪」に限って認めている。118
 旧ユーゴ国際刑事裁判所上訴審裁判部の多数意見は、Erdemovic’の行為は「人道に対する罪」に区分されるとした。118

 ニュルンベルグ国際軍事裁判所は、1939年以前の行為が、ニュルンベルグ条例の意味で、「人道に対する罪」に該当するという一般的宣言をすることはできない、とした。(ニュルンベルグ国際軍事裁判所の「一般的考察」における、戦前および戦時中のドイツ国内での国民、特にユダヤ人に対する迫害に関する見解)121

 実際のニュルンベルグ国際軍事裁判において「人道に対する罪」又は「戦争犯罪」で有罪とされた18名の内、14名が両罪で有罪とされた122 (その他に「平和に対する罪」関連の犯罪人などがいたと思われるが、ここでは記述されていない。)

 Aroneauは、「戦争犯罪とは、戦争中に、戦争法および戦争慣例の確立された法規に違反して実行された「人道に対する罪」に他ならない」と主張する。この主張は、戦争中に、戦争法及び戦争慣例の確立された法規に違反して行われる非人道的行為は、「戦争犯罪」に該当すると同時に、「戦争犯罪」に「関連して」行われる「人道に対する罪」にも該当し、両罪ともニュルンベルグ国際軍事裁判所の管轄権に含まれるという解釈を根拠として行われている。123

 ニュルンベルグ国際軍事裁判において「人道に対する罪」または「戦争犯罪」で有罪とされた18名のうち、4名は、どちらかの罪でしか有罪とされなかった。そのうち、StreicherSchirach二人は民間人であり、敵対行為には関与せずにユダヤ人に対する迫害などに関与したために、「戦争犯罪」では起訴されず、「平和に対する罪」と「人道に対する罪」で起訴され、「人道に対する罪」のみで有罪とされた123

 加害者の属する枢軸国国民に対する殺人、殲滅、奴隷化、強制的移送もしくは迫害といった、「戦争犯罪」の適用範囲に含まれない非人道的行為を処罰できるようにしたことが、ニュルンベルグ条例上「人道に対する罪」が別個の犯罪とされたことの最大の意義である、といわれる。

 その他のDonitzRaeder二人は、海軍の司令官であり、戦争法に反する敵対行為を指揮したものの、ユダヤ人に対する迫害には関与しなかったために、「人道に対する罪」では起訴されず、「平和に対する罪」と「戦争犯罪」で起訴され、両罪で有罪とされた124

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